表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/250

学識で得れる物

背の高い広葉樹が立ち並ぶ、昼過ぎの森の中。

フデンとジーンと言う二人の少年が、外を目指して木漏れ日の道を少し急ぎ目で歩いている。

フデンは15歳、ジーンは10歳の兄弟で、幼い頃から二人孤児院で暮らしていた。

二人とも、安物の麻の服と短パンと言う身なりだが、兄であるフデンだけは、サンダルを履いていなかった。


「兄さん…隊を抜けて本当に良かったの?」


「…俺たちが生き伸びられるかって意味なら、微妙だ。だけどあの行軍に着いくよりは…!」


フデンは唐突に会話を切り上げると、ジーンと共に木陰に隠れる。

少しして二人の居た場所に、のそりと大きな影が現れる。


「兄さん、あれって…」


「《フォレストベア》。第2等級の魔獣系モンスターだ。」


3m程の図体をしており、全身を茶色い剛毛で覆われた熊が、しきりに鼻を鳴らしていた。


「…ジーン。喜べ。」


フデンが右手のひらを天に向けると、その手に赤い光の粒子が集まり、緋色のトカゲを出現させる。


「今夜はごちそうだ。」


兄弟の、森でのサバイバル生活が始まった時と丁度同時刻。

その頃本土を目指す大隊は、依然として森を抜ける為の進行を続けていた。


「ガキが二人見当たりませんね…」


「気にするな。逃げたなら逃げたで放っておけば良い。」


「そうですか。あ、確かこの先ですよね。」


「ああ。この森を抜けた先に武装部隊が待機している。

…あいつらは剣も握った事の無い一般市民どもだ。直ぐに済むさ。」


初めから帝国は、フィフィの難民など受け入れる気など無かった。


「あ!見て!あそこが出口じゃ無い?」


森を抜ければ直ぐに次の街に着くと聞かされた市民達は、疲労で鈍る足を早める。

何も知らない大隊は進行ペースを早め、ぞろぞろと森を抜ける。


「えーでは皆様!欠員などが出ていないかを確認しますので、一度中央に集まって下さい!」


森を抜けた先は赤茶色の岩と砂によって形作られた、小さなメサ地帯だった。

岩場と草原の境目もすぐそこにあり、遥か遠くの方に、ぼんやりと大隊の目指していた都も見える。

騎士達は最後の一人が合流するのを確認すると、指を動かし数を数えるふりをする。


「…今だ…」


騎士の一人が、籠手に描かれた魔法陣に向けてそう呟くと、一向を囲んでいた全ての岩の裏から、剣やボウガンを構えた騎士達がぞろぞろと現れる。


「な…何!?」


「お前ら…まさか!」


市民に武器を構える騎士の一人が、ふふと笑みをこぼす。

この瞬間を待っていたとでも言うかの様に。


「隊長、市民の中に騎士が居ると聞きますが…」


「心配無い。先ほど事情を説明し別働隊として森を抜けた。」


「かしこまりました。」


騎士団としては使い物にならないフィフィの騎士達だが、腐っても騎士団。

フィフィの住人からの信用は、充分に利用するに値した。


「い…嫌ああああ!」


「さあ…帝国に、その血を捧げろ。」


第三皇子の不手際により発生した、帝国に敵対するギフテッド。

通常ならば世界中の国が大パニックを起こす程の一大事な訳だが、帝国のお家芸、“隠蔽”によって、その事実は塵の一欠片すらも、抜け目無く世界から隠されていた。

ギフテッドの事実を知る者は、限られた国の限られた重役、帝国騎士団、そして、実際に被害に遭ったこのフィフィの難民達の、目撃した一部だ。


「撃方構え!」


ボウガンに矢が装填される、キリキリと言う音が市民を取り囲む。

一目散に逃げだそうとした物が居たが、当然ながら剣を持つ騎士によって切り殺される。


「発…」


ゴオオオオオ!


騎士の被っていたヘルムが吹き飛ばされる程の突風が、一向に降りかかる。


「何だ!」


「…おい…嘘だろ…」


空いっぱいを、無数のドラゴン達が覆い隠していた。

この時期になると卵を抱えた雌のドラゴン達が、産卵場所であり生まれ故郷であり、地上最大級の魔力の源泉であり、世界最高峰の霊峰[千翼の還る場所]を目指し、大移動を行うのだ。

その大移動の最中には卵を抱え疲労しやすい故に、ドラゴン達が一時的に、世界各地に存在する“休憩所”と呼ばれる場所に一時的に着陸する。

一行が立つこの小さな小さなメサも、ドラゴン達の立派な休憩所だった。


「ニンゲン…」


ドラゴンの群れの中から、緑色の大きな翼を持つ少女が一行の前に降り立つ。

白い短髪。ねじれた古木の様な重厚感のある双角。緑色の鱗に覆われた長い尻尾。白目に赤い瞳。服は着ていない代わりに、緑色の鱗が局部や手足の先を覆っている。

ドラゴニュートと呼ばれる種の、竜人だ。


「オマエラ…ハラ…ヘッテルカ…?」


竜人の言葉に呼応するかのように、メサの岩場に次々とドラゴンが降り立つ。

このメサ地帯は自然に出来たものではなく、定期的に飛来するドラゴンの魔力を受け、変質した土地だった。


「ひ…ひいい!」


一目散に逃げ出そうとした騎士が、付近に居たドラゴンの爪に引き裂かれ、文字通り三分割される。


「イチ…フウ…ニ…ヨ……オマエラ…シンゾウヒトツニ…ゴニンダ…イイナ…?」


ドラゴン達は互いを数える時、個体では無く心臓の数を数える。

例えば、頭部を複数持っているドラゴンの心臓は一つだが、腹に卵や子を抱えているドラゴンの心臓はその数だけ追加で数えられる。

巨龍や神龍と言った高位のドラゴンの中には、心臓を複数持つ者も居る。

実に合理的な数え方だ。


ガアアアアアアアアア!!!

ゴオオオオオオ……

アアアア…丁度小腹が空いてた所だったんだ…!


ドラゴンはその生物としての強大さ故に、例外無く第九から、等級制度最高位の第十等級の値が付けられる。

この一行は今、幾十かのドラゴン達によって取り囲まれている。


「ヨシ…ナンニンカハトッテオケ…シンリュウサマヘノ…ミヤゲダ…」


幾重にも折り重なった陰謀を乗せた、フィフィ騎士団、フィフィ市民、この作戦の為に帝国から派遣された幾十かの騎士達による大隊。

彼らはこの瞬間を()って、長旅に臨むドラゴン達の上等な間食へと変わった。



〜〜〜



「これで…十個目!」


ティーミスの拳が、巨人の脛に当たる。

当然ここでは踏み潰される恐れがある為、ティーミスはすぐさま巨人の全身を視界に収められる距離にまで移動する。


「《売約済み(オズブランド)》!」


巨人の体の至る所に付与された【商談】の烙印が浮き出てくる。

烙印は四方に鎖の文様を張り巡らし、烙印同士が文様で連結し、巨人を拘束する。


ギギギ…ギイイ…


巨人の纏う鎧の関節部が軋む音が響く。

ティーミスは掌を握りしめたまま、その拳を左から右へとずらしていく。

巨人の体が、少しづつ場外へと逸れていく。本当に少しづつだ。


(残り時間は2分…これじゃあ…とても…!)


ベキッ!


「ひ!?」


ティーミスの手首が、痛々しい音を放つ。


ーーーーーーーーーー


あなたは[右手首]を【骨折】しました。

【骨折】

所定部位を使用し続けた場合ダメージを受け続けます。(このダメージによって体力は0にならない)

所定部位を使用せずに居た場合、一定時間で解除されます。


ーーーーーーーーーー


「痛い…ただただ痛い…」


巨人を拘束し場外へと引っ張る力が弱まり、巨人は剣を持ち上げる。

予備動作からして、地面を半月型に薙ぎ払うつもりらしい。

ティーミスは、その赤く染まる地面から抜け出そうとはしなかった。

それどころかティーミスは、上着をアイテムボックスの中にしまいこんでしまった。


「ふう…掛かってきてください!」


巨人の剣の中段辺りが、最高速度でティーミスの全身に直撃する。


「う”!」


半月を描く予定だった巨人の剣は、ティーミスの体によって停止する。

本来ならば即死級の一撃。ティーミスの防御力故に食い止められた一撃だ。

ティーミスは全身の骨や内臓を痛め吐血する。


「…ふ…」


ただ、これがティーミスの狙いだった。


「体が火照る…手足が震える…頭に血がのぼる……これが…私に唯一許された…幸せ…」


気を失いそうな程の苦痛と快楽を得たティーミスは、骨折したままの右手で巨人への拘束を強め、そのままその巨人の大剣を再びよじ登り、巨人の胴体の辺りに飛び掛かる。


「《復讐の始まり(飛んで下さい)》!


左手にも拳を結び、壁を連想させる程に巨大な漆黒の鎧へと叩きつける。

見た目は、ただの左ストレートだ。


ゴオオオオオオン!


大きな金属が、瞬間的に無理やり捻じ曲げられる音が鳴り響く。

天すらも穿つ程の巨人の体が浮き上がる。

一秒地面から足を離させれば、それで十分だった。


ティーミスの右の拳が宙に突き出される。

巨人の体が勢い良く場外に吹き飛び、そのまま重力に任せ落下して行く。

クエストの内容はあくまでも、“闘技場内の”全ての敵を倒す事だ。


「はあ…はあ…はひ…」


結局ティーミスは、今回も満身創痍になってしまった。


ーーーーーーーーーー


クエストダンジョンをクリアしました。

100EXP 0G

アイテム

【亡滅の巨剣 ランページ=ギルティ】

【[EXP]ボーナスダンジョンキー】

入手しました。


ーーーーーーーーーー


例の如く、ティーミスの体は光に包まれて行く。

ふと気になったティーミスは、血まみれの折れた歯を一本ぺっと闘技場に吐き出す。

ダンジョンの中に物を残した場合、どうなるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ