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第5話 ひとりの仕込み

お待たせ致しましたー

 大晦日。


 と言っても、妖に休日はあるようでないとされている。


 現世の慣わしで年末年始と、百鬼夜行が行き交う盆や春先に比べたら、日本に取り入れられた面白おかしな行事を楽しむだけ。


 かく言う、猫人の火坑(かきょう)も。今日は待ち望んでいたのだ。


 ここ数年なら、年の締め括りとして特別営業をしていたのだが、今年は違う。


 (つが)うことを約束した、妖の子孫であった人間の湖沼(こぬま)美兎(みう)に彼女の先輩である沓木(くつき)桂那(けいな)とその恋仲である赤鬼の隆輝(りゅうき)


 秋の烏天狗の翠雨(すいう)達とは違うが、彼女が人間の組み合わせであるダブルデート第二弾だ。元旦の昼に初詣でのデートを約束しているので、火坑は楽しみだった。


 猫人に輪廻転生してから、妖同士でも付き合いが何処となく希薄がちだったからだ。黒豹の霊夢(れむ)に育ててもらい、楽庵(らくあん)を開くまで修行したのだが。


 自分は自分、客は客とどこか線引きしていたのかもしれない。


 それを変えてくれたのが、ほかでもない美兎だから。



「さて。ご自宅のお節は堪能されてるはずだから。僕は出来るだけ楽庵らしいメニューを……と言っても」



 (にしき)の界隈で小料理屋を営んでいる身としては。彼氏であれ、出来れば凝った料理を作りたい。それがお弁当でも。


 なので、晦日の今日は店を思い切って閉めてから取り組んだのだが。何がいいのかサイトを見つつも悩みに悩んでしまっている。



「ん? これは!」



 妖共有サイトである、料理などのレシピ集。そこに、女性が食いつきそうなメニューが載っていたのだった。



「ちょうど、いくらの醤油麹漬けが出来てるから! これは明日の朝に作れば鮮度も問題ない!」



 なので、下準備をしてから美兎と年越しのメールをする時間まで自宅に戻ってから仮眠をして。


 年越しまで、あと少し、となったら美兎から通話していいかとLIMEがあったので、承諾した。



『こんばんはー』

「こんばんは、ご実家はどうですか?」

『え……と、かきょ……響也(きょうや)さんのことを話したら、連れて来いと言われまして』



 実家なので、火坑の偽名で呼んでくれるのも酷く愛らしく感じる。きっと、通話の向こうでは少し顔が赤いかもしれない。抱きしめたいが、距離が距離なので無理だが。



「わかりました。ご希望のご予定などは?」

『えっと……土日なら、くらいですけど』

「うーん。水藻(みずも)さんや、空木(うつぎ)さんとのご予定もありますしね? でしたら、月末近くにしませんか?」

『多分、大丈夫です! 私もまだ休日出勤になるくらい仕事は増えていないので』

「わかりました。明日……もう少しで日付も変わりますが。今年一年ありがとうございました。美兎さんと出会えて本当に良かったです」

『……私もです。響也さん』

「はい」



 そして、お互いに笑い合ってから通話は終わり。


 自宅から楽庵まで徒歩で移動してから、例のお弁当作りのために楽庵に向かう途中。


 年越し直前で、夢を売ったり買ったりしていた夢喰いの宝来(ほうらい)と遭遇した。



「お、火坑の旦那じゃねーか?」

「ご無沙汰しています。盛況のようですね?」

「おう! 真穂(まほ)様も仕事されているからなあ? 俺っち達もうかうかしてらんねーぜ?」

「! 僕もひとつ吉夢を買いたいのですが。お代はとりあえずこれで」

「! 筋子じゃねーか!?」

「僕が漬けたので、お味は保証しますよ?」

「よしきた! 持ってけーい!」



 翡翠に似た、ビー玉のような吉夢。


 美兎には卯月のはじめ以来だろうが。恋人にどうしてもあげたいと思った火坑なのだった。

次回はまた明日〜

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