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振り撒かれる不幸

銀色の空。

遥か後方に銀色の山が立ち並ぶ、銀色の草が生い茂る巨大な草原がある。

そんな平原を埋め尽くす様に、小さな兵士達による巨軍が展開されて居た。


「今日が予言の日か…」


二頭身の体。見方によれば雑とも取れる打ち上げの鎧。黄色いまん丸の顔に、頭を支えるのには大分不安な大きさの体。

アニメ調と言う言葉が似合う、小さな兵隊達だ。


「“異界より来りし獣の魔神 遍くを滅ぼし 消え去らん”…ああ…何と恐ろしい…」


「案ずる事は無い。あの、長く険しい鍛錬と戦いの日々を思い出せ。今の我がエクスピス騎士団は無敵だ、そうだろう?」


「…そうだな。…王国と共に、だもんな。」


大きな旗を持った騎士が一人、そんなアニメ調の騎士達の前に立つ。


「誇り高きエクスピスの戦士達よ!時は来た!今こそ旧世より続く呪われた予言に、終止符を打つ時が来たのだ!」


“おおおおお!”


騎士達の雄叫びが上がった次の瞬間だった。

銀平の中心に、黒色をした巨大な球体が出現する。実体の無い、泡の様な球体だ。

そんな黒球の内側から一本の刃が突き出て来て、縦一文字に球体の膜を切り裂く。

切れ口からは、赤い液体と共に、一人の人間の少女が現れた。


「小人…ですか?」


勿論ティーミスだ。


エクスピス騎士団にとって、人間は未知の生命体。

王の住む城と大差のない図体。頭から生える数多の触手(実際はただの頭髪だが)。そして、どこか自分達と似た姿。

彼らにはティーミスが、実に不気味に映っただろう。


「あれが破壊の魔神…!何と恐ろしい姿だ…

しかし、我々は負けない!エクスピスの名の下に!」


“うおおおおおおお!”


小さな騎士団は、懐から各々の武器を抜く。剣、弓、モーニングスター、己、バリスタ、杖、拳。

それぞれが、最も信じる事の出来る武器だ。


「とつげーーーーき!」


小さな無数の足音が、ティーミスに向かって付き進む。


ーーーーーーーーーー


ボーナスステージ開始です。

5分間で、出来るだけ多くの敵を倒して下さい。


ーーーーーーーーーー


「…ちょっと可愛いかもです。でも、容赦はしません。」


ティーミスの左腕にボコボコと赤黒半液が纏わりつき、大顎の怪物に変化させ、地面に瘴気のブレスを吹き付ける。

銀色の草は焼ける、が、小さな騎士にはダメージは無い様だ。


「にぇ?」


ーーーーーーーーーー


【シルバーフードマン】

倒すと莫大な経験値を入手する事が出来るレアモンスターです。

戦闘力は砂塵に等しいですが、魔法攻撃が無効です。


ーーーーーーーーーー


「成る程、楽はさせてくれそうに無いですね。」


ティーミスは顎腕を解除し、最も効率的な方法を考える。

虫の様に踏み潰して行くのは面倒時間も掛るし、剣や弓では尚更。四つん這いになって戦った方がずっと効率的だ。


「…あ。」


ティーミスは右手首から、赤黒半液の大きな雫を一滴地面に垂らす。

小さな兵士が4体、その下敷きになる。


ーーーーーーーーーー


【シルバーフードマン】を4体倒しました。

40000000EXP 4G

おめでとうございます。

レベルが69→70に上がりました。

スキルポイントを4獲得しました。


ーーーーーーーーーー


地面に落ちた半液は次第に肥大化を始め、ボコボコと湧き上がり盛り上がり、そこに縦に置かれた黒い棺を出現させる。

木材とも石材とも付かぬ物質で出来たそれの蓋には、犬か狼の爪によってズタズタに引き裂かれたケーリレンデ帝国軍旗が貼り付けられていた。

棺の蓋が、内側から勢い良く開けられる。


「ピスティナちゃん、貴女のスピードを借りても良いですか?」


棺の中から、ピスティナが威厳たっぷりにツカツカと歩み出る。

この状態では、左目を隠せばどこからどう見ても、少しめかした生前のピスティナだ。


「がう。」


ティーミスの指示を聞いたピスティナは、すぐさま最高速の出る姿勢をとる。

四つん這いだ。


「うううがあああああああ!」


ピスティナの周囲に無数の短刀が出現する。

遍くを滅ぼす、獣の魔神だ。


「もう一体だと…?落ち着け!奴らの弱点を…」


音速スレスレで舞う短刀に、ボーナスモンスター達は瞬く間に斬り伏せられ、ピスティナに近づき過ぎた者は、容赦なく足か手で潰される。

最初は、“主人の命令”と言う事もありすこし動きの硬かったピスティナも、この作業を次第に楽しみ始めた。


「あう♪」


小さな騎士を一人摘み上げて握り潰し、別な騎士は、摘んだまま思い切りブンブンと振り回し天高く放り投げる。

駄々をこねる様に拳を地面にドンドンと打ち付ければ、たちまちそこは骸で埋め尽くされる。

小さな騎士達が固まっている場所を見つけたらピスティナはすぐさま飛び上がり、全員を全身で押し潰してやる。

他にも遊戯じみた方法で掃討の限りを尽くし、制限時間の五分を前に、全滅させてしまった。

そして、ただ見ていたティーミスも少し羨ましくなる程、ピスティナはこのダンジョンを目一杯楽しんだのだ。


「あうあう♪がう♪」


「よしよし、いい子いい子です。ご褒美は…何か、あげられたら良いのですが…」


「がう!」


ピスティナは、少し不安そうにしているティーミスの首元に頭を摺り寄せる。

香草のシャンプーのにおいが、仄かにティーミスの鼻をくすぐる。


「…ありがとうございます。ピスティナちゃん。そろそろダンジョンが閉まりますので、先に帰って休んでいて下さい。」


「あう!」


ピスティナの体が赤黒い液体に戻ると、そのままティーミスの右手首に吸い込まれる様に消えて行く。

兵舎への格納完了だ。


ーーーーーーーーーー


おめでとうございます。

LVが70→81に上がりました。

スキルポイントを24獲得しました。


ーーーーーーーーーー


「すごく稼げました。」


ティーミスは右手をグーパーさせ、少し口角を上げながらそう呟く。


「雨です。」


銀色の空から降ってきたのは、何の変哲も無いただの水銀の雨。

ただの水銀では、最早ティーミスの肌を焼く事は叶わなかった。


「…痒いです。うわ、痒くなる雨ですか。」


転送が始まるまでの30秒間、ティーミスはその水銀の雨を浴び続ける。

ふるい落とせば直ぐに痒みはひけるが、それでも浴びていて気持ちいい物では無い。


ーーーーーーーーーー


初期地点に転送します。

ダンジョン攻略お疲れ様でした。


ーーーーーーーーーー


「帰ったら川に直行です。そうしましょう。」


ティーミスは両手で、両の二の腕を書きながらそう言った。

この雨が、この世界が全ての力を使いティーミスに対して出来る、唯一の報復だった。

2日も経てばティーミス自身も忘れてしまう様な、この銀の世界からの細やかな復讐だった。


「…」


ふとティーミスは、足元に転がっている濡れた小さな鎧を手に取る。

この世界のモンスターは息絶えると液体化し、土に還るらしい。


「パパ…」


「?」


無数の小さな鎧の転がる銀原に、どこからか一体の小さな生き物が現れる。

二足歩行らしいその小さな生き物が膝から崩れ落ちる所までは、ティーミスは確認できた。



〜〜〜



“嗚呼…嗚呼嗚…可愛いカーディスガンドや…”


暗い洞窟の中、一体の巨龍が燻んだ赤色の石の前で泣いている。

カーディスガンドの父親、キランガンドだ。


「…キランガンド様。」


“…龍伴の民か…”


龍伴の民。

龍達の故郷[千翼の還る場所]の麓に、外界から独立した形で大規模な集落を作り、龍と共に生きる人間とエルフからなる民だ。

その歴史は数千年と旧く、文化や技術も独自な進化を遂げていた。

彼らの役目は、龍の目となり耳となる事。ドラゴンの安全な航行ルートの作成には、人間社会の情勢情報が必須だった。

ただ今回は、彼らは少し別な役目を与えられた。


“何か分かったか…あの子は…何故死んだ…あの子の居た群れに…何があったんだ…”


「…件の休憩所の惨状を見るに、明らかに事故ではありません。紛れもなく…群れは何者かによって壊滅させられ、今は[逸れ子]達で溢れ返っています。」


“何者か…?貴様!ドラゴンスレイヤーは居ないと言ったであろう!貴様らの不注意のせいで…我が娘は…カーディスは…!”


「ドラゴンスレイヤーではありません。…ドラゴンスレイヤーでは、たった一人で群れを全滅させる事など不可能です。」


“…一人…?”


「群れは、たった一人の、恐らく人間によって全滅させられました。カーディスガンド様も、恐らくは…」


キランガンドはブルブルと震える。

恐怖などでは無い。純朴な怒りでだ。


“…誰だ…誰が我が娘を!我が同胞を!”


「一人、心当たりのある人物が。」


そう言って龍伴の民が懐から取り出したのは、冒険者協会が発行した一枚のパンフレットだった。

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