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第2話 心の欠片『カラスミの炒飯』

本日で100話!

 カラスミで炒飯。


 美兎(みう)は社会人に成り立てから今日まで、世界もだが日本の『三代珍味』をほとんど口にしたことがない。よくても、それまで知らなかった安いウニを回転寿司で口にした程度。


 だが、この店に通うようになってから、はじめて美味しいウニを食べさせてもらったりした。甘くて磯の香りは程よく、とても口溶けが良くて美兎の好物になった。


 炊き合わせや、焼きウニとかで火坑(かきょう)が作ってくれたりしたが、カラスミはまだ食べたことがなかった。


 取り出したのは、厚切りのタラコを乾燥させたようなものだったが。



「火坑さん、それがカラスミなんですか?」

「はい。美兎さんは、カラスミが何で出来ているかご存知でしょうか?」

「……お恥ずかしながら、全然」

「ふふ。では、水藻(みなも)さんはどうでしょうか?」

「はい! ボラやサワラ、サバの宮腹ですね!!」

「みや……ばら??」

「雌の子宮なんですよ。魚介類の内臓もですが、カラスミは卵も詰まっていますからね? 加工したタラコのようなものと、美兎さんは思うかもしれませんが」

「へー?」



 タラコに似ているのなら、とても美味しそうだ。世界三大珍味のキャビアもまだ経験がないが、魚の卵だから似ているかも。


 とりあえず、梅酒のお湯割りでお腹を温めつつ、残して置いてくれていたスッポンのスープで少々腹を満たす。頭はなかったが、甲羅のコラーゲン部分があったので遠慮なくしゃぶった。


 そして火坑は、カラスミを小さなおろし金で細かくして。野菜はシンプルにネギだけ。


 あとは、美兎の心の欠片から取り出した、烏骨鶏に近い少し青紫色の卵。


 卵を割って菜箸でほぐしてから、一気に仕上げていくのだった。



「炒飯は高温で一気に仕上げるのが鍵です。中華鍋でなくとも、鉄鍋で油を多めに引いて強めに鍋を熱してから卵を入れます」



 卵を入れた時の、じゅわっと上がる音がたまらない。


 すぐに、何故か湯気が出てる温かいご飯を入れて木ベラで手早く混ぜたら、あら不思議。


 べちゃつくことがなく、パラパラの炒飯になっていったのだ。



「ふふ。不思議そうな顔をされていますね?」



 米をパラパラにさせながら、火坑が少しこちらを見たのだ。



「はい。もっとべちゃってするかと」

「逆なんですよ。冷やご飯の方がべちゃつく原因なんです」

「え」

「僕も初めて知りました」



 完全にパラパラになったら、ネギとカラスミを入れて手早く混ぜて。軽く塩胡椒して味を整えていくらしい。もっと、中華出汁を使うかと思ったら違うようだ。



「仕上げに、鍋肌に醤油を垂らして…………はい、お待たせ致しました。カラスミの炒飯です」



 そして、大きめの茶碗で盛り付けてくれた炒飯は。欲目抜きに、黄金色に輝いているように見えた。


 河童の水藻にも軽く茶碗一杯くらいの炒飯を差し出したのだった。



「美味しそう!!」

「ですよね!!」



 熱いうちに、とレンゲですくってから軽く息を吹きかけて。口に入れると、炒めたせいか卵のぷちぷち感がなんとも言えないくらい楽しい。



「美味しいです! ちょっとチーズのような香りもするんですけど、味付けがほとんどカラスミのせいか塩加減が絶妙です! いくらでも食べれそうです!!」

「気に入られましたか? でしたら、今度はもっとポピュラーなパスタがいいかもしれませんね?」

「う〜〜聞いただけでも美味しそう!!」

「おいひいでふ!」



 美味し過ぎて、水藻もぺろりと平らげてしまうくらい。美兎もゆっくり味わって食べている間、水藻の話を聞くのだった。



「アマビエ、ですか?」

「はい。実在する妖なんですけど、厄災を祓うとかなんとかで。……人間達は僕ら河童を遠ざけて、彼ばっかり崇めているんですよ? あ、美兎さん達人間を蔑ろにしているわけじゃないです!」

「ふふ。わかっていますよ? けど、アマビエですか」



 たしかに、ニュースやSNSで過去の文献などの紹介やイラストが多数上がっているのは事実。急激な暴風雨に水害などなど。それらを思うと、人間というものが何かにすがりたい気持ちが溢れてくる。


 かく言う美兎が所属するクリエイティブチームでも、アマビエはちょっとした話題になっていた。


 半魚人でも人魚とも違う、異形の姿。だが、愛くるしさを思わせるのだとか。全部、同僚の田城(たしろ)真衣(まい)の情報だけど。



「江戸後期に打ち上げたれたのを、絵師が残したとか文献は多々ありますが。彼らが幸運の象徴とも言われるのは真穂(まほ)さんとも違いますから」

「……火坑さん、お会いしたことがあるんですか?」

「ええ。ここにも度々来られますよ?」

「おお!」

「う。美兎さんも気になっちゃいますか?」

「あ、すみません。純粋に好奇心から」

「ふふ。意外と美兎さんは、ここの常連さん達と遭遇する機会が少ないですからね?」

「そうなんです!」



 水藻も十年近く通い続けているそうなのに、今日まで出会うことはなかった。他の常連とも、美兎はほとんど出会っていない。人間も、美作(みまさか)辰也(たつや)だけだ。



「でしたら、僕がとっておきの友人をご紹介したいです!」

「水藻さんの?」

「人魚です」

「え!?」



 陸に上がれるのか、とすぐに疑問に思ったが。水藻の話だと、人化すれば問題ないし。海ではなく河の人魚だそうだ。


 年が明けてから、連れてくると日程も決めてから彼は帰っていき。


 美兎は、火坑と二人きりになれると思ったのだが。


 すぐに、狐狸(こり)宗睦(むねちか)やろくろ首の盧翔(ろしょう)がやってきて。どんちゃん騒ぎとなったわけである。

次回はまた明日〜

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