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第3話 楽養との出会い②

お待たせ致しましたー

 びっくりして、びっくりし過ぎて。


 火坑(かきょう)に支えてもらわなければ、絶対失神していただろう。


 あわあわしていたら、黒豹の店員がからからと笑い出した。



「おい、火坑。随分と可愛らしい嬢ちゃん連れてきたじゃねぇか? お前のこれか?」

「師匠……お嬢さんに失礼ですよ? 通りで少しぶつかったんです。で、お腹が空いていらっしゃったので」

「連れてきたってわけか?」

「……雪女、か?」



 狼のような見た目の妖に、正体を見抜かれた。雪女の格好や本性を見せていないのに。まだまだ妖としては子供の花菜(はなな)には、相手の正体を察知する能力はほとんどないのだ。



「あ……は、はい。雪女……の花菜、です」

「驚いただろう? 俺は、霊夢(れむ)っつーんだ」

「俺は蘭霊(らんりょう)だ」



 人間じゃないから、風貌の恐ろしい妖は多いのは当然だが。


 よくよく見ると、動物の顔立ち以外は整っているように見えた。同級生の女子達が知ったらはしゃぐくらい。


 とりあえず、カウンターに座るように言われたので、ゆっくりと腰かけた。そして、鞄から薄い布で出来た手袋を出してはめたのだ。



「お? 凍結防止の手袋か?」



 霊夢は知っていたようで、お茶を出してくれる時にしきりに頷いていた。


 雪系の妖は、肌で直接触れた相手や物体に直接氷の妖力を伝わせてしまうのだ。年月が経てばコントロールは可能だが、まだまだ子供の花菜には到底無理だ。


 だから、妖力遮断の手袋をはめれば普通に飲食が出来るのである。


 冬も始まったばかりだが、雪女でも温かいお茶はありがたかった。



「腹減ってんだろ? うちは和食がほとんどだが、お嬢ちゃんくらいなら人間が好む『洋食』の方が好きか?」

「え、えっと……お品書き、は?」

「基本的に、ないな? 好き嫌い聞いてから、俺達のおまかせで作るのが多い」

「じゃ、じゃあ…………青えんどう……がなければ、大丈夫です」

「んじゃ、豆ご飯はダメだな? 蘭、卵系頼んだ。火坑は夕方の仕込みの続き」

「おう」

「はい」



 花菜が青えんどう、後のグリンピースと呼ばれている大豆に似た豆が嫌いなのは。薄皮の部分と中身のぱさぱさ感が口の中で不快に思うからだ。大豆は平気なのだが、青臭さが目立つグリンピースはどうしてもダメで。


 まず、霊夢が出してくれたのは芋の煮っ転がしのような小さな器だった。



「ほら、まずは里芋の煮っ転がしだ」

「……いただき、ます」



 箸で落とさないように持ってから、ひと口。


 冷めてはいるが、ほっくり感に甘辛い味が花菜の好みだった。お腹が空いていたので、思わずぱくぱくと食べてしまうくらいに。



「おいおい。そんな腹減ってたのか?」

「おいひい……美味しい、です!」

「はっは。焦りなさんな? まだまだ料理はあるぜ?」



 と、次々に出てきたのは。野菜の天ぷらにだし巻き卵。青菜の胡麻和えに寒天菓子。


 どれもこれもが華美ではないが、しっかりとした味付けで花菜の胃袋を満足させてくれた。


 そして最後に。ほうじ茶でひと息をついている頃には、花菜はもう決めていた。



「あの……霊夢さん」

「ん?」



 断られるかもしれない。けど、花菜の決意は揺らがない。



「どうしたら、私も……このお店で働けますか!?」

「は?」

「へ?」

「おや」



 花菜の決意に最初は全員驚かせてしまったが。


 少し間を置いて、霊夢は口端を上げながら笑い出した。



「そうだな? 半分はここで皿洗い、あとはせっかくこの時世だ。そう言う料理の学舎にも行ってみろ」



 と言われたので、花菜は彼の言う通りに実行して。数十年後の今も楽養(らくよう)に勤めているわけである。

次回はまた明日〜

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