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第8話『イノシシの角煮とワイン』

お待たせ致しましたー

「おめでとう!!」

「おめでと!」

「祝いよん! おめでとう!!」

「おめっとさん!」



 |楽養で猫人の火坑(かきょう)とお付き合いすること、兼彼自身の誕生日パーティーをすることになり。


 祝われる美兎(みう)と火坑は、狐狸(こり)宗睦(むねちか)が作ってくれたウェルカムドリンクの後に、持ち込みのシャンパンで祝杯をあげてもらった。



「あ、ありがとうございます」

「皆さんありがとうございます」

「なに、お前さん達の祝いだ。頼まれたからには、こっちは盛大に祝うぜ?」



 と言いながら、黒豹の霊夢(れむ)が大型冷蔵庫から取り出したのは。脂が凄い、肉の塊だった。



「おや、師匠。今日は牡丹鍋を披露してくださるんですか?」

「んー? お前さんらのリクエストを聞いても良かったが。任されたしな? 猟のシーズンだし、伊豆から仕入れたぜ?」

「伊豆……静岡からですか?」

「おう。別で角煮とかも作ったから、すぐに出してやるさ。蘭、頼んだ!」

「あいよ」

「大将! 俺も手伝う!」

「お前もある意味祝われる側だろ?」

「けど、花菜(はなな)も仕事してるし」

「んじゃぁ〜? あたしのとコラボしましょうよん? カクテルに合うピザとか」

「お、いいな?」



 と言うわけで、美兎と火坑以外てんやわんや状態になったのだが。不思議とゴタゴタしていない。妖ではあるけれど、ここにいるのは料理人に接客のプロ。


 客に違和感をもたせない心意気など、お手の物なのだろう。専門外ではあるが、美兎もその気遣いは見習わなくては、と思えた。



「ほいよ。まずは、あったかいもんの一つだ」



 狼頭の蘭霊(らんりょう)が出してくれたのは、霊夢が言っていた角煮だそうだ。しかも、今調理している牡丹鍋用のイノシシ肉とはまた違う部位らしい。


 贅沢、贅沢過ぎると思わず凝視してしまうくらいだった。


 照り、艶、湯気に肉の存在感。


 イノシシの肉で、角煮どころか肉自体を口にするのが初めてなので。思わずよだれが垂れてしまいそうになった。



「ふふ。美兎さん、冷めないうちにいただきましょう?」

「あ、はい!」



 見惚れ過ぎだろうと我に返ったところで、ひとつ気づいた。


 何故、真穂(・・)まで不格好な割烹着を着て手伝っているのだろうか。


 調理補助くらい出来るのは、半同居に近い美兎の自宅での生活でよく知ってはいるのだが。真穂に視線を気づかれると、彼女はくすりと笑ったのだ。



「真穂の気まぐれ、って言うのは聞こえが悪いけど。目でたいことじゃない? たまには、こう言うのをしてみたいと思ったわけよ」

「そうなの?」

「ま。思ってた以上に手際がいいし、うちじゃ大助かりだ。花菜も見習えよ?」

「は……はい」

「ほらほら、角煮冷めちゃうから食べなよ?」

「あ、うん!」



 箸で肉を割ると、圧力鍋を使ったかのようにすっと肉の繊維がほぐれて。まずは、辛子もつけずにひと口頬張れば。


 夢のような心地よい、脂と肉の層が口いっぱいに広がっていった。加えて、外の寒さを忘れるような暖かさ。



「さすがは、先輩に師匠です」

「おうよ。おめーに負けるつもりは毛頭ねぇしな?」

「これ、ご飯が欲しくなります……!」

「おう。白飯勧めたかったが、祝いってことで牡蠣の炊き込みご飯作ったんだ。キノコじゃないから、お嬢さん食えるだろ?」

「牡蠣!? カキフライとか大好きです!」

「おっと。焼き牡蠣もする予定だったが、そうくりゃフライにしてやんぜ?」

「きゃー!」



 火坑の誕生日なのに、火坑の誕生日なのに。


 美兎との交際のお祝いでもあるから、もう無礼講。


 なんでもありのパーティーとなってしまっていた。



「さて。角煮を堪能しているお嬢さんと紳士さん? ワインだけど、ボジョレーかピノノワール。どちらになさいます?」



 辛子で角煮を食べようとした時に、宗睦が見た目通りのバーテンダースタイルでオススメを並べてくれた。


 日本酒でも紹興酒とかではなく、ワインとは。とてもお洒落な組み合わせだと思った。



「甘めがお好きな美兎さんには、ピノノワールの方がオススメですが」

「ボジョレーって、毎年11月解禁とかで聞きますよね?」

「ふふーん。ヌーヴォじゃないけどぉ、中華料理に使うスパイスを製造の際に加えることがあるのよん。甘めではあるけど、ピノノワールよりはどっしりしてるわねん? 火坑(きょー)ちゃんはボジョレー?」

「そうします」

「じゃ、じゃあ、私はピノノワールで」

「かしこまりました」



 そして、どこからか出した専用のワイングラスに注がれていくワインを。


 宗睦がそれぞれ置いてくれてから、無礼講なので火坑と軽くグラスをかち合わせた。


次回はまた明日〜

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