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罪深い人

窓から光がカーテンの様に差し込んでいる、

赤いカーペットと、石膏の台座に乗せられた彫刻で飾られた渡り廊下を、一人の青年が足早に歩いている。


此処はケーリレンデ帝国の第三城塞。そしてこの青年こそ、ケーリレンデ帝国第三皇子にしてこの城の主人、ギズル・ケーリレンデ。

ギズルはケーリレンデの皇子の身でありながら、第三等級の氷魔術師。文武両道と言うイメージから、ギズルを次期皇帝にと言う民の声も少なく無い。

第三等級と言えば冒険者では中堅にあたるのだが、素質があれば到達するのにはそう難しく無い。


赤いレザーコートを羽織り、帝国の軍賞が右胸に光る軍服を着ている。茶色い革靴を履いたその足取りは、何かに追われるかの様に素早い。

切り揃えられ丁寧に整えられた銀髪を白い手袋越しに握りながら、彼は人生で殆ど経験したことの無い程の焦燥感に追われていた。


「アトゥが…奪われた…?」


アトゥの領主を任せていたビクターが、顔面蒼白で土地と権力の全返還を申請してきた辺りから、ギズルは妙な風向きを察知していた。

臆病な領主が、何かの問題から逃げる為に辞任を図るのはまあ良く有る事だが、今回はギズル自身も他人事では無い。


帝国では現皇帝の退位が来年に迫り、次期皇帝の座を巡る壮絶な政戦が繰り広げられていた。

第一から第四までの皇子に、現皇帝の弟と甥の、合わせて六人もの候補者が犇めき合っている。

若干力の劣る第二皇子を除けば、どの候補者も支持率は互角。このまま何も行動を起こさなければ、血統法に従い次期皇帝は第一皇子で決まり。

そんな中舞い込んだのが、アトゥの地下に眠るという巨大な魔力泉の領有権問題だ。


魔力の源泉と言うのは、どれも国力を大きく左右する重要な資源だ。

一つあるのと無いのとでは、国力にスライムと魔王並みの差が生まれる。

帝国が所有している源泉は今のところ11箇所。

代表的な物としては、新月の夜にスターシャードと呼ばれる魔力の結晶が流星の如く降り注ぐ『星降りの聖域』。

純朴な命の魔力を、果実の様に実らせる聖なる巨木『命の世界樹』。

数万年前に建造され、周囲に聖魔力を雨と言う形で降り注がせる『フリューヘッド大聖堂』。

そして、月の満ち欠けに連動し魔力のエッセンスを生み出し続ける泉、『アトゥルルイエ』。


ここを抑える事さえできれば、たとえそれが力の劣る第二皇子でも次期皇帝確定だ。


ある候補者は貴族を買収し、またある候補者は貴族の暗殺に乗り出し、またある候補者は法の壁を突破しようと試行錯誤していた。

そんな中ギズルは、貴族や民を戦争捕虜として手当たり次第に捕らえ、幽閉によって獄中死させようと動き、その知略の九割は成功した。

人一人分のエラーを除けば、全て上手く行った筈だった。


脱走犯に始まり、騎士団殺し、七等級越え、そして今や帝国に仇名す人間のギフテッド。

どんな些細な不具合でも、目を瞑れば山火事の様に広がっていく。ギズルが騎士学校で教わった、基本中の基本の知識だった。


事を起こすきっかけを作った張本人だからこそ、ギズルは誰よりも早く悟る。

次期皇帝だ何だと騒いでいる場合ではないと。



~~~



昼下がり。

ゴーストタウンと化した元アトゥ植民区の元繁華街。


ティーミスは、自分の腹をまじまじと見つめる。へそから左の辺りに、魔法のタトゥーを施したのだ。


「“外気に数日当てていないと、徐々に消えてなくなってしまいます。取り扱いの際は気をつけて下さい。”

…不思議な物ですね。」


今や無人となったアトゥの地。

ティーミスは廃棄された魔道具店から、このタトゥーを見つけた。

ティーミスの左の脇腹に、黒の縁取りの白いユウガオのモチーフが描かれている。小さいがその紋様は精巧で、古書の挿絵を想わせるタッチだった。


ティーミスは最初、思い出の花であるマーガレットを探したが見つからなかったので、似たような色合いのユウガオを選んだ。

ティーミスの中では、タトゥーとは盗人や罪人などのアウトサイドなイメージがあった故、令嬢として暮らしていたころは忌避し、見つけるたびに顔をしかめたものだ。

ティーミスはそんなかつての自分を思い出し、敢えてこうした形で着飾ったのだ。


「既に私は盗人ですし。…盗人…」


ティーミスはふと思い出し、足早に元我が家に向かう。

ティーミス自身が木っ端微塵に破壊した、我が家の残骸に。


「確か、この辺に隠されて…ありました!」


床板だった物を剥がし、そこから大振りな麻袋を引っ張り出す。

ティーミスがその麻袋を持ち上げると、チャラチャラと小さな金属音が鳴る。

溜めたきりになっていた二年前の税金だ。


「…もうアトゥはありません。民も居ません。…でも、」


アトゥに収められる税金は、領土と同じく貴族の共同所有物だ。

つまりこの税金は今やティーミスだけの物。聞こえは悪いが、やましいことは何もない。

ティーミスはそうやって自分を無理やり納得させ、気が変わる前にその麻袋をアイテムボックスの中に突っ込んでしまった。


ーーーーーーーーーー


あなたの所持金は現在、

90162G

です。


あなたは初めてお金を手に入れました。

『アイテムショップ』が解放されました。


ーーーーーーーーーー


「!?」


ティーミスは初めてお金を手に入れた。

ティーミスはその今までの生涯において、一銭も自由に使えるお金を受け取ったことが無かった。

ただ、食べ物も着るものも、寝る場所もあったティーミスからしてみればそれが普通だと思っていた。

平和に生きられる明日があれば、後は何も要らないと思っていた。


ティーミスの目が、言い知れぬ快楽で輝く。

形容し難い満足感。自分が少し豊かな存在になったかの様な、甘い優越感。

ティーミスは、罪による快楽を知った。蜂蜜の様に甘ったるく喉にこべりつく様な、危険な快感。


「…ああ、そうでした。」


ティーミスは丘を下り、再び繁華街跡に戻る。そして、立ち並ぶ飲食店の中にある、怪しい雰囲気を漂わせている木造の屋敷に入り、無人のカウンターの前に立つ。


「値段は確か、1…」


ティーミスが値段を思い出そうとする前に、唐突にカウンターの上に、数枚の貨幣がチャラチャラと出現する。


ーーーーーーーーーー


142G支払われました。


ーーーーーーーーーー


「これは便利ですね。」


ティーミスが手に入れた金銭は、どんな通貨でもアイテムボックスの中で一度、“G(ゴールド)と言うティーミス特有の通貨に変換され、支払いの際に、ゴールドからその時々の通貨に置換されると言う物だった。

ティーミスはそのシステムにふと仮想通貨と言う単語を思い浮かべたが、今のティーミスにはそれが何なのか見当もつかなかった。

ティーミスは軽い足取りでその無人の店を後にする。これでティーミスはもう、盗人では無くただの客だ。


ふと、ティーミスは何気無くスキルボードを開いて見る。戦闘の際に必要になったスキルを習得すると言う方法を試したが、それでは時間もかかり隙も生まれる上、ツリーと言うシステム故に狙ったスキルを手に入れられるとも限らないと知った。

やはり、地道に習得して行くしか無いようだ。ティーミスは今、スキルポイントを35持っている。


ーーーーーーーーーー


強欲相(グリードアーツ)


パッシブスキル


戦争賞金(ファイトマネー)》 習得コスト・23

敵を倒した際、その敵の種、レベルに応じたゴールドを獲得できます。

(アイテムショップ解放後に習得可)



怠惰相(ピグリチアアーツ)


パッシブスキル


《効率装甲》習得コスト・7

あなたが属性攻撃を受けた場合、戦闘終了まであなたはその属性に対応した耐性シールドを獲得します。

例・火属性魔法を受けたなら、あなたは【火属性耐性】を得ます。

【〇〇耐性】

その属性に対応したダメージを95%軽減し、関連する状態異常を無効化します。


《労力削減》習得コスト・3

あなたがリソースを消費する際、一定の確率で消費したリソースの50%が還元されます。

また、あなたは少し疲れにくくなります。



暴食相(グラトニーアーツ)


アクティブスキル


血閃(マッドレイ)》 習得コスト・1

任意の値の『血酒』を消費し、射程と威力に長けた赤い光線を放ちます。

消費した『血酒』の値に比例して、威力、射程、サイズが増大します。

また、この攻撃によって敵に与えたダメージの25%分あなたは回復します。


ーーーーーーーーーー


「こんなものですかね。」


ティーミスの弱点は、他の能力とは明らかに釣り合っていない低体力にある。(それでもそこらのタンクよりは高いが。)

なのでティーミスは自身と自信を保護する為に、目に入った防御系のスキル、そして追加の攻撃手段などを手に入れた。

そしてティーミスは今、アイテムショップとやらを確認する為、スキルボードを更にスライドしようとして、


「…嬢ちゃん…」


何処からか響く声に呼び止められる。

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