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第5話『鹿肉の水餃子』①

お待たせ致しましたー

 少し早い来訪だが、何も用がないのに来るわけがない。


 火坑(かきょう)は、真穂(まほ)達が使った食器を手早く片付けて。人魚の千夜(せんや)と河童の水藻(みずも)を通した。



「……お早いお越しですね?」

「うん! 大将さんに、あのお姉さんに作ってあげたいものをお願いしたくて。ちょっと先に来たんだよ」

「そ、そうなんです!」

「僕に? ですか?」

「これなんだけどー」



 と、千夜が自分の身の丈程ある、白い布に包まれた荷を解こうとした。猫人なので、常人より少し鼻は強いが少し腐敗した肉の匂いと血の臭いがした。


 そして、千夜が布から取り出したのは。獣の皮が残ったままの、おそらく鹿の脚肉だった。



「鹿肉……をですか?」

「ほら! 人間達も使うねっとってカラクリがあるじゃない? 僕と水藻でちょっと調べてたんだけど。鹿肉で作って欲しいのが」



 と、水藻の方が懐からスマホを取り出した。携帯初心者の割には現代社会に馴染んでいるらしい。先日の、彼の弟も含めて元旦の縁日に来るくらいだ。順応性が高いのだろう。


 とりあえず、画面を見せてもらうと見覚えのある料理が写っていた。



「餃子……ですか?」

「うん! 僕も水藻も食べてみたいなーって」

「ふむ。熟成期間はまずまず……家畜とは違って、血抜きも容易ではない鹿肉をですか」

「難しそう?」

「いえ。これだけ丁寧に血抜きと下処理がしてあれば大丈夫です。しかし、よく持って来れましたね?」

「あ、僕の……わがまま、です」



 スマホをカウンターテーブルの上に置いた水藻が、わかりやすくモジモジし出した。



「水藻さんが?」

「この前の……元旦に弟にいただいたおにぎりが美味しくて。きっと色々お勉強されているんだなと。僕でも出来るかなって、こちらの界隈でスマホを買ったんです。で、千夜と一緒に調べてたら美味しそうで」

「で! 僕が鹿達と掛け合って。少し老生した奴を献上してもらったんだー」

「なるほど……」



 あの時の礼も兼ねて。けれど、希望は双方同じく。


 なら、一度彼らに試食をお願いしよう。それくらいに、鹿肉の食べられる箇所は豊富だ。それを告げれば、千夜も水藻も目を輝かせた。



「今食べれるの!?」

「ありがとうございます!」

「捌くのに少々時間がかかりますので。スッポンのスープはいかがでしょう?」

「飲むー! あとお酒も飲むー!」

「僕も!」



 と言うわけで。骨の周りの肉を削ぎ落として、美兎(みう)が食べる用と今食べる用にと分けて捌き。餃子にすべく、二本の包丁で今使うのをミンチにする。


 粘り気が出てきたら、次は別の包丁でネギとニラを刻み。肉には溶き卵を入れて混ぜ合わせてから、野菜を入れる。香味野菜を使っているので、ニンニクは無し。生姜も今回は省く。仕上げにごま油をひと回し。


 皮は三重の津餃子ほどではないが、大判の皮があったので出来上がった餡を乗せて包んでいく。



「うっわ……! 早い!」

「綺麗だね?」



 久しぶりに作るとは言え、体が覚えているものだ。


 丁寧に包んで皿の置き、餡が無くなるまで包んでいく。



「えーと、水藻さん? これは焼き餃子でしたか?」

「あ、いえ! 水餃子ですね」

「……なら」



 脂身は少ない鹿肉だが、濃いめでもさっぱりと。


 なら、とタレはポン酢に梅をペーストにしたのに醤油を少々。味見をして予想通りの味に決まったら、餃子を沸いた湯に潜らせて湯通しする。


 浮き上がったら、くっつかないように盛り付けて。出来上がりだ。



「わあ!」

「写真と同じ!」

「お待たせ致しました、鹿肉の水餃子です」



 お好みで、と自家製のラー油の瓶も添えたら。


 二人は、見た目の年齢には少々似合わない、生ビールのジョッキをかちあわせて、出来立ての餃子と一緒に食すのだった。

次回はまた明日〜

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