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帰路

「リテさん。私は独裁者だと思いますか?」


「え?」


夕焼けの道を、ティーミスとリテはとぼとぼと歩いていた。

ティーミスだけなら転移するだけで終わりなのだが、この技はどうしても、生者を送る事は出来ない。


「そんな事はございませんよ。…と、言いたいところですが、‘独裁者’の言葉の定義がティーミスさんに当てはまるかと聞かれれば、一概にノーとは言えません。」


リテは既に、ティーミスとは長い付き合いになっていた。

故に、無用な気遣いは、ティーミスにとっては返って逆効果である事を知っていた。

或いは、リテはそう思い込んでいた。


「そうですか…」


ティーミスは呟く様に返す。

その横で、二人を来店客だと勘違いした自動ドアが開き、二人が通り過ぎた辺りで閉じる。


「それにしても、ティーミスさんって本当に凄いですよね。スキルは勿論なのですが、私達では想像もつかない様な機械やシステムを思いついて、街を便利にしていくなんて。特にあの…コバルト?皆様から便利だと大変好評でしたよ。」


「…コンビニです。それに、自分の頭で考えた物なんて一つもありませんよ。」


「え?つまり、これもスキルの影響なんですか?」


「全て過去に見た物を模倣しただけです。」


「?」


ティーミスとの会話が噛み合わない事は、今までもリテは何度か経験していた。

だが今回は格別だったため、リテはこれ以上話す事は辞めた。


「………」


ティーミスは、急にその歩みを止める。

リテは数歩歩いた後、ティーミスが少し後ろに居る事に気付き慌てて後退する。


「どうしたんですか?ティーミスさん。」


「………」


次の瞬間、遥か上空から二人の目の前に、一人の男が落下してきた。

男は見事な着地を決めると、そのまま体勢を直し、2人を見据える。

かっちりとした黒スーツに黒い革靴。少し強面だが整った顔立ち。その腰には、黒革製の剣の鞘を帯びている。


「言っただろう。ティーミス。何度蘇ろうとも、俺は必ず貴様を見つけ出すと。」


「お久し振りです。ウーログさん。」


騒ぎにはならなかった。

この街では、ビルの屋上から飛び降りた人間が平気な顔をして喋り出すなど、少し騒がしい程度の日常でしかなかったのだ。


「…もうギズルさんは倒しましたし、貴方が仕えていた国ももう残っていません…今更私を見つけて、如何するおつもりですか…?」


「決まっている。」


ウーログはその鞘より、長く、細く、曇り一つ無い一本の刀を抜く。

その鏡の如き刀身が、夕焼けの光を浴び輝いていた。


「俺は貴様を殺す!そうして貴様と言う名の歴史を完成させるのだ!《兜割・一〇〇式》!」


ウーログはそう言って、ティーミスに切り掛かる。

ティーミスが左手で、出来るだけ離れる様にジェスチャーで伝えたので、リテは近くの路地裏に隠れ、事の顛末を観察する事にした。


“ザシュッ!”


ウーログの刀は、ティーミスの首を断ち切った。

何故なら、ティーミスが一切の抵抗を見せなかったからである。

事を見る事が出来る範囲に住民はそれなりにいたが、騒ぎにはならなかった。

何故なら、リテとウーログ、それからティーミス以外の誰一人として、この3人を知覚する事が出来なかったからだ。


「…ぁ…」


その切り口があまりにも綺麗だったので、ティーミスの頭は暫く首の上に乗っていた。

しかし、ティーミスが膝から崩れ落ちるのと同時に切断面からは血が噴き出し、倒れると同時にその頭は地面に転がり落ちた。

ウーログは、返り血一つ付いていない刀を再び納刀する。


「ティーミスさん!?」


リテは叫ぶ。

ティーミスはその声に驚いたように微かに目を開くと、何かを思案する様に瞳を動かした後、ゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。

少しすると、ティーミスの体は青い炎に包まれ始める。

付近に悲惨に飛散した血の一滴も残らず燃え上がり、やがてその骸の全ては青い炎へと変わる。

炎は最初にティーミスが立っていた場所に集結すると、そこに再びティーミスの姿を作った。


「…最後の【奪取した命】を使ってしまいました。次に死んだら、私は死んでしまいます。とても残念です。」


ティーミスはいつも通りの抑揚の無い声で、それでいて心も篭っていない上部だけの台詞を吐く。


「これで何度倒されても蘇る咎人は、居なくなりました。そうですよね。」


ティーミスはそう言って、虚空から一冊の本を取り出す。

それは咎人が世界を滅ぼすまでを事細かに記した、歴史書だった。


「これで私は、咎人と似たようなスキルを使えるだけの一般人です。そうですよね。」


「ふん。ならばもう一度倒すまでよ!」


ウーログは再び抜刀し、先程と同じ様にティーミスに切り掛かる。


「知っていますか。ウーログさん。」


“ガキン!”


ティーミスの首とウーログの刀が“衝突”する。

鋼の様に硬いティーミスの首に負け、その刃は折れた。

刃は縦に回転しながら、放物線を描く様に飛び、少し離れた地面に突き刺さる。


「うわ!何だこれ!?」


盗人の礼法の影響範囲から出てしまった刀は通行人に見つかり、ちょっとした騒ぎになった。


「歴史と言うのは、とても儚い物なのですよ。証拠と証人がみんな消えてしまえば無かった事に出来ますし、あったとしてもそこから正しい情報が抽出出来るとも限りません。」


ティーミスはその本を放り出すと、ティーミスの右肩から生えてきた小さな顎腕の怪物が、赤黒色のブレスを吐きそれを焼き消してしまった。


「少なくともこの本は間違いだらけです。ですので、一緒に書きましょう。ウーログさん。無理に書くべき歴史を終わらせる必要なんて無いんですよ。」


「………」


ウーログは、柄だけになった刀を投げ捨てる。

ティーミスが指を弾くと、三人に掛かっていた認識阻害が解かれる。

当然周囲の者達は驚いたが、同時に突然現れた刀の合点も行ったらしく、また元どおりの生活に戻っていった。


「あぶねえぞ!当たったらどうすんだ!ちゃんと気を付けとけ!」


中には、怒鳴る者も居た。


「…誠に申し訳ございませんでした。以後、気を付けますので、今回ばかりはご容赦願いたく存じます。」


ティーミスはその大柄なオークの男にぺこりと謝ると、男はその完璧なまでに無機質な謝罪に少したじろぎ、そのままその場を去って行ってしまった。


「私だって、完璧ではありません。少し、人を殺すのが得意なだけです。」


ティーミスは上体を上げ、ウーログの方を向く。


「この街に居る以上、貴方も私の家族です。長命同士、これから仲良くしましょう。」


「…明日の15時。出版社に来い。何が起こるかは、その時の俺の気分次第だ。」


ティーミスはウーログに笑顔を返すと、若き老学者は忍者の如き身のこなしで、そのままその場を去って行ってしまった。


「さ…流石です。ティーミスさん。一歩も動かずに事を解決するなんて。」


「…奪取した命が無くなったのは本当です。それに、もう補充する気もありません。」


「え?それって…」


「たまには、タイムリミットに追われてみるのも悪くありません。」


ティーミスはそう言って、再び夕焼けに向けて歩き出した。

リテも、それに慌てて追従した。



〜〜〜



「はんぎゃぁぁああくしゃあぁぁああどもぉに死をおおおおおおお!!!」


ピスティナは叫んだ。


「あら貴女。だいぶ流暢に話せる様になってきたじゃない。」


焚き火を挟んだ向かい側に座るシュレアが、音の無い拍手と共に言う。


「うううぅぅ…あああああ…」


ピシティナは、黒い炭の塊にも似た大剣を持つと、キャンプ用の椅子から立ち上がる。

ピスティナ、シュレア、それからカーディスガンドの3体は今、旧4大勢力の残党が発祥の武装組織、通称懐古派との激しい戦闘の最中にあった。

本来ならば従属者側の圧勝に終わる筈だが、ティーミスの下したある制約のせいで今は互角の戦いになっていた。


「殺せないぃ…せぇさいは無い…捕虜にするしか無い…」


それは誰も殺すなと言う、抗争にあるまじき命令だった。


「まあまあ。ティーミス様が、わたくし達を自らの代行だと思ってくださっている証拠ですわ。気張っていきましょう♪」


その時、二人の上空から声が届く。

その言葉は音では無く、思念として二人に届いた。


「敵ガ来ル。数多イ。サモナーモ…居ル…引キ連レテルハ…犬ノ群レ…」


「あらぁ。そろそろ出番ですわね。」


「ぐるるるるるるるる…」


ピスティナは剣を背負い四つん這いになる。

シュレアは真紅のガトリングガンを両手に形成し立ち上がる。

カーディスガンドは、二人のすぐ上まで降りて来る。


「ねえワンちゃん。その目はもしかして、今わたくしと同じ事考えてるのかしら?」


「召喚物は魔法により引き起こされる事象の結果として処理されており、召喚物の殺害ないし破壊は、軍法裁判においては殺傷数に換算されないんだあああああぁあぁぁぁあああああああぁっぁぁ!!!!!」


ピスティナは叫びながら走り出す。


「あらあら、はしゃいじゃって。」


シュレアは、既に戦車に改造されたナンディンを召喚し、その座席に飛び乗る。


「人畜無害の昏倒弾の力、試させて頂きますわ!」


ナンディンは発進する。

手加減の効かないカーディスガンドは、引き続き管制担当である。


「ぐるるるる…があああああああ!」


ピスティナは最前線で一度停止すると、そこで大きな雄叫びをあげる。

先鋒を張っていた猟犬達は、野生の本能により一度静止する。


「何をしている!前進せよ!悪魔どもを食い殺せ!」


野生の勘よりも権力を持つ主人の命令に従い、猟犬達は再び突進を始める。

それを見据えたピスティナは、ゆっくりと立ち上がる。


「《残機奪取・二手クァチルウタロス・ダブル》」


ピスティナの腕をブラッドプラスチックが覆い、そのまま巨大化する。

その腕はまるで、赤と黒で描かれた絵画の様に見えた。


「犬ぅ…我が主人にぃ…その命を捧げろおおおぉぉあああああああああああ!!!」



〜〜〜



「ありがとうございましたー。」


コンビニの自動ドアが開き、ティーミスを夜闇の世界に送り出す。

ティーミスの腕には、冷凍食品や菓子パンでいっぱいのエコバックが下げられている。


「…嘘は言ってません。」


残機が増えていく感覚を感じながら、ティーミスは自らに言い聞かせる様に呟く。


「ずっと一緒だよ〜きっちゃん。」


「おい、あんまベタベタすんなって。」


ティーミスの目の前を、カップルが通り過ぎていく。

人間の女性と、犬人種の男性である。


「ねえきっちゃん。」


「ん?」


「何回生まれ変わっても、ずっと一緒だからね♪」


「な…何だよそれ。」


「えへへ。」


ティーミスは何故か、その二人の姿がいつまでも忘れられなかった。

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ジッドの次なる標的は

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最終話もいつもの延長のような話で特別な雰囲気を出す事なく終わっているため、終わったという実感があまりない事 [気になる点] 話の流れから仕方ないとはいえ、気になる人物のその後が追えない事具…
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