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第3話 一反木綿・馨

お待たせ致しましたー

 たまたま、だった。


 四月(卯月)にほど近く、かと言えまだまだ冷え込む季節。


 歩きタバコが禁止と、人間界ではつい最近決まってしまったので。口寂しいから飴を舐めていたのだが。


 適当に(さかえ)の街並みを歩いていたら、少々驚いた光景を見たのだ。



「ほっほーう?」



 目に入ってきたのは、人間と妖のカップル。


 それ自体は、少々珍しいくらいなので然程驚くことではないのだが。


 気になったのは、妖である男の方。


 妖の人間への変身とも言われている『人化』は、人間のように言うならイケメンとか美女とかがセオリーなのだが。


 その妖は、逆に地味だった。


 いや、めちゃくちゃ地味ではないのだが。人間で言えば、そこそこ顔は整っている方だ。だが、妖となると地味だ。


 だが、一反木綿(いったんもめん)(かおる)は彼の正体を知っていた。


 (にしき)の界隈で、小さな小さな小料理屋を営む、猫と人が合わさったような妖だ。ただの妖ではなく、前世が地獄の官吏だったと言う異例の妖。


 そんな彼の噂はちょくちょく耳にしていたが、まさか本当に恋人が出来ていたとは。しかも、相当な加護をまとっている、可愛らしい人間の女と。


 互いに着物を着ていて、とても仲睦まじく歩いていた。幸せがこちらにまで伝染しそうなくらいに。



「……随分と、かいらしいお嬢さんやんな?」



 しかし、あの絶大とも言える加護はなんだろうか。妖、火坑(かきょう)の加護だけでは、あそこまでいかないだろう。


 少々気になって、ついていこうとしたのだが。気配を隠せていなかったのか、火坑がこちらに振り返ってきたのだ。



「……あ」

「…………」

響也(きょうや)さん?」



 怖い。


 地味だと思っていたが、凄む顔はどこか美しい。


 と、的外れな思考でいなければ。火坑の睨みから逃れられなかったのだ。しかし、人間としての名前が『響也』とはよく考えたものだ。



「……馨さん?」

「…………はい」

「お知り合いですか?」

「ど、どーも」



 まさか、尾行しかけていたのを女性の方は気がついていなかったようだが。


 謝って帰ろうとしたが、火坑に肩を掴まれたので叶わず。



「……場所を移しましょうか?」



 と、火坑が怖い声音で告げたので。


 仕方なく、ついて行くことになってしまったのだった。


 場所は界隈の、喫茶店『かごめ』。


 馨も何回か来ているので、ここのコーヒーが美味しいのは知っている。だが、今は美味しいと思う余裕がなかった。



「そ、そそそ、その!」



 とりあえず、出来心で尾行しようとしたことを謝罪しようと馨は腰を折った。



「尾行しようとして、すんませんした!!」

「え、尾行?」



 女性の方は、まったく気がついていなかったようだ。なので、火坑が怒る前にさらに謝罪するのだった。



「自分、一反木綿の馨言います。そちらの火坑はんの店にも通わせてもらってる……妖電報の記者なんです」

「電報?……新聞記者さんってことですか?」

「砕けて言うと、そんな感じです! ほんま、デート中にすんませんでした!!」

「まったく……好奇心で人のデートを邪魔しようとしないでください」

「ほんま……すんません」



 猫人でも温厚で、滅多に怒ることのない火坑が、本気で怒っている。それだけ、この女性には本気と言うこと。


 再三謝ると、火坑も呆れたようなため息を吐いた。



「電報に、ふざけて僕達のことを書こうとはしませんよね?」

「し、しません!」



 片隅には思っていたが。


 だが、そうしたら彼の店には通えなくなるのが嫌で、ぶんぶんと首を横に振った。



「それなら、よかったです」

「あの……スクープ、にされそうだったんですか?」

「ええ。可能性の話ですが」

「お、おおお、俺は珍しい組み合わせやな〜と気になっただけで!!?」

「けど、可能性があったんですよね?」

「……あい」



 とりあえず、馨は今日誓ったのだ。


 元獄卒だったこの妖を怒らせてはいけないと。詫びに、コーヒー代とかは馨が持つことでお開きとなった。

次回はまた明日〜

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