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サイドエゴ

セガネ城玉座の間。

今やそこは、ティーミスの為の帝国騎士による闘技場と化していた。


「陣も引かずに召喚魔法を!」


「…そんなデタラメな…!」


ティーミスの所業に感嘆の声を漏らす騎士達に、すかさず毒舌が飛ぶ。


「感想はそれだけか無礼者。何だ?ならお前達は兵士を呼び出すのに手紙でも綴るのか?

全く呑気な連中だなぁ!戦場ではコンマ1秒が生死を分かつのだぞ?何を描くって?陣?子供の遊びか?」


ティーミスが指を振り回すと、城の内外に、どんどんと兵士達が生成する。騎士の言葉通りに、デタラメにだ。

兵士を呼び出す事など、今のティーミスにとっては呼吸も同義だ。


「ほれほれ。何なら、この部屋を兵士で満たして圧殺してやろうか?え?」


ティーミスは、騎士達に見せびらかす様に能力の行使を続ける。

この世界で、兵士を召喚し使役する事が出来る人間など、自分ただ一人しか存在しない。

下等種族には、昏い絶望が相応しい。


「ッチ…厄介な能力だな…イーノ、作戦はあるか。」


「作戦?そんなの決まってる。」


イーノは、半月を描く様に薙刀を振るう。

攻撃範囲に居た雑兵達は、一瞬にして赤黒い半液に変わり、蒸発する様に消え去る。


「雑魚片付けて、自分じゃ剣も持てないお嬢さんお縄にかけてハッピーエンドってね。」


「だから我々の役目は時間を稼ぐ事…はぁ、もういいですよ。」


そんな3人の様子を見て、ティーミスは首を傾げその視線を険しい物にする。

何故、恐れ慄かない?

答えは簡単だ。確かにその規模と性能は恐ろしいが、召喚魔法自体はさして珍しい訳では無い。

スケールに慣れさえすれば、ティーミスはただの超強力な[サモナー]だ。

そして、どんな強力な存在を使役するサモナーでも、共通の弱点がある。


「…ふん…貴様ら!我を守れ!」


三精鋭達は、ティーミスを取り囲む様な陣をとる。


術者自身は共通して、戦闘能力を殆ど保有していないのだ。


(…一体どうなっている…何故歩兵が数体やられただけでここまでの苦痛を…前ならばもっと…前…?前とは…いつだ?)


「《デスフレイム》!」


シバの持つ杖から、強力な攻撃魔法が次々と放たれる。

タフでしかし鈍重な重装のケンタウロスは、そんな強力な魔法からティーミスを守るので手一杯になっている。


“ブオオオオオオオオ!”


ケンタウロス型兵士が唸り声をあげ、その巨槍を勢い良く突き出す。


「《風の加護》。ったあ!」


突如シバの足元から上昇気流が流れ、シバは高く跳躍しその槍を躱す。

上空への攻撃手段を持たないケンタウロスは、すかさず防御姿勢をとる。


「甘い!《シールドキラーマジック》!」


シバの持つ魔道書から、細く鋭い形をした魔弾が一つ放たれる。

魔弾は一直線に盾に直撃し、ケンタウロスを貫通しティーミスの肩をかすめる。その盾は、既に破壊寸前だ。

金属を擦り合わせる様な音を立てて、ティーミスの後方、最も安全な場所を陣取っていた赤黒の聖女が、その杖から赤い波動を放つ。

一見すれば、かなり危険な攻撃魔法だが、


「な…盾が再生しただと!」


その実は、真逆の回復魔法だ。


「やっぱあいつがヒーラーか。…丁度いい。」


イーノはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、薙刀を構えティーミスの元に突進する。

剣士カイプと交戦していた聖騎士が止めに入ろうとする。


「《シルキー…」


イーノは、地面を蹴りあげる様にしてブレーキをかけたかと思えば、次の瞬間にはその姿は完全に消える。

金属の擦れる音がして、薙刀が胸に突き刺さった聖女が、立ったまま融解を始める。


「ステップ》くふふ。」


《シルキーステップ》。シーフから転身した身である、イーノのオリジナル技。

敵陣の背後に回り込むシーフのスキルである《ステルスステップ》と、敵の不意を突くことにより凄まじい威力を発揮する薙刀の武技《巨人殺し》を合わせた物だ。

結果生まれたのが、敵陣の背後に回り込み脆いヒーラーやメイジを仕留める、対人戦において非常に便利な技だった。


「ごっほ!?ケホッケホ!」


刃の一つも受けていない筈のティーミスが、血を伴った咳をしながらよたよたとしゃがみこむ。


「あぁ?」


その様子を見て、イーノは当然首を傾げる。


「…?動きが鈍った?カイプ今だ!《ブルドーズバフ》!」


「はい!」


カイプの持つ細身の剣が巨大化し、金色の光を放ち始める。


「《クレンズブレード》!」


カイプの振るった剣とそこから放たれた斬撃によって、部屋の中に居た残敵と、残った二体の精鋭達は皆等しく消滅する。


「ごっは!?...おのれ...使えない奴らが...!」


ティーミスは、大量の兵士を失った事による代償ダメージとカイプの斬撃の双方を受け、苦痛に悶えていた。

イーノが、すっかり余裕の態度でティーミスの元に歩いてくる。


「成程。その能力の対価はそれってわけね。サモナーにしては随分とけじめのあるスキルじゃないか。」


「はあ...はあ...がっは...黙れ愚民が...」


ティーミスはヨロりと立ち上がり、なおも傲慢な態度を見せる。


「我を誰と心得る...我こそは!...我こそは...?」


(我は...誰だ...?)


と次の瞬間、ティーミスは自らの頭を抱え苦しみ始める。


「っぐ!あああああああああああ!!!」


「...?イーノ、カイプ、下がれ。何か変だ。」


ティーミスの瞳の色が、絢爛な金色とこの玉座の間を映した淡白色の交互に変色する。


「『返して...黙れ...』返して...!「出ていけ!』


ティーミスは、痙攣する腕を自身の前方に伸ばす。


ーーーーーーーーーー


[審判へと至る鍵]×2を購入しました。

ご利用ありが


ーーーーーーーーーー


「我は...我が王国を!』…を返して!」


ーーーーーーーーーー


一括分解しました。

スキルポ


ーーーーーーーーーー


「貴様…我を誰だ『と思っている!『我は…誰だ!?」


ーーーーーーーーーー


キープログレス

《とある部屋》《零地点の嫉


ーーーーーーーーーー


「……」


ティーミスは、敵を前にしてその場で立ち尽くす。

まるで彫像にでも変わってしまったかの様に、ピクリとも動かない。

呼吸は止まり、目は閉じられ、心臓も、不自然なほどのろまなリズムを刻む。


「…死んだのか?」


シバが、恐る恐る呟く。

今自分達が一体何を見たのか、彼らは検討もつかなかった。


「…よく見て下さい。胸が微かに動いているし、血も本当にゆっくりとだけど流れ出してる。

立ったまま昏睡したのかもしれません。」


カイプが、ティーミスに数歩近づきながら自らの解釈を述べる。


「一先ず…無力化って事で良いのか?なあイーノ。…イーノ?」


「…」


イーノは、彫像の様に固まり動かないティーミスを、冷や汗を垂らしながらじっと見つめている。


「…どうした?」


「…気配が…定まらない…」


「ん?」


元シーフであるイーノは、索敵や調敵に関しては高い技能を持っている。

一度気配を覚えた相手ならば、3つ隣の部屋にいても何をしているかが分かる。

筈だった。


「なあ…あの子って、女の子だよね…」


「ん?見たら分かるだろう。」


「そう…見たら分かる…見ないと分からないなんて…変だ…」


ティーミスがそこに一人立っている筈なのに、何処に誰が何人居るかも分からない。

生きているのか死んでいるのかすら、近寄って脈を取らなければ分からない。

イーノにとってそれは、天と地がひっくり返る程の異常事態だった。


「…お前も疲れたんじゃないのか?援軍は直ぐそこまで来てるらしいし、早く此処を離れよう。」


「あ…ああ。そうだよね。シバ。ただ、疲れてるだけさ…」


イーノは仲間の言葉に乗り、ティーミスから視線を外す。

あの奇妙な少女の残した余韻は、イーノの心に随分と長い間、影を落としていた。

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