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それが応報

今や無人となったアトゥ植民区の路地裏。


「ふう…ふう…行きますよ…」


勇気を振り絞り、ティーミスは自身の左目のあった瞳洞に突き刺さっている矢を握りしめる。


「…ぎいいいいい!」


血と涙とよく分からない液体が、突き刺さった矢とティーミスの瞳洞の間から吹き出す。

骨が擦れ、肉が千切れ、ティーミスは今にも失神してしまいそうな苦痛に奥歯を食い縛りながらも、一思いにその矢を引き抜く。


「…ひい…ひい…ふい…」


赤く染まった矢を石畳に放り投げ、ティーミスは壁を背に、へなへなと座り込む。

時間経過による衰弱が自動回復を上回り、ティーミスはその傷口からドクドクと血を流し続けている。

もしも自分が被虐趣味に目覚められたのなら幾分かは幸せに過ごせるのにと、ティーミスは収容所に居た時からいつも考えていた。


『徴兵力』は時間経過や休息で回復するのに対し、『血酒』や『怒り』は逆に休息によって失ってしまう。

矢などが身体に残った状態で回復をしようとしても、その状態では最大体力が低減している為あまり意味が無い。

つまり、何かの手段によって回復するまでティーミスは当分隻眼だった。


「お、そんなとこで何やってんだ?」


「…ジットさん…」


ティーミスは、その名を呼ぶので精一杯だった。


「おうおう、まーたいい感じに死にかけてんなー。」


「………」


全身に裂傷を負ったまま、歯を食い縛り浅い呼吸を繰り返すティーミス。

先の戦いでは一見余裕そうだったが、実際はかなりの数の貫通属性の攻撃をその身に受け、自動回復が無ければ、ティーミスは今頃死んでいる。


「………」


「………」


ジッドはしばし、そんなティーミスの姿をただ眺めている。

ティーミスは、そんなジッドの姿を見て改めて実感したのだ。ジッドはあくまでも、ティーミスにスキルを授けて観察するだけの奇人。親でも兄弟でも無い。

もしティーミスが今目の前で息絶えたとしても、ジッドは鼻で一つ笑い何処かに去ってしまうだろう。


「あーやべー…お前見てるとSに目覚めちまいそーだ…」


「………」


ティーミスには残機が今二つある。もういっそう、一度此処で死んで新たな肉体を得ようかと考える。


「…にー…ざま…」


「あ?」


ティーミスは一瞬、ジッドに兄の面影を見る。

暗殺隊からティーミスを庇い毒刃に倒れるその瞬間まで、最後までティーミスを見守り大切に思ってくれていた、たった一人の兄弟の面影。


「…なんでも…ありまぜ…」


「あ?」


ティーミスはふと思い付き、ジッドに声を掛けてみる。


「…わだじを…殺して…くれますか…?」


心の何処かでティーミスは期待していた。

ほんの少しでも良い。ジッドが躊躇ってくれると。


「おう。良いぜ。治療を復活で済ますんだろ?」


ジッドはポケットから小型のピストルを取り出し、ティーミスの眉間に向かって一発。

ジッドは、この世界で起こることに対しては極力干渉は控えるが、あくまでこれは“ティーミスの死亡”と言う事象を早めに起こしただけだ。

何かにガッカリするかのように、ティーミスはがくりと俯き事切れる。


ティーミスの骸が青い炎に包まれた後、傷一つないティーミスが起き上がる。

案の定、そこにはもうジッドの姿は無い。


「…」


困難と苦痛と絶望を越えた先に、普通は何が待っているのだろうか。

富でも、名声でも、何ならささやかな賞賛でも良い。少なくとも、ティーミスが今得ているどうしようもない孤独感よりはマシだろう。


「…ジッドさん…それでも…それでも私は…」


友と呼ばせて、くれるだろうか。


ーーーーーーーーーー


実績

あなたは通算3回目の死を迎えました。称号「殉教者」を解放しました。

以下のスキルが習得出来ます。



キープログレス


《拝啓・神様とやら》習得コスト・0

装飾品【???】を獲得します。


ーーーーーーーーーー


「!」


歪な形に伸び広げられたスキルボードの端の方で、六角形のアイコンが点滅している。

ティーミスはまだ疲れの残る右手で、その六角形のアイコンを叩き割る。

たとえそれがただのシステムだとしても、ただ条件がたまたま揃っただけだったとしても、それがティーミスの受けた苦悶の対価だと言うのなら。


ーーーーーーーーーー


装飾品【罪の支払う報酬は死である】を獲得しました。


ーーーーーーーーーー


スキルボードから、赤黒色のロザリオが一つ放り出される。

草と骸骨の模様が彫刻された小さな十字架で、細身の鎖のサイズはやはりティーミスには合っていない。


「…これも工夫ですか…」


まず十字架からそれを首にかける為の鎖を外し、長い鎖を折り畳んで二重の鎖にする。

そうして出来た二重の鎖を再び十字架に通し、それを首にかけてみる。


「いい感じです。」


そのままつければ地面に着きそうなほど長かったネックレス型のロザリオも、こうする事で十字架部分がちゃんとティーミスの胸元に来る様になった。

ティーミスは、付近の建物のガラス窓に自身の姿を写してみる。

細身のベルトを胸に巻く以外何も身につけていなかった上半身に、少し禍々しい十字架のネックレスが光る。


余分な肉も筋も付かない、ティーミスの少女らしくもしっかりと締まった上半身が露わになっている。下半身は、赤黒の囚人服のズボン、同じく赤黒囚人服の上が腰に巻き付けられている。


ティーミスが貴族令嬢だった頃は、華やかな装飾品で彩られた豪勢な服に憧れたものだが、今は別にそういった物には関心はない。

ティーミスはむしろ自分にはこういう格好の方が合っているのでは、とさえ思った。


そして、ティーミスは自分の顔を見て驚く。

最後に家の鏡で見た自身の顔と、殆ど変わっていなかったのだ。否、2年分の成長は確かに感じられたが、ティーミスが思っている以上にその顔は元のティーミスのままで、むしろ前よりも愛らしく生き生きとしている。

殺し殺され罪重ねを続ければ、少しは変化が出ると思っていたティーミスにはそれが意外に見えた。


「私には、この生き方の方が似合ってるみたいですね。」


レールの上の人生も別に悪い事じゃないと考えていたティーミス。人生のレールを粉々に破壊されたティーミス。人のレールを壊して、その残骸で自らの道を切り開く事になったティーミス。

その道が、一体どこに辿り着くかは分からない。

終わりのない苦痛なのかもしれない。

正義の名の下の死を迎えるかもしれない。

それとも、死を迎えるのはこの世界の方かも知れない。


『もう一層、この世界ごと手に入れてしまおうか!私によって全てが支配される理想郷を作るのだ!』


ティーミスは、自身の傲慢な衝動の声に耳を傾ける。

あまりあてにはならないが、今のティーミスにはそれすらも選択肢の一つとして入ってしまう。

最終目標はあくまでもケーリレンデをこの世界から跡形も無く消し去ること。どちらにせよ、この世界の99.9999%は敵に回るだろう。

先ずは周囲から少しずつ腐らせ削り取り、帝国を弱らせていかなければいけない。奇しくも、帝国がアトゥを手に入れる為にした方法が、ティーミスの帝国への勝機となっていた。


ーーーーーーーーーー

◇ティーミス・エルゴ・ルミネア◇


・LV53


・HP 3001


・攻撃力 76311(+200)


・防御力 81801(+200)


・俊敏性 5000(+200)


・魅力 1000(+200)


・徴兵力 37100/37100


・怒り 0/610000


・血酒 0/305000


所持スキルポイント 35


次のレベルまであと

2exp


ーーーーーーーーーー


この道の先に待つのが、勝利の末の栄光だろうが苦痛の末の死だろうが、ティーミスはそれを喜んで受け入れるだろう。

それが、己が信じる正義によって齎されたのなら、喜んで受け入れるだろう。


「ふふ。折角ですし、タトゥーでも入れてみましょうかね。ちっちゃくて、綺麗なやつがいいです。」



ーーーーーーーーーー


【罪の支払う報酬は死である】


装備スキル1

《俺はあんたの奴隷じゃ無い》

魅了や拘束、封印といった行動干渉を軽減、又は無効化。



装備スキル2

《俺があんたの主人だ》

行動干渉を無効化した場合、対象を【絶対拘束】状態にします。

【絶対拘束】

一切の効果で無効化、解除することの出来ない拘束の呪いです。この状態の対象にはQETスキルが使用可能です。



『拝啓、神様とやら。

全く同じ人間なんてこの世には絶対に居ない。あんたがそう作ったからだ。

人は腹も減る。姦淫もする。憎む。怒る。威張る。物も欲しい。嫉妬もする。あんたがそうさせたんだ。

どんなに努力しても救えない奴だっている。

なのに、それなのに、あんたは自分を信じろと言うのか?全人類から信用されるとでも思っているのか?

少なくともここに一人。あんたを疑う奴が居る。

あんたはの事を心の底から信じてた奴を、あんたは見殺しにしたんだ。悪いが、俺とあんたじゃ意見が合わない。

俺は、俺のやり方で裁く。

ガーザ。スティーン。リッテ。エマージ。ゼロ。エフェロンデル。ズナイ。

全員纏めて俺がブタ箱にぶち込んでやる。自分の壊した世界の中で、退屈な永遠をくれてやる。発狂させてやる。それが奴らへ贈る報いだ。

そうだ。俺は奴らを殺さない。何故なら…もしあんたに脳味噌があるんなら、そんぐらい分かるだろう。』

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