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第2話 菅公再来

お待たせ致しましたー

 風の噂で聞いた。


 あの飼い猫だった妖が、恋仲を連れて京の都に来るのだと。


 妖もだが、神々での噂は広まるのが早い。


 北野天満宮で、主神である菅原(すがわらの)道真(みちざね)はその噂に耳を傾けていた。



「京に来るのか、火坑(かきょう)?」



 道真に知らせて来ないと言うことは、本当に気まぐれで訪れるだけかもしれない。


 あの可愛らしい美兎(みう)と言う女性を連れて京に来る。春の小旅行かもしれない。いい時期だと思う。


 太宰府(だざいふ)に左遷され、朽ちて、また怨霊として京に戻って来てから天満宮に祀られ。


 今では学問の神だのなんだの言われてきたが、元飼い主であった道真にもまた会いにきてくれるかもしれない。


 しょっちゅうではないが、また名古屋に行くのもいいかもしれない。


 少し驚かせに行くか、と。眷属に留守を任せてひとっ飛びで名古屋に到着した。


 界隈に滑り込めば、相変わらず賑わっていた。京の都も魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)しているが、ここはまた違う賑わいだった。


 騒がしいが、苦に感じない。それが土地の気質とも言うかもしれないが。


 とにかく、楽庵(らくあん)に向かえば。気配を感じた。あの美兎と座敷童子の真穂(まほ)


 真穂には少々煙たがられているが、まあ仕方ない。装いを以前のように今風の人間に寄せて変化して。


 引き戸を開ければ、やはり彼女達がカウンターに座っていた。



「受け狙いで、ラムネ味とかの八つ橋はありなんじゃない?」

「あ、いいかも。食べたことないけど」

「試食で食べれば?」

「あるかなあ?」

「ふふ。邪魔するよ?」



 声を掛ければ、やっと気づいた二人は道真を見て目を丸くするのだった。



「道真様!?」

「ちょ、なんでいるわけ!?」

「いらっしゃいませ、道真様」

「三者三様だね?」



 相変わらず、ここは面白い。


 それぞれの反応を見た後、暖簾をくぐった道真は真穂とは逆隣である美兎の隣に腰掛けた。



「お久しぶりです。今日はどうされたんですか?」



 美兎が挨拶してくれると、道真は緩く目を細めて彼女の髪を軽く撫でてやった。



「なに。君と火坑が私のいる京に来ると噂を聞いてね? それが本当だったら、私也にもてなそうかと思って」

「え? 道真様が?」

「……休業のお知らせをしただけですのに。師匠のところから広まったかもしれないですね?」

「北野天満宮においで? 君達の(えにし)をさらに強固なものにしてあげよう」

「わあ!」

「それは、お邪魔しなくてはいけないですね?」

「ま、いいんじゃない?」



 真穂は相変わらず、毛嫌いほどではないが道真には好意的な態度ではないようだ。


 たしかに、人間から神に昇格した存在は。古参の妖にはお気に召さないだろう。すべての妖に毛嫌いされているわけではないが。


 それからは、大いに飲み食いをして。またひとっ飛びで京の都に帰ってきて。社に入る前に、もう今は枝でしかない梅の枝を見ると。


 はるか昔に詠んだ、和歌を思い出したのだった。



東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな……」



 あの頃は、火坑をこの地に置いて行って、哀しい思いをさせたとは思うが。


 今は、あれだけ笑顔でいるのなら、道真は導くまで。


 あの世の獄卒だった時期もあったから、閻魔大王にも可愛がられただろうが。


 今を、充実しているのだから。その笑顔を壊したくはない。少し温かくなり、桜も蕾を綻ばせてきた。


 美兎と来る頃には、京中の桜も満開になっているだろう。


 そう思いながら、道真は装いを元に戻してから社に入った。


次回はまた明日〜

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