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第2話 笹河原秋保①

お待たせ致しましたー

 骨だけの妖。


 ファンタジーだと、スケルトンとも言われるような。


 本当に、そんな妖がいるだなんって思わず。


 けれど、この世界に行き来しているだけで、十分ファンタジックを満喫していたな、と美兎(みう)は思い直した。


 そして、ことごとく振られまくっていると言う『がしゃどくろ』の合歓(ねむ)。酒を浴びるように呑んでいたせいか、今は少し酔って寝そうになっていた。



「いいな〜……いいなぁ。大将さんは、美兎ちゃんみたいに可愛くて良い恋人出来てぇ」



 船を漕ぎ始めてもいるが、声をかけられた火坑(かきょう)は料理をしながらにっこりと笑うだけだった。



「これ以上、料理以外はお出し出来ません」

「うぇ〜……いーいじゃぁん?」

「少し前の僕の話聞いていましたか?」

「けど、飲みたいんだもーん」



 妖の人化ゆえに、整った顔立ち。


 イケメン以上に美形。


 けど、美兎には火坑が見せてくれた響也(きょうや)の美形バージョンがあるので、当然比較してしまうが。


 それでも、眩しい程の美形の本性が骨だけだとわかると。人間もだが、妖でも怖いものは怖いだろう。美兎は、少しだけ火坑が猫人でよかったと安心してしまった。



「でも、お酒の飲み過ぎは良くないと思いますよ? 明日に響いちゃ大変ですし」

「うう……美兎ちゃん優しい。大将さん、すごい! こんないい子どこで見つけたの〜!?」

「見つけたと言いますか……」

「……私、が飲み過ぎて界隈に迷い込んでしまったので」



 助けてもらった、と続けようとしたら。引き戸が開いたのだった。



「ここなら……あ、あれ!?」



 入ってきたのは、女性。


 しかも、妖という雰囲気ではなく人間の女性に見えた。


 そして、美兎と目が合うと、ブワっと言う勢いで涙を流したのだった。



「やっと、人間さんだ!! やっとおんなじ人がいたああああ!?」



 のっぺらぼうの芙美(ふみ)のようなふわふわした雰囲気なのに、行動的なのか。美兎にそう言うなり抱きついてきた。



「え……えっと?」

「ここどこ!? 異世界!? パラレルワールド!? 私どこに来ちゃったんですか!?」

「お、おおお、落ち着きましょ? とりあえず座りましょう??」

「ふぁい〜〜……」



 とにかく、話を聞くためにもと。彼女を美兎の隣に座らせた。だいたいの事情は分かったが、どうやら知らない間にこの界隈に迷い込んだ感じだ。



「私は湖沼(こぬま)美兎です。あなたは……?」

「え、えっと……笹河原(ささがわら)秋保(あきほ)と言います。……ちょっと、近道しようとしたら。変な人達がいるとこに迷い込んじゃって」

「ここは、妖達が暮らす界隈と呼ばれている異空間です。笹河原さんは、手順を踏んで迷い込んでしまったのでしょう」

「ね、猫!?」

「僕は火坑と言います。ここの店主です」

「てん……ちょーさん?」

「ええ」



 お茶を出されたが、秋保は最初じーっと見つめていたけれど、喉が渇いていたのかゆっくりと飲んで息を吐いた。



「おいしー……!」

「しかし、手順を踏まれたとは言えこの辺りまで来られるとは。笹河原さんには見鬼(けんき)の才能がおありかもしれないですね?」

「けんき?」

「僕やここいらの妖……えっと、妖怪などを視ることが出来る才能ですよ。こちらのお客さんは視えますか?」



 と、さっきから一言もしゃべらない合歓を見ると。ぽかーんと口を開けていたのだった。


 まさか、と美兎はもう一度秋保を見た。


 もちもちと柔らかそうな白い肌。


 艶々プルプルの唇。


 リスのように大きな可愛らしい目に手入れされた眉。まつ毛はつけまつ毛を装着していないようだが、それでも長い。


 髪は染めているのか茶色だが、それでも柔らかそうで。


 いわゆる、守ってあげたい感じの女性だ。歳までは聞いていないが、合歓に比べたら美兎より歳上だとしても子供同然だろう。


 それでも、合歓はいわゆる一目惚れをしてしまったようだ。



「え!? こっちのイケメンさんも妖怪!?」

「お、お、おう。……一応、だけど」

「ぜーんぜん、見えないですぅ!? こんなカッコいいのに……」

「そ、そうかな?」



 完全に一目惚れ。


 ちらっと、火坑に目配せしたら、苦笑いされてしまった。


 とここで。


 秋保から、可愛らしい腹の虫の音が聞こえてきた。



「……ご飯まだでした」

「では、ここで食べていかれませんか? 御伽話にあるような、食べたら元の世界に戻れませんとかはないので」

「ほんとですか!?」



 というわけで、秋保は客の一員になったわけである。

次回はまた明日〜

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