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第3話 北野天満宮①

お待たせ致しましたー

 人混みが凄い。


 火坑(かきょう)の手をしっかり繋いでいないと、はぐれてしまうかもしれないくらいに。


 火坑も気をつけてくれているので、美兎(みう)も気をつけた。



「すごい人混みですね?」

「ええ。……ああ、結婚式もあるからですねえ?」

「え?」



 美兎の背丈だと見えないが、そこそこ背の高い火坑には前が見えているのだろう。


 ゆっくり進んでいくと、たしかに白無垢の姿が見えた。


 綺麗に着付けられ、化粧も美しく施された花嫁は、ひときわ輝いている気がした。


 何せ、一世一代の大切な日だから。



「……美兎さんは白無垢とドレスだとどちらがいいですか?」

「へ?」



 夢中になって眺めていたら、火坑が突然話しかけてきた。


 いきなりのことに驚いたが、火坑は涼しい笑顔のままだった。



「美兎さんでしたら、どちらもきっとお似合いでしょうけれど」

「い、いえ、その……」



 まだ当分先とは言え、火坑とはある意味結婚の約束をしているのだ。聞かれても、なんら不思議ではない。ないのだが、やはり気恥ずかしさはどうしても出てしまう。



「ふふ。まだ先ですからね?」

「そうだとも。響也(きょうや)、年頃のお嬢さんをあまり困らせてはいけないよ?」

「!?」

「おや」



 いつからいたのか、この神宮の祭神である道真(みちざね)本人がいたのだ。火坑と似たような黒をメインにした着物を着ていて、髪型などもスーツ姿の時と変わらず。


 ただ、どう呼べばいいのか、美兎にはわからなかった。



「ふふ。……この姿の時は、『(まこと)』と呼んで欲しいな?」

「! は、はい!」

「ふふ、そうさせていただきます」

「こ、こんにちは!」



 挨拶を忘れていたので、慌ててお辞儀すると道真にぽんぽんと頭を撫でられた。



「やあ、こんにちは。今日はいつも以上に愛らしい装いだね?」

「あ、ありがとうございます!」

「美兎さんが愛らしいのは本当ですから」

「も、もう、響也さん!」



 恥ずかしくなって俯くと、また道真に頭を撫でられた。



「さてさて、(やしろ)で神主から施されるのもいいが。約束は約束だからね? 私が直接、君達の(えにし)を……強めてあげよう」



 道真が持っていた扇子を広げた途端、空気が張り詰めたような気がした。


 辺りの人混みとかの喧騒も遠ざかり、音という音が聞こえなくなっていくような。気がつくと、人混みどころか、天満宮にいるのは。


 美兎、火坑、道真だけだった。



「え、え!? これは……?」



 もう何度か見ても、他には誰もいなかったのだ。


 二人を見ても、にこにこ笑ってるだけで。



「私の結界の中に、君達二人を招待したのさ。さすがに人前で術を見せるわけにはいかないからね?」



 そして、パチンと、扇子を閉じていくと。


 道真は最初に出会った時のような、平安貴族そのものの服装に変身、いや戻ったのだった。

次回はまた明日〜

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