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第7話 心の欠片『アボカド創作料理』②

お待たせ致しましたー

 ピザとグラタン。


 女子なら当然迷ってしまうだろう。


 美兎(みう)は少し気恥ずかしく思いながらも、料理が出来るまで火坑(かきょう)と待っていた。


 人間界の店なのに、他に客がいないのは不思議だったが。少し入り組んだ道の先にあるので迷っているか。もしくは、一つ目小僧兄弟の術か何かで引き寄せないようにしているのか。


 だとしたら、随分と贅沢な時間だ。



「えーと、美兎はん?」



 蕎麦茶を飲みながら、ぽーっとしていたら兄店主の朔斗(さくと)に呼ばれたのだった。



「あ、はい!」

「いや〜、火坑はんが随分とかいらしい嬢ちゃん連れて来るって、びっくりもんやで? こっちまで噂で聞くくらいやしなあ?」

「噂……さっきも言ってましたよね?」

「おん。元獄卒……いや、補佐官やった猫人に。かいらしい嬢ちゃんが伴侶になったとか。ま、伴侶は尾びれついたようやけど」

「美兎さんには、まだまだこちら側に引き込むわけにはいきませんから」

「せやなあ? まだまだ若いし、人間界の生活を謳歌したいやろうね?」

「……はい」



 新人のタグは外れても、まだまだ社会人としては新米だ。


 仕事も楽しいし、火坑と本当の意味で結ばれたら。美兎は人間ではなくなってしまう。


 今も半分くらいは人間ではないが、妖が視えたり、簡単な術が使える程度。


 火坑の気遣いも嬉しいが、まだ人間ではいたいのだ。



「……先にピザが出来ました」



 話込んでいたら、弟店主の弥勒(みろく)がピザを持って来てくれた。


 ピザとは聞いたが、普通のピザではなくて。


 生地が、油揚げだった。



「わあ!」

「油揚げでピザですか?」

「意外と人気やで? 人間の料理人達でもちょいちょい作るんや」

「味付けは……味噌とマヨネーズです」

「いただきましょう、美兎さん」

「はい!」



 箸で持てるように綺麗に切り分けられた油揚げピザを。


 アボカドが落ちないように持ち上げて、ひと口。


 少し火が通ったことで、ほくほくのアボカドに味噌マヨとチーズのコク。


 さらに、土台になっている油揚げのサクサク感が、歯を楽しませてくれる。


 普通のピザのようにモチモチ感と食べ応えはないが、これはこれで小腹を満たすには十分だった。



「いいお味ですね? アボカドの火加減は好みが分かれますが、これは美味しい!」

「時々来る人間のお嬢さん方にも、具材を変えて提供してるんや」

「低糖質で高タンパク……油抜きも多少して、います」

「全部手製とまではいかないけど、知恩院(ちおんいん)さん下ったとこの豆腐屋から仕入れてるんや」



 こだわりがすごいのだろう。


 感心していたら、 朔斗が話しながら作っていたグラタンの方を持ってきてくれた。


 アボカドを半玉丸ごと使ったグラタンは、見た目でも十分楽しませてくれる。少し先がとがったスプーンを二人分用意してもらい、美兎からすくい上げれば。



「あ、ジャガイモも……マヨネーズ……?」

「ちゃうで? 俺手製のホワイトソースや」

「すごいです!」



 ひと口頬張れば、たしかにホワイトソース。なめらかで、アボカドのコクと喧嘩していない。


 とても優しい味わいだった。


 ごろっとした具材は、ジャガイモの他にサーモンが入っていた。燻製したものを使っているのかと、独特の塩気とスモーキーがまたなんとも言い難かった。



「……心の欠片をいただいたので、こちらよかったら」



 と、弥勒が出してくれたのは、炊き込みご飯だった。


 きのこ類がなくてほっとしたが、いただいたそれは魚の炊き込みご飯。味付けは上品より濃いめだったが、なんの魚かは分からなかった。



「鯛ですか? わざわざいいんですか、弥勒さん?」

「……至高の心の欠片をいただいたんだ。これくらい」

「せやな? この種だけでも相当な吉夢がある。これ一個でうちの店ひと月分の儲けや」

「そ、そんなに!?」



 だから、火坑も懐が潤っているのだろうか。


 とりあえず、美味しいランチをいただいてからレンタル着物屋さんに向かい。


 着替えてから、今度は京都の(にしき)に出向くことになった。

次回はまた明日〜

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