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ありふれた私怨

「ピスティナちゃん。そっちは?」


「ぎゃう。」


ピスティナは、短刀にまみれて絶命しているグラスの遺体を窓から放り投げる。

スプリンターであるピスティナは行動妨害を弱点とするが、幸いにもこの魔道士は攻撃型であった。


「良い子良い子。」


すっかりピスティナに愛着が湧いたティーミスは、ピスティナの頭をわしゃわしゃと撫でる。

ピスティナは愛おしそうにティーミスに頭を摺り寄せ、幸せそうに目を閉じている。

大人の女性が仔犬のような挙動を取っている故に、捕虜の身となったフィフィ王は、そんな二人の様子を神妙な眼差しで眺めている。

はたから見ればピスティナは、人間の尊厳すら捨てて少女を溺愛する奇怪な女性だ。


「…貴様ら…王の御前で何たる態…」


「うるさいですね。」


ティーミスが手を振り上げると、フィフィ王の体に鎖の文様が浮かぶ。

フィフィ王は既に、ティーミスの所有物だ。


「ぐぅ!」


フィフィ王は、見えない力によって跪いた姿勢にされる。


「私の事、覚えて無いんですか?」


「!?知らん!貴様の様な子供など…」


「………」


ティーミスは付近にピスティナを座らせると、フィフィ王の方へと歩む。

フィフィ王を跪いた状態から立ち上がらせ、ティーミスはその足元に仰向けに寝転がる。


「嫌だ…痛い……お願い…です…もう…許して…」


「…!」


「思い出しました?」


なぞなぞ遊びでもしているかの様に、ティーミスは少し楽しげな、明るい口調になる。


「確かこう言ってましたよね。“そこらの奴隷よりもずっと調子が良い”と。」


ティーミスには、彼を恨む十分な理由が存在した。

鞭打ち231回。焼きごて62箇所。焼針刺し89本。少女の純潔を踏みにじった回数102回。

単純な暴力幾百。宝石の様で不気味だと言って、瞳を四回潰した。

それが、少なくともティーミスが認識しているフィフィ王の罪状だ。


「しかし、私はあくまでも悪役です。悪魔にはなりたくありません。…きっかり、同じだけ…いえ、ポージョンが無いので、大分割安になっちゃいますし、私が受けた物をそっくりそのまま返す事なんて、不可能です。」


ティーミスは、自分の下腹を手首で軽く撫でる。

どうしたって返す事の出来ない苦痛は、裏を返せばティーミスだけの物。

例えそれがどうしようもない絶望と痛みだったとしても、それが今のティーミスを作る特別な痛みだったのなら、それはティーミスにとってのアイデンティティの欠片だったのなら。

少しくらい、大切にしても良いのではないか。


「ピスティナちゃん。後は、頼みました。」


「あう。」


ピスティナは短刀を一本出現させ、その刃を握り思い切り引き延ばす。

即席の鞭を完成させたピスティナを確認すると、ティーミスは少しゆっくりとしたペースで、玉座の間を後にした。


「よせ…やめろ!私を誰だと…やめろ…嫌だあああああああああ!!!」



〜〜〜



ティーミスは、フィフィ王城の屋根の上に腰掛けている。

ここなら、風の音以外、ティーミスを邪魔する物は無い。


「………」


ーーーーーーーーーー


鑑定が完了しました。

この魂を分解すると、以下の物が手に入ります。


・スキルポイント×51

・クエストダンジョンキー


ーーーーーーーーーー


ティーミスは意外にもあっさりと、目標だった38ポイントを入手する事が出来た。

今回はたまたま運良く一攫千魂出来ただけであって、【奪取した命】とは本来非常に希少かつ高価値なアイテムなのだ。


ーーーーーーーーーー


《軍師》を18重習得しました。


ーーーーーーーーーー


これでティーミスは、いつでも収納魔法によってピスティナを格納できる。


「13ポイントも残りました。」


この13ポイントはとっておこうかと考えたティーミスだが、ふと思い出し再びスキルボードを開き。


ーーーーーーーーーー


怠惰相(ピグリチアアーツ)


アクティブスキル


《革命の弾丸》習得コスト・13

10秒間あなたは【プラスチックガン】を装備します。

【プラスチックガン】

弾が一つだけ込められた、超高性能の3Dプリンター銃です。

対象の急所に弾丸を当てる事が出来た場合、絶大な威力を発揮します。


ーーーーーーーーーー


説明文の割には、実に高額なアクティブスキル。

ティーミスは、そんなこのスキルに興味が湧いたのだ。


「…銃…」


否、ただティーミスは、その生涯でほとんど接した事の無かった筈の銃と言う物に興味をそそられたのだ。


と、ティーミスは、耳に届く風の音がいつの間にやら強くなっている事に気が付く。

それに、城下が少し騒がしい。


「…?」


ティーミスはふと空を見上げる。

空いっぱいにいつかの【スカイメイジ】の群れが展開し、その更に上空には巨大な影が一つ。


ーーーーーーーーーー


【スカイジャイアント】

スカイメイジを束ねる、無数の精霊が集結して生まれた巨大霊です。

出現した地には、暴風地帯へと変貌します。

警告

・レイドモンスター


ーーーーーーーーーー


「にぁ?」


風がそのまま声を成し、遥か天空からティーミスに向けて呼びかけられる。


『我が眷属を打ち滅ぼした、愚かなる者よ!我が空霊の怒りを、その身に受けるが良い!』


青空の向こうから地上を見下ろす、半透明の空色のリボンが編み合わさった体を持つ巨人。

この世界の、レイドモンスターだ。


『集え!アトラスのつむじ風よ!万物を破壊し、無へと返し』


ティーミスは右手に、角ばった形の無骨な銃を構える。

徒競走の開幕を告げる感覚で、真上にある巨人の頭めがけて、天空に向かい引き金を引く。


「あた!」


発砲直後、銃は熱破裂し、ティーミスは右手に裂傷と火傷を負う。


ーーーーーーーーーー


あなたは160の代償ダメージを受けました。


【スカイジャイアント】を倒しました。


ーーーーーーーーーー


「…にゃ?」


ティーミスは右手についた火傷を舐めながら、天を仰ぐ。

巨人の纏っていた半透明なリボンが天からふわりふわりと舞い降りて行き、その下にあった水晶の様な材質の、人間の物の形をした骨が、浮力を失い落下を始める。


「い…一撃…ですか…?」


ティーミスは、その手に僅かに残るプラスチック片を眺める。

銃機にも、ティーミス自身の攻撃力が参照されるのだろう。


遠くの方で地鳴りが起こる。

街に巨人の大腿骨が落下し、フィフィの一角が瓦礫と化す。

天空から巨大な人骨が落下するその様は最早軽いホラーだ。


「これはこれで良いですね。」


しばし、その荒々しくも幻想的な光景をティーミスは眺め続ける。

城を押し潰してしまいそうな巨骨は、跳躍からの蹴りによって弾き飛ばす。

城の中ではまだ、ピスティナが仕事をしている。


「…あ。」


ティーミスは、子供を抱えた女性が巨人の骨の下敷きになる瞬間を見てしまった。

ここはアトゥとは違う。何も知らずに暮らして来た、一般市民も居るのだ。


ティーミスは、自分の小さく震える手を見つめる。

間接的とは言え、ティーミスは虐殺に手を染めてしまった。


「…あ…ああ…ああああ!」


ティーミスは震える手で頭を抱え、体制を崩し城の屋根から転げ落ち、地面に全身を打つ。

自分以外の沢山の悲鳴が聞こえる。命が消えていく気配がする。


「うわあああああ!」


これが、無差別虐殺の感覚だ。

無数の罪が、瞬間的にティーミスに降り注ぐ。

ティーミスが直接手を下している訳では無い。実際はただの二次災害だ。

ティーミスが呼び寄せたスカイジャイアントをティーミスが此処で討伐した事による、ただの二次災害だ。

全てティーミスが原因の、ただの二次災害だ。


「おええ!」


罪に臓物を押し潰される心地がして、嘔吐する。


「お…ごお!?」


吐瀉物の中に、人骨が混じっている。

大きさや形状から、大人の男性の肩の物だろう。


「…あ…」


ティーミスは、ふと思い出してしまった。

自身が幽閉から解放されてから、自分の口では何も食べて居ない事を。


怪物(モンスター)

誰にも理解されない、自分自身ですら理解出来ない、正真正銘の化け物。

それが今の、これからのティーミスの、正体。

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