炎の色は
アトゥ郊外の小さな森林に住み着いた、危ういローブマントを身につける、トパーズアイを持つ美しい少女。
それで木の太枝に腰掛ければ、最早ティーミスのエルフ味が増すばかりだ。
「…まずは、アトゥを取り返さなきゃ…」
勝てば官軍負ければ賊軍とあるように、今の情勢的に言えば、圧倒的に帝国が正義の国家だ。
実際帝国は、アトゥを植民地にした代わりに、前とは比べ物にならない程の繁栄をもたらした。…その裏で犠牲になった貴族達に関して、人々は見て見ぬふりをするばかりだが。
国家を相手取るとなれば、生半可な戦闘能力では直ぐに終わりだ。
先ずはモンスターでもダンジョンでも、とにかくティーミスが強くならなければいけない。
(…ダンジョン?)
ティーミスはふと、アイテム欄から赤く小さな鍵を取り出す。
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【[火]ダンジョンキー】
ダンジョン、『忿怒の城跡』を生み出す、魔法の鍵。
あなたのレベルによって、ダンジョンの難易度も変化します。
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奪取した命の分解で手に入った、ダンジョンキーなるアイテム。
「…不思議なアイテムですね。ダンジョンを作ってしまうとは…」
「正確には、作るじゃなくて繋げるが正しいがな。」
「にえ!?」
いつのまにか、ティーミスの傍にジッドも座っていた。
「じ…ジッドさん!びっくりしましたよ!」
「へっへっへ。なにあれさ。ちょいと暇が出来たから覗きに来ただけさ。
…しかし、随分と雰囲気変わったなお前。なんだ?無垢っぷりつうか、可愛げ増してねえか?」
「わ…悪かったですねぇ!」
「おうおう、まそんな怒んなって。で、ダンジョンキー持ってどうした?使わねーのか?あ、まさか怖いんじゃ…」
「こ…ここ怖くなんてありません!ただ…その使い方が分かんなくて…」
「はあ?鍵の使い方くらい見りゃ分かんだろ!ほれ、貸せ。」
ジッドは強引にティーミスから鍵を奪い取ると、太枝の上に立ち、左手を腰に当てた。
「鍵ってのはぁ、突き出して!」
ジッドが鍵を宙に突くと、空中にある透明な何かに刺さったように鍵の先端が光に包まれ見えなくなる。
「反時計回りに回す!」
ガシャンと言う音と共に、空中に真っ赤な開かれた二枚扉が現れる。
扉からは、常に熱気が吹き放たれていた。
「ほぇー…」
「よし、じゃあメスガキ。」
「メスガキじゃなくてティ…」
「行ってら☆」
ジッドはティーミスの首筋をつまむと、そのまま宙に浮かぶ扉の中に放り込んでしまった。
「きゃああああぁぁぁぁぁ……」
扉が閉ざされ消え、後には残った熱気と、ドヤ顔のジッドだけが残っていた。
◇◇◇
(…よく考えれば、ジッドさんと私は、ある意味ではお友達なのですかね…)
ティーミスはそんなことをぼんやりと考えながら、生暖かい石の上に寝転がり、焼けるように真っ赤な空を眺めていた。
仮にティーミスが、世界を終わらせる程の巨悪になったとしても、ジッドは変わらずふらりと訪れて、いつも通りメスガキ呼ばわりしてくれるだろうか。
「…あああ行けません!此処はダンジョンの中なのですよ!」
ティーミスはすくっと起き上がり、周囲の様子を眺める。
炎の色をした空に照らされた、大小様々な建造物が立ち並び燃え上がる廃都だった。
「…あ…暑い…熱い…」
文字通り布切れ一枚のティーミスでも、絶えず汗が噴き出してくる。
こんな事になると思わず、スキルはまだ中途半端なものばかりだ。
(…いや、私のレベルに合った危険度の筈。進みましょう。)
広大な廃都とあって、分かれ道や十字路などが多々あったが、その殆どは炎に包まれており、実質的には一本道。
遥か遠くに、ぼんやりと城跡らしき場所もある。
(私のレベルでは、まだ好き勝手には動けないという訳ですか。)
その時だった。
“ピケエエエエ!!!”
「にぇ!?」
不意に、ティーミスの背後から小動物に似た声が響く。
そこに居たのは、赤い光が二つ灯った、炎球型のモンスター。
ぱちぱちとその体を点滅させながら,しきりにティーミスを威嚇していた。
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【怒りの精霊】
怒りを司る、下級の精霊です。
小さな火球を放つ、《怒りの火球》で牽制し、対象の足元から火柱を上げる《憤怒の業火》によって、愚かな侵入者を消し炭に変えます。
あなたより格下のモンスターです。
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“ピケエエエエ!!!”
「うるさい声ですね…!」
怒りの精霊は、早速ティーミスの足元に火柱を召喚する。
がしかし、まず地面が丸く赤するのに5秒、そこから吹き上げるのに少なくとも1秒は隙がある。
ティーミスは早足で避け、直ぐにその右手を大顎の怪物に変化させる。
“ピケエエエ!?”
【招かれた客】の口から吐き出された瘴気に触れた精霊は、瞬く間に萎み消えて行く。
“ピケエエエエエエ!”
“ピイイイケエエエ!”
“ピケピケ!ピケエエエエエ!”
「…ですよね。こんな雑魚が一体だけなわけ、無いですよね。
《招集・【弓兵】》。」
顎腕とは反対側の腕から、ドクドクと赤黒い液体が湧き出てくる。
三つの塊が地面にボタボタと落ち、直ぐにそれは形を成す。
黒い毛皮や布を被った、この熱い中で随分と暑そうな格好の弓兵が三人。
フードを被り、赤と黒の布で巻かれた頭からは、軽装フルプレートの歩兵同様、顔らしき物は目視出来ない。
弓兵は直ぐに空に弓を向けると、精霊達を射抜き始める。
真っ赤な弓が一直線に飛翔し、小さな精霊を的確に射っていく。
矢が当たった精霊はジュワッと言う音と共に爆ぜるが、いかんせん数が多かった。
“ピケエエエエエエ!!!”
空に浮かぶ精霊が一斉に鳴き声を上げると、一帯の地面が赤熱を始めた。
「なるほどです。」
一体一体は然程の力は無くとも、火柱も範囲攻撃となれば脅威となった。
この範囲攻撃を避けるとなれば、二次元の移動では厳しいだろう。
「すー…はー…《血の池の宴》」
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エクストラHPを、218獲得しました。
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バチバチと、赤いオーラがティーミスを包み込む。
アーチャーが倒した分も加算されているため、使い物になる数字にはなった。
火柱出現まで、残り6秒。
大きな顎腕を構えながら走り出し、レベル70相当の素早さを使い、火に包まれる建物を駆け上っていく。
(…火は、根元が一番熱くないんです。)
これはティーミスの、被虐生活で学んだ事だ。
火柱出現まで、残り4秒。
“ピケエエエエエエ!?”
“ピケエエエエエエエエエエ!”
ティーミスを迎撃せんと、群れから多数の火球が放たれ、弾幕の様になりティーミスを襲う。
しかし、その巨大な顎腕に呆気なく弾かれ、ティーミスの歩みは止まらなかった。
特に高い建物の頂上にたどり着き、顎腕は、そこから特大の瘴気のブレスを吐き出した。
“ピケエエエエエエ!!??”
ブレスに当てられた箇所に綺麗に穴が空き、地上の赤熱地帯にもポッカリと円形の安全地帯が出来た。
次の瞬間、天まで届く勢いの巨大な火柱が吹き上がるが、安地に居たアーチャー3体はみな無事だった。
ティーミスは、そのまま巨大な消しゴムの様に瘴気のブレスを振り回し、精霊達を一掃してしまった。
遠くまで飛ばす為にかなり高濃度にしたためか、その場には少しの間、黒い靄が掛かっていた。
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wave1「精霊達の洗礼」突破
次は
wave2「最終ボス 怒れる精霊王」です。
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蝋燭とかの火って、内側の青い部分が一番温度が低いらしいですよ。
それでも火傷必至ですが。