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英雄と主人公

「…此処か…」


アトゥの地へと誘うのは、ケーリレンデ帝国様式の巨大な凱旋門。この門は、帝国の領土と下界とを分かつ物だ。

ピスティナは2人の護衛と共にその凱旋門を潜り、アトゥの地へと入っていく。この凱旋門の向こうは帝国の外、アトゥの地だ。


「…気をつけてください、ピスティナ閣下。街全体から、ただならぬ気配を感じます。」


護衛はピスティナの周囲を固める様に立ち、周囲に気を配りつつ進んでいる。


「ん?あれは…ぎゃ!」


と、不意に護衛が一人失踪する。


「どうしたエイ…うわあ!?」


消えた護衛の様子を見ようと振り返った別の護衛も消え去る。

危機を察知したピスティナは後方に跳躍し、護衛達が消えた地点から距離を取る。


ピスティナの背後の地面が急速に盛り上がり、巨大な黒い塊がつき上がる様に出現する。


カチカチカチカチカチ!


不気味なまでに綺麗に生え揃った人間の様な赤い歯を打ち鳴らす、巨大な赤黒い蜘蛛がピスティナを睥睨する。


「っく!まさか…こいつが…!」


強大な力を持った人間が、異形へと成り果てるのは別に珍しい事では無い。

状況から、ピスティナはこの怪物が件のギフテッドと推測する。


ピスティナはこめかみの辺りに触れ、自らの視覚を司令部の投影魔法と共有する。

司令部は主にギフテッドの記録、遠隔支援魔法、超遠距離からの射撃支援を行う。


「何というおぞましい姿の怪物なのだ…これが、過ぎた力を授かった少女の成れの果てだと言うのか…!」


ピスティナが二本の短剣をベルトから抜き構えると、ピスティナの周囲に同じ形の短剣が無数に出現する。


「呪われた力に身を焦がされし哀れな少女よ…今、私が開放し…」


ドシャアアアアアアン!


不意に、ピスティナの背後から放たれた爆発物が巨蜘蛛の頭に命中し、赤黒い爆柱を伴いながら巨蜘蛛の頭は爆散。その体も、腐った様にドロドロと融解し少しづつ消えていく。


「…ひゅぅ…ひゅぅ…ひぃ…」


ピスティナが振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。


赤黒の囚人服の上下を両方とも下半身に身につけ、上半身は胸に細身の黒革ベルトを巻いている以外素肌を全て晒し、首からは十字架のロザリオも下げている。へその左の辺りには、実に精巧に描かれた花の蕾の刺繍が施されている。


そして、全身を痛々しい裂傷が多い、額からは小川のように流れる血が数筋伸びている。

右目は潰されており、残った左目も入る血によってほとんど機能が奪われている。


「…貴様が、ティーミス・エルゴ・ルミネアか…?」


「…ひゅぅ…ひゅぅ…」


瀕死に追い込まれながらも【咀嚼する狂気】に勝利したティーミスは、手にしていた魔弓をアイテムボックスの中にしまい込む。

そしてその数秒後に、ティーミスは閉じかけの左目と酸素と血が足りない脳でやっとピスティナを認知する。


「…あな…た…は?」


「私は…ケー…」


ピスティナはふと、帝国を名乗るのを思いとどまる。


「…」


ピスティナは、とある仮説にたどり着く。

もしかすればティーミスは、先ほどの怪物のような、帝国にとって、人類にとっての未知の脅威と戦う戦乙女で、ティーミスにとって帝国は、その邪魔をするだけの迷惑な国家に過ぎないのではと言う、最も残酷で現実的な仮説だ。


「…私の名前はピスティナ・クル。貴様を打倒し、泉を奪還すべく参った一介の兵士。私は貴様に、決闘を申し込む!」


「…?…」


ティーミスは魔剣を構え、その虚ろな片目でピスティナを見つめる。


「…取り敢えず…泉は…渡しませ…ゴホ!」


肺が潰れ吐血するティーミスを見て、ピスティナはふと迷いを抱く。

ギフテッドとは言え、満身創痍の少女を殺す事が本当に正しい行いなのだろうか。得体の知れない化け物との戦いを終え弱り切った少女と戦う事が、本当に決闘と呼べるのだろうか。

ピスティナは既に、フィフィ王国からの遠隔支援魔法と言う不正を行っている。そこにさらに、不平等な条件をこの少女に課すべきなのか。


(…いや、何が正しいとか、何が間違いとかは、今は気にするべきでは無い。今は泉が最優先だ。)


ピスティナは良心を押さえ込みながら、ベルトに装着されている二本の短刀を抜き、その刃同士をカンと一つ打ち付け合う。


「《千刃》!」


ピスティナの周囲に無数の短刀が出現し、その刃先は一斉にティーミスに向かう。

ティーミスはいつも通り片手で大剣を振るおうとするが、激痛と共に肩がメキリと嫌な音をたてたので、仕方無く両手で構える事にする。


ーーーーーーーーーー


現在あなたは【重傷】【無復の呪い】状態です。戦闘離脱を推奨します。


【重傷】♾秒

あなたの体に刻まれた数々の傷が、あなたに毎秒112のダメージを与え、体力以外の能力値は全て10分の1にまで低減します。


【無復の呪い】3521秒

狂気の使徒による傷に込められた呪いです。現在あなたは回復行動を行えません。


ーーーーーーーーーー


ティーミスは突如現れたウィンドウを払いのけ、魔剣を構えピスティナに向けて飛び上がる。

ピスティナの周囲に浮かぶ短刀が集結し一枚の防壁を形作るが、壁はあっさりと縦一直線に溶断される。


「あれ?」


その壁の向こうには、既にピスティナの姿は無い。


「《千刺突》!」


隙を晒したティーミスの背めがけて、無数の短刀を周囲に浮遊させたピスティナが飛びかかる。


スプリンターとはその名の通り、優れた機動力によって、援護や牽制などの様々な活動をこなす役職だ。

ピスティナはその中でも牽制特化型。それも、殺傷を伴う強烈な牽制だ。


ティーミスはその魔剣をしまうと、飛来する短剣の数本を躱し、ピスティナの持っている短剣を素手で握り受け止めてしまった。

ピスティナの突進は止まるが、短剣の飛来は止まらない。

ティーミスの体に既にある沢山の裂傷を急所と判断した短刀が、羽虫の様に飛び回り、ティーミスの体を包み込む様に蚊柱を作り、容赦なくティーミスの傷口をなぞっていく。


プツプツと、ティーミスの体の筋が断ち切られていく。

次第にティーミスの体は機能を失っていく。


「…あう…」


足首の腱が断たれ、ティーミスはとうとう立ち上がる事すら出来なくなる。

自らを受け止めていた力が弱まった事を察知し、ピスティナは手に持っていた短刀からティーミスの手を振り解く。

ピスティナは浮遊する短刀を右手に集結させ大きな一本の刃に変える。

ティーミスは流石に観念し、ピスティナに自らのうなじを差し出すかの様にがくりと項垂れる。


今まで凍りついた様に動かなかったピスティナの表情が、ふとピクリと緩む。

ほんの一瞬、ピスティナはティーミスに同情し、ティーミスを可哀想だと思ってしまった。

ほんの一瞬、その刃が迷いによって揺らぐ。


それが疲れだろうと哀れみだろうと関係無い。ティーミスの首に振り下ろされる刃が一瞬だけ減速した。

相手に隙が出来たのなら、利用するまでだ。


「《招集(テイク)》・【盾持ち(シールダー)】」


ティーミスとピスティナの間を遮って入る様に、一枚の巨盾が出現する。その次に、その盾を構える様な体勢をした赤黒の鎧の兵士も。


「な…!」


盾に突き返され姿勢が崩れるピスティナ。

ティーミスは、かろうじて動く右腕で魔剣を持ち上げると、ティーミスにしては鈍重で、しかし常人から見れば尚も素早く、ピスティナに向けて振り下ろされる。


「…っく!」


ティーミスの魔剣の一振り目。ピスティナを包んでいた短刀が軒並み焼き溶ける。

下から上への二振り目。ピスティナの手にあった短刀の集合物が砕け散る。

斜め下方向への三振り目。ピスティナは、間一髪で後方に飛び回避する。

そして、


「《血閃(マッドレイ)》」


ティーミスの鳩尾の辺りに赤い光球が出現し、それは直ぐに、黒赤に光る極太の光線に変わる。

ピスティナはまだ地面に着地していなかった為、《血閃(レッドレイ)》は防護用の短刀を失ったピスティナに直撃する。


「…っぐ!?」


【咀嚼する狂気】一体分の血酒を丸ごと込めたフルパワーに加え、スプリンターは軽装職。

申し訳程度の遠隔補助魔法など消し飛ばされ、ピスティナはその生涯における最後の攻撃をその身に受ける。


ーーーーーーーーーー


【咀嚼する狂気】【ブレイブスカーミッシャー】を倒しました。

70521EXP、6321Gを獲得しました。

おめでとうございます!

LVが53→55に上がりました。

スキルポイントを4獲得しました。


【咀嚼する狂気】が、以下のアイテムをドロップしました。

・狂気のかけら

・[業]ダンジョンキー



実績

あなたは一度も回復をせずに、危険度8以上の敵に勝利しました。称号『fool warrior』を解放しました。

以下のスキルが習得できます。



キープログレス


《ふと空を見上げれば》

装飾品【???】を獲得します。

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