宛先の無い懺悔
「はあ…はあ…はあ…ぐす…ええん!」
殺した。
無抵抗な人間を。
その事実はティーミスの背中を突き続け、苛み続けた。
ルーベンが死に際に放った、死にたくないと言う言葉。
彼も、ティーミスも、同じだ。ただ生きていただけ。身為は、性格は、なにもかもが違うが、本質的な物は何も変わら無い。
それを、ティーミスは殺した。出来るだけ長く苦しめる方法で。
「やだ…やだやだやだ!」
悪者を演じようとした。
出来るだけ冷徹な振りをした。
虫も踏めない女の子が。
でも所詮は、振りだけだった。
ティーミスは、アトゥの外れの林に再び戻ってきた。
酷い吐き気を催したが、ティーミスの胃には、はなから何も入っていない。
身を縮め、両肩を抱えて、黒目を縮めて、歯をカチカチと鳴らしながら震えている。
もう、後戻りは出来ない。もうティーミスは可哀想な少女では無く、冷徹な殺人者に成り果てた。
「…寒い…怖い…誰か…助けて…」
悪事を働いておいて助けてなど虫が良すぎると、ティーミス自身も痛感していた。
誰も助けてはくれない。悪とは、孤独な道なのだ。
「……そうだ、スキルボードでも眺めて気を紛らわしましょう…」
疲弊した様子で、ティーミスはぼんやりと呟く。
ティーミスが殺めた、ルーベンとか言う貴族は、身なりからしてかなり高貴な身だ。
今頃誰かがルーベンの亡骸を見つけ、血眼になって犯人探しが始まっているだろう。
見つかった時のために、戦闘力は上げるに越した事はない。
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『色欲相』
アクティブスキル
《隷属へ贈る褒賞》習得コスト・3
目を合わせた異性を、種族やレベル差問わず一定の確率で【隷属】状態にし、行動不能出来ます。
これは魅了耐性によって防がれる可能性がありますが、あなたの魅力がそれを上回れば突破が可能です。
【隷属】状態の対象になら、レベル差問わず常にQETスキルを発動出来ます。
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便利そうではあるが、今ティーミスの手元のスキルポイントは2しか無い。
スキルポイントの数字の隣にある、3と書かれた青い炎のアイコンに目をやる。
ポイントの代替え品に出来る、【奪取した命】の所持数だ。
(…これは文字通り、私の残機…でも、このスキルがあれば命をもっと沢山手に入れられるかもしれません。)
勇気を振り絞ったティーミスの細く綺麗な指が、青い炎のアイコンをタップした。
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【奪取した命】を分解し、スキルポイントを獲得しますか?
[はい][いいえ]
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答えは決まっている。
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どの命を鑑定しますか?(鑑定した場合、蘇生能力は失われます。)
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「?」
これは予想外のシステムらしい。
三つ横に並んでいる青い炎。ティーミスは勘で、真ん中をタップした。
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鑑定中…
鑑定中…
鑑定が完了しました。
この魂を分解すると、以下の物が手に入ります。
・スキルポイント×13
・審判へと至る鍵
・古文書の断片
・[火]ダンジョンキー×2
分解しますか?
[はい][いいえ]
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ティーミスが再び[はい]を押すと、ガラスの割れるサウンドとともに、青い炎が弾け、中から色々なものが飛び出す演出が現れた。
青く丸い玉に、光り輝く大きな鍵、茶色い紙切れに、赤い小さな鍵。
「おお…」
予想していた仕組みは、命一つにつきスキルポイント1だと思っていたが、これは嬉しい誤算だ。
よく分からないアイテム達と共に、ティーミスの持つスキルポイントは一気に15まで跳ね上がった。
まずは真っ先に、先程目を付けた《隷属への褒賞》を解放する。残りは12だ。
(…目を合わせるのが褒賞だなんて、趣味の悪いスキルですね…)
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『暴食相』
パッシブスキル
《酒池》習得コスト・7
敵を一体倒す毎にリソース『血酒』が、倒した敵の最大HP分蓄積します。
(このリソースは眠りでは回復しません。)
このスキル習得後、以下のスキルが自動的に習得されます。
アクティブスキル
《血の池の宴》
『血酒』を任意の値消費することにより、消費した値と同数の体力を回復し、余剰分のエクストラHPを得ることが出来ます。
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まだレベルは8だが、パッシブの効力により体力以外の能力値は既にレベル70相当のティーミス。
唯一の欠点である体力の少なさを、このスキルがあれば補えるだろう。
ティーミスは少し考えたのち、これも習得した。
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新たなパラメーターが追加されました。
血酒 0
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残りは5だ。
ティーミスは先程、《軍勢》がどんなものかは大体分かったため、招集系にも手を出す事にした。
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『傲慢相』
アクティブスキル
《招集・弓兵》習得コスト・2
消費徴兵力 1体/12
紅の弓を持つ尖兵を召喚できます。
耐久力が低い代わりに、遠距離からの強力な攻撃を得意としています。
彼らを後衛に配属すれば、一気に強力な部隊となるでしょう。
パッシブスキル
《軍師》習得コスト・1回につき2
一度の習得につき、最大徴兵力が+50されます。
何度でも習得できます。
このスキルの習得回数に応じて解放されるスキルも存在します。
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ティーミスは最後に、この二つを習得した。
よく見れば、軍師×2や、軍師×4、中には軍師×70や軍師×200と言った文字によってロックされている項目も多々あった。
解放しておいて損は無いだろう。
「…?ゴホ!ガハ!?」
突然、ティーミスはぴしゃりと二度吐血をし、その場に倒れ込む。
いつかの拷問であった、釘付きグローブで腹を二回殴られた心地だった。
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あなたの兵士が倒されました。
【歩兵】×2 徴兵力10×2
あなたは20のダメージを受けました。
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(…成る程、あの兵隊さんの使役にはこんなペナルティもあったんですね…《酒池》とやらを解放しておいて正解でした…
兵隊さんを置いていくことは間違いでしたが…ん?いや、もしや…)
ティーミスは、ふと記憶を辿ってみる。
確かあの場にはルーベンと護衛だけがいて、全員倒した、つまりあの場に残ったのはルーベンの亡骸と二体の兵隊。
「……やはり正解だったのでは?」
気を落ち着かせるために、ティーミスはそのレンガ色の長髪を指で解きながら、アトゥの町に戻っていく。
今度も先ほどと同じ門。やはり門番が二人、薄っぺらい新聞を片手に立っていた。
「あの…何かあったんですか?」
ティーミスは勇気の限り、門番に向けてすっとぼける。
「お、先程のエルフさん。いや一大事だよ。この街の領主様が、ギルティナイトの襲撃に遭い、亡くなったらしいんだよ。
…しばらく騒がしくなりそうだ…面倒事になるだろうから、エルフさんは早いとここの街を立ったほうがいい。」
「そうですか。…ではお言葉に甘えて。」
ティーミスは一瞬ホッとしたが、直ぐにそんな自分に反吐が出そうになる。
自分で生み出し、自分の指示で動いた兵士に、責任をなすりつけるなど最低な行為だ。傲慢も甚だしい。
(あ…)
傲慢の軍勢。
その名の通りじゃ無いか。
この傲慢の対価が、兵士に擦り付けた責任の重さが20ダメージだとすれば、安い物だ。
(…)
結局は問題の先送りだ。
ティーミスはいつか多くの罪を犯し、その全てと向き合わなければならない。
(…でも…今だけは許して…)
少なくとも神に向けてでは無い祈りを、ティーミスはそっと捧げた。
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◇ティーミス・エルゴ・ルミネア◇
・LV8
・HP 199
・攻撃力 30(+200)
・防御力 22(+200)
・俊敏性 23(+200)
・魅力 732(+200)
・徴兵力 130/150
・怒り 20/10000
・血酒 0/5000
次のレベルまであと
538EXP
習得スキル
パッシブ
・《酒池》リソース『血酒』を獲得する。
・《軍師LV1》最大徴兵力+50
アクティブ
・《隷属への褒賞》
目を合わせることにより、相手が異性の場合は【隷属】状態にする。
【隷属】
あなたに対して攻撃が行えない。
常にQETスキルの対象となる。
・《血の池の宴》
血酒を消費し、それと同数体力を回復する。
超過分は追加体力となる。
・《招集・弓兵》
徴兵力を12消費し、あなたの能力値を10%(攻撃力は13%)受け継いだ【弓兵】一体を召喚する。