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第3話 心の欠片『いぶりがっこでトロたく巻』①

お待たせ致しましたー

 人間ではない、怨霊から今まで幽霊として存在している滝夜叉姫。


 妖でもないので、美兎(みう)には言われなければ妖にしか見えない美女だったから。


 美兎に会いたい理由も含めて、きちんと五月(さつき)の話を聞こうと思った。



「時に美兎よ」

「はい」

「あちきを知らぬならば、我が父もおそらく知らぬであろうな?」

「五月様のお父様?」

「うむ。古い歴史には残っておるが、印象は薄いじゃろうて。(たいらの)将門(まさかど)と言うのじゃが」

「う、うーん? 少し聞き覚えが」

道真(みちざね)様と同様に日本三大怨霊のお一人ですよ? あと、日本史でしたら将門の乱がありますね?」

「あ、それです! え、五月様のお父様がそんな有名人!?」

「うむ」



 だからこれだけ美しいのかと納得しかけている間、五月は美しい手でお湯割りの酒器を傾け、ゆったりと息を吐く様は本当に麗しい。


 美兎にもその所作の美しさを分けてほしいくらいだった。



「お話中、申し訳ありません。先付けは虎ふぐの皮を湯引きしてポン酢と和えたものですが。お食事はいかがなさいましょうか?」

「あ、心の欠片いりますか??」

「そうですね? お願いします」

「心の欠片かえ? 久しいのお。あちきもひとつ」

「あの、幽霊さんでも出せるんですか?」

「元は人ではあったが。妖でも一部なら出せる輩もおる。あちきは霊じゃが、界隈では飲み食い出来るし変わりはせん」

「なるほど」



 そして、火坑(かきょう)がそれぞれの手のひらをぽんぽんと叩いたら。


 美兎は見事なマグロのトロ。対して、五月は何故か茶色い棒のように見えた何かであった。



「おや、滝夜叉姫さんのはいぶりがっこでしたか?」

「いぶりがっこ?」

「なんじゃ、この食べ物は??」

「たくあんの一種です。茶色なのは、燻す……燻製されているからなんですよ。東北では名物となっているんですが。居酒屋などでは、最近ブームなんです」

「ほう?」

「これだと何が出来ますか??」



 たくあんを燻すだなんてお洒落だ。


 沓木(くつき)らと飲みに行くことは多いが、この楽庵(らくあん)に通うようになってからは、ひとりで居酒屋に行くことも減った。


 ご飯は美味しいし、代金がわりに心の欠片を提供すればいい。と言っても、完全に無料状態なのは気が引けるのでお菓子などを持ち寄ってはいるが。


 そこで美兎は思い出して、今日のお土産を火坑に渡した。赤鬼の隆輝(りゅうき)の店ではないが、たまにはしょっぱい物をと。物産展で明太子を購入してきたのだ。



「わざわざありがとうございます」

「いえ。いつも甘いものばっかりでしたし」

「なんじゃ? 何を持ってきたのじゃ??」

「九州物産展と言うのが、デパートでやってたんです。色々悩んだんですが、今日は明太子にしてみたんです」

「めんたいこ……ほう。あの珍味かえ? あちきも好んでおる」

「でしたら……そうですね。明太子は卵焼きに入れて……心の欠片でお出ししていただいたのは。ご飯ものも出来ますが、簡単に海苔巻きも出来ます。どちらがいいでしょう?」

「……悩みますね?」

「うむ。しかし、久しい故にスッポンも頂戴したい。であれば、あちきは海苔巻きが良いの?」

「じゃ、私も」



 たしかに、頻繁には来れていないので〆のスッポン雑炊も食べたい。


 火坑は承知したと頷いてから、すぐに卵焼きから取り掛かってくれた。



「で、続きじゃが」



 またお湯割りを傾け、先付けも優雅に口にしながら五月が話を再開した。



「はい?」

「今の人間などは、父が討伐されてあちきは尼僧……いわゆる尼になったとも言われておるが。そこは後処理をしたまでじゃ。あちきは、妖術使いとなり都に乱を起こした。まあ、思い返せば阿呆な事をしたものよ」

「えと……言い方すっごく悪いんですけど。犯罪者に?」

「その通りじゃ。じゃから、完全に幽世(かくりよ)に行けば地獄が待ち受けておる。だが、改心と界隈で手助けをしたお陰か。いくらかは処罰も軽くなると亜条(あじょう)殿も言ってくれたのよ」

「亜条さんがですか?」



 少し懐かしい。去年のケサランパサラン騒動以来、会っていないからだ。が、地獄の補佐官がそうホイホイとやって来るのも難しいだろうが。



「応。じゃから、まあ。具体的に言えば美兎を見たように、占いで導きを示しておる。それが、今のあちきの生業(なりわい)よ」

「素敵です」

「そうかえ?」



 本心を伝えれば、五月はまるで少女のように微笑んでくれた。


 そして、火坑の方も調理が終わり、ほぼ同時に出来上がった料理を出してくれたのだ。

次回はまた明日〜

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