表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/250

地下潰し、再び

「あ、そうだティーミス。君がティーミスって事は、もしかしてギズルを探してたりする?」


ティーミス、シシュト、それからチゥウデーンは、かつて水槽の間だった場所を歩いている。


「…ええ…お墓まいりくらいしようかと…」


「お墓?無いよ。」


「…?」


「だって生きてるもん。あいつ。」


「…そうですか…」


ティーミスは、別に驚かなかった。

何故なら、ギズルの墓をどうやっても想像出来なかったからだ。


「…何処に居るか…知ってますか…?」


「魔界跡地に宮殿があるって言われてる。まあ都市伝説だけどね。」


「…にぇ…」


3人は、水槽の間の次に進むカーテンを潜る。

そこには空の水槽が一つと、医療器具が並べられている机、それから無数の衣装が掛かったクローゼットが一つ。

水槽の奥には、この部屋から出る為の魔法陣があった。


「うわー…ごめん、ちょい嫌な思い出ぶり返すから引っ込むわ。」


そう言ってシシュトは、床に沈み込む様に兵舎の中に消える。


「実に興味深い。屍術と死霊術の奥義を合わせても、これ程までに完璧なアンデッドはそうそう生まれない。原理は何だ?やはり古代魔術の類か?」


「…私にも良く分かりません。それに、貴方だって似た様な物じゃ無いですか。」


「私は特別だ。生前から少しずつこの身に術式を書き加えていってな…」


チウゥデーンは、はっと我に返る。


「っと。この話はとても長くなるし、お前には必要の無い知識だ。」


チウゥデーンとティーミスは、空の水槽の前に立つ。


「此処に、お前達を飾る予定だった。」


空の水槽には皇帝の署名付きの、手書きのメモ帳が張り付けられている。

メモには、チウゥデーンに対しての様々な注文が書き連ねられていた。


“照明は青。

クリプトテトラを百尾ほど放つ。色は問わない。

手を互いに握り合い、向かい合う様に。

横向きにして腕で隠れる様にして上裸が望ましい。

テム氏より上質な海底岩を仕入れた。配置に関しては後日相談。”


チウゥデーンはその注文書を感慨深そうに眺めた後、破り捨てる。


「何処まで行っても我は帝国国民。皇帝には逆らえぬ。」


「…此処で作っていたんですね。この、帰還用の魔方陣が見える場所で…」


「ああ。あの机に拘束してな。」


ティーミスの腹から、二本の手が出てくる。

手はティーミスのワンピースを引き裂き、そのままティーミスの脇腹を掴んで上体を引っ張り上げる。

シシュトである。


「当事者の貴重な体験談を聞きたいかい?」


「…嫌な思い出では無かったんですか…?」


「まあそうだけど。もしかしたら、誰かに喋ったら少し楽になるかもってね。」


シシュトは少し引っ込み、ティーミスの腹から上半身が出る様な体勢にする。


「平和に暮らしてたらある日突然かどわかされてね、気付いたら奴隷商。アンダーグラウンドのお偉いさんのとこを転々として、最終的には例の施設に転がり込んだんだ。

そこで暫く暮らしてたらある日皇帝が来てね、一緒に家族を探してあげるって言ったから付いていったら…」


シシュトは、溜息を吐く。

呼吸を必要としない身体であるにも関わらず。


「最初は怠くなって、段々指先が痺れていってね。そこのグールが、じきにお前は死ぬなんて言うから怖くってさ。暴れようとしたけど、手足が机に縛り付けられてて。

どんどん身体の感覚が無くなっていって、息苦しいのに息がうまくできなくなって。

まだ痛みは感じるのに、こんな耳と尻尾を縫い付けられてさ。

瞼が開かなくなっただけで意識はあるのに、狭い箱みたいなのに入れられてさ。多分あの額縁に。」


シシュトは両手で、それぞれ自身の肩を掴む。


「すっごく怖かった。今まで絵空事だと思ってた自分の死が、あんなにはっきりと知覚しちゃえるんだもん。死が近付いていく感触が、あんなにはっきり解っちゃうんだもん。」


シシュトはふと顔を上げる。


「あ、そう言う事か。」


シシュトは、至極申し訳なさそうな顔をしているチウゥデーンの方を見る。


「貴方が時々唱えてた、あの変な弔いの言葉。いずれ昇華するだの、今は耐えよだの。もしかしてこの事を言ってたの?」


「まさか、聞こえていたのか?」


「いやーすっきりしたよー。だって最初、こっちはもう死んでるっての!って怒りしか湧いてこなかったんだもん。動かない身体に閉じ込められて、真っ暗な中、貴方の声しか聞こえなくってさ。」


シシュトはティーミスの腹から出てくる。


「やっと理解できたよ。怒ってごめんね。」


宣言通り、先程よりもシシュトの気は楽になっていた。


「さてと。」


シシュトがそう言うと、床からぼこぼことブラッドプラスチックが湧き上がってくる。

ブラッドプラスチックはそのまま、一人の少女の姿を形作る。

ワイン色のツインテールに、赤くて大きな瞳。纏っているのはオーバーオール。

オーバーオールの下に衣類は見当たらない。


「ねえティーミス。この子が此処を吹っ飛ばしたいらしいんだけど、良いかな?」


「にぇ…?解るんですか…?」


「うーん。何だろう、情報と感情が直接頭に入ってくる、的な?」


少女の掌の上にブラッドプラスチックが凝結していき、そこに歪な脈打つ肉塊の様な物を形作る。

その物体に、ティーミスは見覚えがあった。


「…【爆弾魔(ボマー)】…?」


被獄者(タルタロステイルズ)爆弾魔(ボマー)】は、同じ様な物体を両手一杯に生成し、其処ら中にばら撒く。


「何だ。何事だ。」


戸惑うチウゥデーン。

シシュトは、そんなチウゥデーンの手をとる。


「簡単に言うと、もうすぐこの空間が無くなっちゃう。急がないと埋葬されちゃうよ。グールさん。」


シシュトはチウゥデーンの手をひき、転移魔方陣の元まで走る。

ティーミスもノネを背負いながら、それに続く。

魔方陣の上には、かつてノネの姉だった物が座っている。

現在の名は、【被獄者(タルタロステイルズ)遷移者(キャリアー)】だ。


「先に行って、おじいちゃん。」


シシュトは、チウゥデーンの背を押す。

魔方陣が起動し、グールが一体外界に転移する。


「…どうかしましたか…?」


ティーミスがシシュトに問い掛ける。


「あーね、よくよく考えたらこんな格好じゃ外出れないなーって。」


そう言ってシシュトは、再びティーミスの中に消えていった。

ティーミスは首を傾げつつ、ノネを背負いチウゥデーンの後に続く。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”…」


ボマーはそこら中に例の物体を投げ続ける。

爆弾は床や壁にぶつかると、そのままへばりついた。

部屋中に赤い肉塊がへばりつき、謎の生物の巣のような状態になると、ボマーは下半身を地面に沈みこませる。


「…《起動》…」


ボマーはそう言い残し、床に沈む。

あちこちにへばりついた赤色の物体は赤く輝き始め、湯気を帯びていき、そして爆発する。

一つあれば家屋一つを跡形も無く吹き飛ばせる威力の爆弾。

それが無数に、バラバラのタイミングで爆発していく。

石英はそこまで硬い物質では無かったので、床や壁や天井は一瞬で木っ端みじんになる。

半分ほどが爆発した時、地下室は部屋の形を維持できなくなった。

天井が落ち、次いで天井の上にあった岩や瓦礫が落ちていく。

地下室は潰れて無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ