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第4話 一目惚れから

お待たせ致しましたー

 初めて、だったと思う。


 女性に対して、こんなにも緊張するのは。


 今まで、人化の美貌に言い寄られてきたのはしょっちゅうあったが。自分から、相手に好意を持つだなんて、がしゃどくろとして生まれてこの方一度もなくて。


 だから、今隣に歩いている可憐で美しい、『人間』の女性に対して、どう話せばいいのかわからないでいた。


 合歓(ねむ)は妖の一部ではプレイボーイとまで言われているのに、かたなし状態だ。


 これが一目惚れなのか、と思わず自分で感心してしまうくらい。


 すると、横からくいくいと袖を掴まれたのだった。



「うん?」

「あ、あああ、あの、合歓、さん!」



 気づいていなかったが、彼女──笹河原(ささがわら)秋保(あきほ)の顔色はとても青白かったのだ。



「ど、どうしたんだい!?」

「す、すみませ……ん! 忘れてたんですけど、ここ妖怪のいるとこだって!!?」

「……ああ」



 たしかに。界隈だと人化しているかしていないかは個人の自由。合歓とて、本性のがしゃどくろで気味悪がられてしまうから、人化するくらいなのに。


 妖の姿でうろつく連中を、怖いと思う秋保の気持ちもわからなくもない。だが、自分はその怖い部類にはいるのに。


 知り合ったばかりだからか、頼ってくれた。不謹慎だが、少し嬉しく思えた。



「ね、合歓さんも妖怪だって……頭ではわかっているんですけど。かっこいいし……優しいし、ちょっとだけ安心出来るんです」

「……笹河原さん」



 本性を知れば、きっと離れていくだろう。


 けど、それでも。


 出会ったばかりの、この女性の手を離したくはないと思ったのだ。本気で。


 これが一目惚れの力なのか、と合歓は過去に言い寄られてきた女性達の言葉を思い返したが。妙に、納得出来たのだった。



「へへ。一応大人なのに、ダメダメですね……?」

「……ダメじゃないよ。怖い思いたくさんしてきたんだろ? 俺も怖い対象なのに、頼ってくれて嬉しいよ」

「!……ほんとですか?」



 合歓が正直に言うと、俯いていた秋保の輝いた顔が見れた。


 その眩しさに、また心臓がドキドキと高まっていくが、がしゃどくろでも人化すれば一応は臓器が存在するのだ。


 それはどうでもいいとして。


 秋保の破壊力がある笑顔に、合歓はさらに気持ちを鷲掴みにされた気分になったのだ。



「お、俺は……妖だけど。怖いと思うのに、人間とか妖とか関係……ないと思うよ。けど、俺の本性は怖いだろうから見せれないけど」

「!……合歓さんってどんな妖怪さんなんですか?」

「……俺の話聞いてた?」

「個人的な興味です! 合歓さんが知ってる人? 妖怪さんですから、怖くないかなって」

「ぷっ! どんな根拠?」



 ああ、いつ以来だろう。


 駆け引きのない、他愛もない会話を女性とするのは。身内以外では久しぶりかもしれない。


 彼女になら見せてもいいかと思いかけたが、やっぱり怖がられたくないので。


 まずは、口頭で言ってみることにした。


 歩きながら、界隈の手順も教えつつ。



「で、どんな妖怪さんなんですか??」



 と、可愛らしく聞いてくれたので、合歓も勇気を出して言うことにした。



「……えっと。がしゃどくろ言うのなんだけど」

「……どくろ?!」



 絶対引くだろうと言ったのだが、反応は真逆で。


 何故か、好奇の目の光が強くなっていくような気がした。



「…………骨だけのバカでかい妖怪だけど」

「ってことは、和風スケルトンですか!? リアルに!!?」

「……あれ。怖くないの?」

「ゾンビとか、ゴーストは苦手ですけど。スケルトンは大好物です!!」



 ほら、と秋保が携帯を取り出したのだが。


 ゴテゴテのヘビメタで、たしかにスケルトン満載の絵柄で統一したケースに、ジャラジャラしたアクセサリー。


 可愛らしい容姿とは真逆に、結構ゴツい趣味だったのだ。服装は、社会人らしくOLの装いではあるが。



「……え? 骨だけは平気なの?」

「一応骨だけですね」



 少々鼻息荒く言い切る様子まで、可愛らしい。


 ああ、こんな彼女になら。


 己の本性を見せてもいいんだ、と心底安心出来たのだが。


 彼女にしたい欲望は抑えて、まずはLIMEの連絡先を交換するのだった。


 そして、安全な界隈の入り口まで送り届けてから、また楽庵らくあんに戻ろうと決めた。どうせバレているだろうが、先に恋人が出来たあの猫人に報告するためにも。

次回はまた明日〜

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