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生へ縋れ 生を啜れ

若干短めです。

「ピスティナちゃん。短刀頂戴です。」


「あう。」


赤い短刀を受け取ったティーミスは、その短刀の伸縮可能な刃を利用して、大黒柱となる木材に縦に突き刺し、その見様見真似で建てた家を形作る骨組みを縫い合わせる様に貫かせ、建築の技術が無いなりに、雨風で倒れぬ我が家を完成させる。


「…ふう…」


ティーミスは工作や裁縫が得意だが、流石に家一軒を建てたことなど一度も無かった。

家を地盤に固定する地下柱は元の我が家の物を使ったが、それ以外は完全にティーミスとピスティナだけで創り上げた。

否、ピスティナは材料収集に徹していた為、家は殆どティーミス一人の作品だ。


「うーん…予定よりも大分大きくなってしまいました。倒壊してしまったらその時考えましょう。」


「なんじゃこりゃ。ハ○ルの動く城じゃねえか。こいつは動いたりしねえのか?」


「にゃ!?」


不覚にもティーミスは、ジッドの不意の来訪に驚かされてしまった。


「…お城じゃありません。私の家です。」


ティーミスは少し誇らしげに、この家の設計図を書いたスケッチブックをジッドに突き付ける。


「家ねぇ。」


ジッドは、そのスケッチブックを持ったまま。ティーミスの建てた家をまじまじと眺める。

スケッチブックに描かれた絵は、実に丁寧に書き込まれた、御伽話の森の中にでも建ってそうな家だ。

一階建てで、四角い窓が付き、煙突からはタバコの様な細い煙が立ち上っている。屋根が薄く鉛筆で塗られている為、色が着いているのだろう。


「これが、」


ジッドは、ティーミスの描いたスケッチブックの絵を指す指を、そのまま実物に滑らせる。


「これ?」


様々な家の様々なパーツが様々な場所に縫合され、場所によっては、小屋や一軒家がそのまま取り込まれている様に見える箇所もある。

明らかに、以前此処に建っていたであろう建物の倍以上はあり、少なくとも、外見では4階以上はあるが、実際がどれだけかは外からでは検討もつかない

そして所々に、建材として使った赤黒い剣や短刀などが所々から露出しており、その風体の不気味さをより一層引き立てている。


ティーミスはジッドからスケッチブックを取り上げると、自分でもその絵と家を交互に見る。


「ちょっと違いますが、大体一緒です。」


「大体一緒です。…じゃねえよ!人が中に入れるってとこと煙突が付いてるしか合ってねえぞ!

何だこれ!魔王城でももうちょい秩序あっぞ!」


「あ…アトゥとフィフィの瓦礫から建てたんですもん!仕方ないでしょう!」


「…まぁ、お前が穴ぐらで暮らそうとスクラップん中で暮らそうとどうだって良いが…」


ジッドの表情から冗談気が消える。


「…?」


「おいメスガキ、最初に確認するが、死にたくねえよな?」


「死?ですが、私は今残機が…」


「そーいう事じゃねえ。二度と目を覚ませない、本気と書いてマジの方の死亡だ。」


「…そりゃ、えっと…」


「お前、もうすぐマジの方で死ぬぞ。」


「!?」


突如ジッドは、ティーミスに突飛な現実を突き付ける。

声色は殆ど変わっていないが、どこか深刻そうだ。


「…そうですか。残念です。」


ティーミスは肩をすくめ、しゅんとした様子でジッドの元を去ろうとする。


「…は?」


「え?」


「お前、マジか?」


「だって、私はもう死んでしまうんでしょう?」


「…は?」


「え?」


「もっと何かねえのか!いつ死ぬのかとか!助かる方法は無いのかとか!」


「長く無いって事が分かればそれで十分です。

…折角ですし、最後に帝国本土にパーっと凱旋でもしましょうかね。」


ティーミス自身、もう自分の生への興味は無くなってしまっていた。

死ぬのは確かに怖いが、余命宣告をされて泣きじゃくりのたうちまわる程でも無い。

どっちにしろ、幾ら生きていたって、ティーミスはこの先、幸せに笑える気がしなかった。


「俺は!そんな儚い運命からお前を助け出す為に、わざわざ来てやったんだ!オーケー?」


「はあ…遠慮しておきます。もうこれ以上人間じゃ無くなるのは嫌です。」


「頼むからもうちょい自分の事を大切にしてくれ!お前自分が嫌いなのか?」


「はい。」


「がっ…っち、分かった頼み方を変えよう。」


ジッドはティーミスの前に立ち塞がる様に立つと、ティーミスに向かって、土下座をした。


「頼む、お前がいなくなると俺が困るんだ!」


「私が生きていると、この世界中のみんなが困ります。」


ティーミスは、どんどん落ち込んで行く。


「お前がこのままで居ても結果は変わんねえ…つーかもっと悪くなる。

いいか、お前のスキルには残留思念つーもんがあってだな!」


ジッドは、ティーミスのスキルの摂理と、これからティーミスに訪れる死がどういった物かを事細かに説明する。

残留思念に肉体を乗っ取られ、今よりも数倍残虐な行動に走る可能性があると言う事も。


「…私は…どうすれば良いんですか…また注射ですか…?」


「いやもっと簡単だ。」


ジッドは、人差し指で天を突く。


「レベルアップだ。」


ジッドはティーミスにスキルボードを開かせる。


「その中心の、トパーズのシンボルを長押ししてみろ。」


「此処ですか…?」


ティーミスが、言われた通りシンボルに触れ続けていると、画面が今までにない変化を見せ始める。

石板が降ろされ、夜空の様な景色に変わる。

今まで俯いて石板を見ていたのを、ふと手を下ろし空を見上げるかのような視点だ。

下の方に、針葉樹の森の影も見える。


「…にぇ…」


ただ、夜空と言っても星は一つしか輝いていない。

ティーミスの細い指がその星をタップすると、星は輝きを増しながら近づいて行き、豪華な装飾の施されたウィンドウへと変わる。


ーーーーーーーーーー


審判相(ジャッジメントアーツ)


《オーディン》(未開放)


摂理の否定・体 習得

摂理の否定・心 未習得 危険度8以上討伐数 1/10

摂理の否定・技 未習得 審判へと至る鍵消費数 1/3


ーーーーーーーーーー


「っし、まずはこいつからだ。」


「あの、何ですかこれ。」


「決まってんだろ?」


ジッドは、天に向けたままの人差し指を、そのまま自分の正面を向く様に移動させる。


「進捗だよ。」

これにて第1章、帰路は終了です。

ご意見ご感想等があれば遠慮無く、是非是非お寄せ下さい(´ω`)

一週間開けて、次回からは第2章、貪婪(どんらん)をお送り致します。

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