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第3話 心の欠片『フライドチキン』『豚の角煮』①

お待たせ致しましたー

 フライドチキンに角煮。


 どちらも味付けが濃いものばかりだけど、パーティーなら嬉しい品々だ。


 どんな風に出来るのか、美兎(みう)は楽しみで仕方なかったが。火坑(かきょう)が次々と出してくる材料の多さに圧倒しそうになった。



「火坑さん、そんなにたくさんの材料が必要なんですか?」



 美兎が聞くと、火坑は涼しい笑顔になった。



「ふふ。ファストフード店も驚きのフライドチキンを作るためです。材料が取り揃えれば意外にも簡単に出来てしまうんですよ?」

『おお!!』

『わあ!!』



 入社した当初は、美兎も自炊が面倒になってファストフード店に頼りがちでいたが。火坑に出会い、手製の料理の優しさに触れてからは。真穂(まほ)が守護についてからも、ほぼほぼ手料理を作るようにしている。


 だから、こう言うジャンキーな食事は実に久しぶりだ。


 パーティーだから、と、最初は生ビールで美作(みまさか)達と乾杯したが。全員が全員、火坑の調理に目を奪われていた。


 大量のスパイスらしき缶に、二種類の粉。あと、塩胡椒に牛乳などなどなど。フライドチキンと、唐揚げの違いを明確にわかっていない美兎にとって、揚げ物と言うのは下味をつけたら粉にまぶして揚げる物だと思っていた。



「……俺。普段から自炊はあんまりやんないけど……ここに来るたびに驚くんだよね?」



 美作辰也(たつや)が、ジョッキのビールを半分くらい飲んでから、そう呟いた。



「私も、大袈裟なのはしないですけど……」

「えー? けど、俺よりはしてそうなイメージがあるなあ? それに、火坑さんと恋人になったんだったら尚更」

「はい?」

「将来的に、結婚したら……ここの若女将さんとかにならないの?」

「ハードル上げないでください!?」



 素でさらっとそう言うことを言うのだから、時々辰也が天然かと思ってしまうのだが。このお人好しな先輩は、あくまで本心から言っているのだろう。余計に質が悪い。



「ふふ。その楽しみは当分先ですよ」

「火坑さん!?」



 計量をしている火坑も乗るのだから、美兎に逃げ場はない。真穂は我関せずと、生ビールをごくごくと飲んでいるし。辰也の守護についているかまいたち三兄弟も同じく。



「ふふふ。とりあえずフライドチキンには、唐揚げで作るような衣を……水分が多いのとスパイスを調合したものと二種類用意します」



 美兎から取り出した、骨付き鳥もも肉の心の欠片。とても大振りで、ここにいる人数分は取り出せたのだが。どんな仕上がりになるか楽しみだ。


 計量したスパイスや粉の入ったバットと、牛乳で溶いた粉の液が入ったバット。火坑は先に液体の方に肉を漬け込んでいく。


 その後に、スパイスの方へ躊躇なく入れて、先に付けた衣が見えなくなるまでまとわせた。



「味付けは、後の粉が決めてなんですね!」

「それだけでなく、バッター液と呼ばれる先につけた衣にも塩味をつけています。肉にいくつか穴を開けてあるので、そこに塩が染み込んでいく寸法です。あとのシーズニングと呼ばれるスパイスは口に入れた時に感じるためですね?」

「わあ!」



 そうして、すべて準備が整ったら油の鍋に入れて揚げていくと思いきや。


 もう一つ、辰也から取り出した豚の厚切りの肉を使って角煮を作るらしい。しかも、炊飯器で。



「あら、時短は圧力鍋じゃなくて?」

「ふふ。家庭らしい料理に仕上げるのであれば。今日くらいは少し楽をさせていただきました」



 先に作ってたらしいゆで卵。カットしたブロック肉は焼き目をフライパンに入れて。それと調味料に青ネギの太いところと生姜のスライス。


 それらを、炊飯器に入れたらポンと押すだけ。だが、いくら早炊きでも30分以上かかるのでは、と美兎が思ったのだが。


 火坑が、ストップウォッチをなぜか棚から取り出したのだった。



「それは……?」

「ふふ。人間の皆さんにはあまりお目にかからない、妖術を今回お見せ致しましょう」

「よーじゅつ?」

「火坑さんや、妖の皆さんが使える魔法みたいなものらしいです」

「へー? あ、俺と奈雲(なくも)達が契約したのも?」

「そー」

「で」

「やんす!」

「契約の儀だけどねー?」

「では、スタート!」



 と、火坑はストップウォッチを押しただけなのに。


 一分もかからずに、炊飯器が炊き上がりの合図を鳴らしたのだった。


次回はまた明日〜

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