晩餐会
今回はほぼスキルビルド回です。
興味のない方は、最初の方と最後の方だけをちょこっと読んで頂くだけても問題ありません。
ティーミスの右肩の辺りから、赤黒の絵の具の様なものがドクドクと湧き出る。
それは直ぐにティーミスの右腕を包み形を成し、ティーミスの腕を、赤い縁取りに黒い体、赤い目赤い大顎の怪物に変えた。
ティーミスはなにかを確かめる様に、その【招かれた客】を二、三、ガチンガチンと嚙みあわせる。
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【招かれた客】
《晩餐》によって生み出された、暴食の使徒。
顎頭型の腕装備で、強靭な顎は守りの硬い相手にも有効です。
擬似的な消化器官も備えており、あなたの血肉のための捕食活動も可能です。
攻撃力+210
攻撃時、あなたは敵に与えたダメージの50%分回復します。
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「なんだありゃ!」
「構うな!逃げろ!」
清掃員が二人、牢から逃げ出そうとする。
「待て、わたしから離れるな!」
祈祷師が呼び戻そうとするが、既に手遅れだった。
ティーミスの顎腕から吐き出された赤黒い瘴気に冒されると、二人の体や周囲の石壁を黒い炎が包む。
「ぎゃああああ!」
「誰かー!誰かこれ取ってくれー!」
悶え転げ回るだけの二人を、ティーミスの腕が難なく捕食する。
バキリバキリと、骨を砕く様なおぞましい咀嚼音が収容室にこだました。
それと同時に、痩せこけ枯れ枝の様だったティーミスの体は、瞬く間に血色と肉を取り戻し、本来の少女らしい身体つきを取り戻した。
「…クプ…」
ティーミス自身は何一つ口にしていないが、2年振りの満腹感を得る。
顎腕で即座に栄養にまで分解された物は、ある一定量はティーミスまで届き、残りは顎腕に蓄積されていく仕組みだ。
その証拠に、顎腕は先ほどの1.3倍ほどまで肥大化し、牙もより多く、より大きくなっていた。
「おのれ…アトゥの残党のガキがぁ!貴様など、潔く死ねば良かったのだ!」
「じゃあせめて、潔く殺して欲しかったな…」
「抜かせ!《聖槍》!」
祈祷師の周囲に、四本の光の槍が浮かび上がる。
闇属性を打ち払う聖なる光の尖槍達は、何かに射出されたかのように、一斉にティーミスの方に飛来して行った。
カン!キン!コンキン!
ティーミスの顎腕に激突した聖槍は、あっけなく折れ塵と化した。
「…!」
「くすぐったい…ふざけているんですか。」
ティーミスの紫色に輝く瞳は、真っ直ぐと祈祷師の方に向けられた。
祈祷師は、この時初めて気づいたのだ。
ティーミスのスキルが、闇魔法じゃな…
グシャア!
………
布と肉と、金属と骨をすり潰す音が響く。
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【見習い祈祷師LV17】を倒しました。
EXPを209手に入れました。
おめでとうございます。レベルが1→7に上がりました。
スキルポイントを12獲得しました。
次のレベルまで
あと91EXP
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ティーミスの顎腕【招かれた客】は、ボコボコと泡立つ様に弾け消えていく。
パシャリと、顎腕に付着していた僅かな血肉が、血の池に落ちた。ティーミスに対する拷問の果てに生まれた血の池に。
「…ご馳走様でした。」
どうにもこうにも、先ずは外に出なければいけない。先ずは、手頃な服をここで見繕う必要があった。
二年間、ティーミスは着るものすら与えられなかったが、流石にこのまま外に出るのも堪える物がある。
死体の山からの物色の開始と同時に、傍に縮小版のスキルツリーのウィンドウを出現させる。
(成る程、丸いアイコンはパッシブ、四角はアクティブ、六角形は…キー…?)
今のティーミスには、六角形のアイコンの意味はよく分からないが、かなり遠くにあった為、今は気にしないでおくことにした。
真面目で勉強好きなティーミス。もし学校に居れば、物静かな優等生のマドンナのポジションだろう。
(…この金色の方から伸びるのは…『傲慢相』。何だかカッコ良さそうです。)
ふとティーミスは、傲慢の衝動に駆られた自分を想像した。
「…お友達は、出来なさそうですね…」
例え孤独な一生を送ったとしても、暗がりの中で息絶えるよりは数段マシだ。
少し落胆しながらも、ティーミスの細い指は金銀宝石の財宝で彩られた四角いマークに触れた。
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『傲慢相』
パッシブスキル
《軍勢》習得コスト・6
緋色の軍勢が、あなたの名の元に戦います。
このスキルを習得後、下記のスキルが自動的に習得されます。
アクティブスキル
《招集・歩兵》
消費徴兵力・1体/10
紅の剣を手に戦う、あなたの歩兵が召喚できます。
力は弱いですが、その分製作コストも低く、一度に大量に使役することが出来ます。
攻守ともに幅広く扱える汎用性も魅力です。
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「…なんだか凄そう…」
今あるポイントの半分を使うが、ティーミスは目を輝かせながら、そのアイコンを拳で叩いた。
その石板のようだったマークが割れ、その下にあったと思われる水晶のような物に変わるという演出が施されていた。
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新たな能力値が追加されました。
徴兵力 100/100
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(…成程。無制限って訳でも無いのですね。)
ティーミスのスキルの最もな異常性と言えば、魔力やマナと言ったリソースを一切必要としないことである。
がしかし《軍勢》には、術者を守るための専用のリソースが設定されていた。
(《軍勢》から伸びている項目は、殆どが《招集》系ですね。これは…また今度にしましょう。)
残りのスキルポイントは六つ。
速攻で役に立ちそうなスキルを探す。
と、今度は灰色で彩られた、丸いアイコンの方に視線が向く。
パッシブスキルだ。
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『怠惰相』
パッシブスキル
《ただ一晩の眠り》習得コスト・2
一晩眠ることが出来た場合、体力、リソースが全快し、状態異常も全て回復します。稀に、スキルポイントを獲得できる場合もあります。
また、どんな場所でも然るべき環境がそろえば眠ることが出来るようになります。
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頭で何かを考えるよりも先に、ティーミスの手はそのアイコンを叩き割ってた。
ティーミスは、眠ることが大好きだった。
(ああいけません!こんなの今は役に立ちません!…ポイントは、あと四つ…)
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『憤怒相』
アクティブスキル
《復讐の始まり》習得コスト・4
敵に与えたダメージの半分、自身が受けたダメージの値分、怒りを蓄積していきます。
怒りが蓄積されている場合、全て消費してその値分の追加確定ダメージを与える拳撃を放てます。
その後、あなたは一定時間、消費した怒り分の追加攻撃力を得ることが出来ます。
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(一見しょぼそうですが…拳なら小回りが利いて良さそうです。)
少し考えたが、ティーミスはこのスキルを受け取ることにした。
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新たな能力値が追加されました。
怒り 0/10000
(このリソースは、眠ることによっては回復出来ません)
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(こんなものでしょうか。…さて、こっちは…)
ティーミスは、近くに落ちていた拷問具の針と、死体の纏っていた服の糸と布を使い、即席の服をこしらえたのだ。
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◇ティーミス・エルゴ・ルミネア◇
・LV7
・HP 182
・攻撃力 28(+200)
・防御力 21(+200)
・俊敏性 20(+200)
・魅力 731(+200)
・徴兵力 100/100
・怒り 0/10000
次のレベルまであと
8EXP
習得スキル
パッシブ
・《ただ一晩の眠り》夜間睡眠時全快。まれにスキルポイントボーナス。
・《軍勢》リソース『徴兵力』を追加する。
アクティブ
・《招集・歩兵》
徴兵力を10消費し、あなたの能力値の10%を受け継いだ【歩兵】一体を召喚する。
・《復讐の始まり》
リソース『怒り』を追加する。
『怒り』を全て消費し、その値の追加ダメージとあなたへの攻撃力バフを持つ拳の一撃。
イラつくとか、イライラするとかのこの『イラ』。
実はラテン語だったりします。