表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/250

いかさまアロー

(ゆーこーそんざい?)


ティーミスは首を傾げた。こんなにもお互いを信用していない状態で、友好と言われてもピンとこなかったのだ。

ただ少なくともティーミスは、今は彼らが刃を向ける対象で無いことは理解できた。


ーーーーーーーーーー


なお、協力関係を結ぶことが出来なかった友好存在は、あなたに敵対する場合があります。


ーーーーーーーーーー


「…よろしくお願いします…」


ティーミスは頰に冷や汗を垂らしながらか細く答える。自らの第一印象を、自らの手でかなり落としてしまった。


「まあまあクエンス、相手は小さな子供だ。そう目くじら立てる事も無いだろう。」


金髪の男性が、クエンスと呼ばれる青年の肩を宥めるようにポンと叩く。もう片方の手には、依然として安全装置の外れた銃が構えられている。

と、無線での通信を終えた黒髪の女性もティーミスに近付いていく。


「……」


女性が銃を構えたまま近付いて来たため、ティーミスは少し緊張する。

銃も、物によっては、ティーミスの弱点である貫通属性を備えている場合があるのだ。


「貴女は、どこの管区から来たの?」


「管区?いえ、私は…その、遠くの国から来ました。」


「国?アウトキャンパーの迷い子かしら?ねえ、家族とか仲間は、何処に居るか分かる?」


「家族は…その、2年前にみんな居なくなりました。」


「二年前…と言うことはNo.121の出現で…つまり貴女は、それからずっと一人で生きてきたの?」


「はい…まあ…」


ティーミスは頭を搔く振りをして、しきりに冷や汗を拭っていた。

まさか、この世界はダンジョンで、自分は強くなる為に此処に来たなどとは言えない。

身の振り方を決めようにも、ティーミスはこの世界に関しては全くの無知だ。

ティーミスは、彼らの武器や格好、そして付近の街並みを観察する。

先程のモンスターは明らかに魔法を扱っていたが、街灯からも街からも武器からも、これっぽっちも魔力を感じない。


と、金髪の男性がティーミスの肩をポンと叩く。

不意を突かれ、ティーミスは一瞬ピクリと跳ねる。


「でだ、お嬢ちゃん。さっきの事も説明してくれないか?」


「?」


「剣一本で、一体どうやってNo.51共を退けたんだ?どうやってあの距離で拘束を喰らわなかった?

…ん?あの剣は何処にやった?」


「えっと…その…」


と、4人の上空を巨大な何かが通り過ぎ、ほんの一瞬だけ周囲は闇に覆われる。


「上よ!」


女性が、上空を指差しそう叫ぶ。

上空から、巨大な黒鳥が4人の前に降り立つ。

夜の帳の様に黒い羽毛。骸骨を被った様な頭。付近に浮遊する、二本の巨大なギザ槍。カラスの様に短い首。骸骨面の奥で光る、狂気がそのまま可視化されたかの様な赤い光を湛える瞳。


ーーーーーーーーーー


【No.28 骸鳥】

浮世の者を妬み嫌う、上級の鳥型モンスターです。

《フルトラムストライク》《シャドウラグナロク》《デスウィンド》等の、多数の強力なスキルを繰り出し、視界に存在する全ての生命を絶ちます。

あなたより非常に格上のモンスターです。


警告

マルチバトル限定

即死耐性推奨


ーーーーーーーーーー


男性はティーミスから離れると、天高くに聳える巨鳥の頭に銃口を向ける。


「本部!聞こえるか!No.28が出た!支給応援を…っちぃ!」


男性は、うんともすんとも言わぬ無線機を投げ捨てる。

巨鳥の放つ瘴気によって、既に通信機器はその機能を失っていた。


「マステンド!ネレイス!撤退するぞ!」


へパイトスと名乗った青年が、残りの二人を呼び寄せる。


「此処は危険よ!貴女も一旦私たちと来て!」


女性がティーミスの手を惹こうとする。


「待ってください!あれを倒さないと!」


「何を言ってるの!幾ら何でも危…」


巨鳥の周囲に漂う槍の一本が、血色の赤い光を放ち始める。

何かを警告する様に、ティーミス達の居る地面も同じ色に輝き始める。

否、ティーミスの視界に入る地面、建物全てが赤く点滅を始める。

どんなに速く走っても、警告範囲からは逃れられないだろうとティーミスは予感する。


ーーーーーーーーーー


警告!

相手は《フルトラムストライク》の準備をしています。

該当部位に一定以上のダメージを与えての阻止。又は、防御体勢を取ってください。


ーーーーーーーーーー


「速く逃げないと!ほら!」


ティーミスを必死で連れて行こうとする女性。


「おいネレイス!そいつに構っている暇は無いぞ!」


そんな女性を、ネレイスを呼び寄せようとするへパイトス。

先程ティーミスに尋問しようとした男性は、その銃でしきりに巨鳥の頭部を攻撃しているが、骸骨面に阻まれ攻撃が通っている様子は無い。

このままでは全員死ぬ。ティーミスはそう確信した。


「…て、テイク!」


ーーーーーーーーーー


このダンジョン内では、召喚魔法は使用出来ません。


ーーーーーーーーーー


「うう…だったら!」


ティーミスはアイテムボックスから弓を引っ張り出し、狼の頭の形をしたボール状の物をつがえる。

ボール状の物は弦に触れた瞬間一本の矢に変形し、ティーミスが弦を弾くと矢の長さも一緒に伸びて行く。


「え?」


ネレイスは、そんなティーミスの姿を見て戸惑う。

後方に居た二人も事に気が付き、驚愕を見せる。


「…ふー…」


ティーミスがストックしている触弾はこれが最後だったので、ティーミスは慎重に狙いを定め様とする。


キョエエエエエエエエエ!!!


「にゃああ!?」


巨鳥が唐突に放った鳴き声に驚いたティーミスは、かなり狙いのぶれた状態で矢を放ってしまう。

引き絞りも足りず、矢はあらぬ方向へ飛んで行こうとする。

ティーミスは慌てて弓を地面に落とし、右手を握り、何かをぐいと持ち上げる様にその拳を動かす。

降下を始めていた矢は空中で不意に上を向き、赤く輝く巨鳥の左槍へと一直線に加速して行く。

左槍に見事に命中した矢は、赤黒い爆柱へと姿を変えた。

パリパリとひび割れた左槍は、光と浮力を失い地面へと落下する。

巨鳥は驚いた様に首を後方に倒すと、そのまま何処かへ飛び去ってしまった。


ーーーーーーーーーー


ダンジョンクエスト【生妬む巨鳥】

進捗1 『双槍のうち片方の破壊』が達成されました。

進捗2 『決戦 生妬む巨鳥』が自動的に受注されました。


ーーーーーーーーーー


「はあ…はあ…ふう…ふぁ…」


地面に落ちていた弓をしまい込み、息を切らし、ティーミスはその場にへたり込む。

自らのバクバクと言う心音が、ティーミス自身の耳にまで届いていた。

と、そんなティーミスの後頭部に、硬く冷たい物がピタリとくっつけられる。


「何故“黒能”を使える。貴様、さては新種の“黒害”だな?」


「こくのう…?こっがい…?」


前世で聞いた事のある単語ならばティーミスもピンとは来るのだが、今回の場合はそうはならなかった。

そしてそれ以上に、過度な心的疲労によって、ティーミスは今判断力が著しく欠けている状態であった。


「付いて来い。貴様を本部まで連行する。」


へパイトスはティーミスの手首を強引に掴みティーミスを無理矢理立たせる。

無気力に、されるがままのティーミス。

そしてそれを、ネレイスが止めに入る。


「待ってへパイトス。決め付けるのは良く無いわ。」


そこに、ティーミスはまだ名前を知らない男性も加わる。


「そうだ。俺も連行には賛成だが、あんまり乱暴に扱うのもどうかと思うぜ。

黒害でもなんでも、命の恩人である事に変わりはしないんだ。」


「ネレイス…マステンド…分かった。護送車を手配した。それで本部に戻ろう。」


少し経ち、4人の元に黒塗りの大型車が到着し、ティーミスは重厚な作りの手枷や足枷をはめられ、車の後部に乗せられた。

揺れる車内の中、ティーミスはぼんやりと先程の事を考える。

もしも矢が一本しか無く、《怠惰な支配者の手》のスキルが無くても、ティーミスは弓を取ることが出来ただろうか。

弓を射る覚悟が、ティーミスにはあっただろうか。


(…いえ…まさか。)


否、そんな勇気は、ティーミスは持ち合わせて居ない。

実際、物体操作スキルがあっても心臓が破れんばかりの緊張を覚えたのだ。


ティーミスは改めて自覚し落胆する。

幾ら強大な力があれど、ティーミスはただの臆病な少女なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ