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旧い積み荷

「こちら巡視船ブルートス号。管制室へ繋いでくれ。」


『こちら管制室。通信を受理します。』


「E7航空域外縁にて無国籍船を発見。及び、旧亜人連合からと思しき2名の難民を発見、及び確保を行いました。本船は至急、本国への帰還を申請します。」


『申請を受理しました。別船手配を行いますので、サインを受理し次第規定航路にて帰還して下さい。』


「了解。」


通信が終了する。


「こ…これで良いか?」


ケーリレンデ船の船長は、恐る恐る振り返る。

そこには、真紅のナイフを船長の首に当てるシュレアが居た。


「ありがとうございますの♪」


シュレアは船長に微笑みかけ、そのナイフを船長の首に滑らせた。


「ぎゃああああああああああ!?」


鮮血を撒き散らしながら、船長は絶叫し絶命に至る。

これで、この船の生存者はシュレアとリテだけになった。


「鹵獲完了ですわ♪」


「鹵獲というか強盗ですが…」


そう言うとリテは、操縦席中に小さな植物の種を蒔き始める。

種はボタンや操縦管の付近から芽吹き始める。

操縦席は、あっという間に双葉と蔦だらけになった。

その様子はまるで、リテの船の操縦席の様だった。


「これでこの船はリテの物なのですのね。では、わたくしは」


シュレアの袖口から、赤いヒルが無数に這い出てくる。

そのまま地面に落ちたり、シュレアの足を伝ったりして床まで辿り着いたヒルは、次いで船中に転がっている死体達の元に這っていく。


「この下劣なヒューマノイドどもを頂きますわ♪」


血を吸い尽くされ干からびた死体に辿り着いたヒルは、口や鼻から死体内に入る。

干からびていない死体に辿り着いたヒルは、血を全て吸い尽くし数倍に膨れ上がった後リテの元に戻る。

最終的に死体は全て、ヒル入りのミイラだけになる。


「起き上がりなさい。無価値なヒューマノイドども。せめてわたくしの手駒として役立ってくだだいまし。」


干からびたミイラ達の血管に、ブラッドプラスチックが流れ始める。

死体達は次第に血色を取り戻し始める。

ブラッドプラスチックに満たされた死体達は、次々と起き上がっていく。

その全てがシュレアの意識で動き、その視界はシュレアと共有される。

文字通り、これより彼らはシュレアの手足となる。


「ところでリテ。確かにこの方法だと船を無傷で手に入れられはしますが、少し回りくど過ぎる気がしますわ。」


「ふふ。」


リテは、操作する必要も無いが操縦席に座る。


「100年以上も封鎖している国、先ずは情報収集が必要かと思いましたので。」


「情報収集…ですの?」


「ええ。君主は何処に住んでいるとか、あの島はどうやって浮かんでいるかとか。社会体系、戦力、色々です。」


ティーミスは最強かも知れないが、無敵では無い。

例えあってないような物だとしても、開戦までに少しでも多くのアドバンテージを稼いでおきたい。

それがリテの考えだった。


「キィ…ややこしいのはあまり好きでは無いんですの。」



〜〜〜



「………」


ティーミスはベッドに横たわりながら、物凄い速さで拡散していく“自分”を知覚する。

シュレアはケーリレンデ船の船員を使って大量の分身を作った。

そのシュレアがティーミスの一部なのだから、その分身もまたティーミスの一部だった。

二人はこっそりやっているつもりだったが、シュレアが関わった時点でティーミスにはバレバレだった。


「…情報収集…ですか…」


ティーミスには、ある確信があった。

ギズル・ケーリレンデは生きている。

理由は単純。

つい最近まで、彼の創造物である氷がシュレアを捕らえていたからだ。

さらに言えばシュレアが解放されたのも、ティーミスが二人の従属者を取り戻した丁度のタイミング。

偶然と考える方がおかしい話だ。


「…彼は完全無欠では無い…ですが…それは私達も同じ…」


図らずしも、ティーミスはギズルについてそれなりに理解を深めていた。

彼は完全無欠では無いが、それを目指している事は明白だった。

彼は人間なので、初めての事象や想定外の事象には暫し誤った判断も下し、失敗もする。

そして彼は、そこから学ぶ。

ティーミスは彼をそれなりに負かしたので、それだけ彼はティーミスを理解した事になる。

そうでないとおかしかった。


「…何故、私は解放されたのでしょうか…」


ティーミスは、地底洞窟の中で目を覚ました。

誰がティーミス入りの氷をそこまで運んだのかは分からない。

地底洞窟は迷路の様な構造だったので、ティーミスは3日ほど彷徨った後、天井を垂直にぶち抜いて脱出した。


「…自然解凍…?…では何故、ここまでばらつきがあるんでしょうか…そもそも、魔力の氷に自然解凍などあり得るのでしょうか…」


ギズルの魔法になにかしらの弱点があるのか、はたまたギズルが意図的にティーミスを解き放ったのか。

その場合何故、ティーミスよりも先にピスティナを解放したのか。

そうでなくとも、冷凍されたのは従属者の次にティーミス。

解放されたのは、ピスティナ、ティーミス、カーディスガンドは手動、それからシュレア。

自然解凍だとすれば順序が不自然だし、人為的だとすれば意図が見えない。


「…ギズルさんは…完璧じゃ無い…ですが、私よりは完璧に近いと思います…」


故に、ティーミスはギズルを理解出来ない。

仮にティーミスがギズルの掌の上だったとしても、ティーミスにはそれを抜け出す術も、知覚する術も無い。


「…良いですよ…踊ってあげますよ…」


実際今のティーミスは、ギズルの策略と言う名の檻の中に居るのかも知れない。

しかし、本物の檻の中とは一つ違う事がある。

今のティーミスは、自由だった。


「…ふわぁ…」


相変わらず部屋は香の香りで満たされていたが、既にティーミスは耐性を得ていた。

それでもティーミスは、単純に眠たくなっていた。


「…知覚が広がり過ぎると…酔っちゃいますね…」


かと言って、せっかくシュレアの作った兵士を勝手に引っ込める訳にも行かない。

なのでティーミスは、今思いつく中で最良の方法をとる事にした。


「…今日は…休日にしましょう…」



〜〜〜



ケーリレンデ船。

船上。


「ひいふうみい…全部で12人ですの。」


空中に停泊している船の上に、シュレアと12人の変装分身体が居る。

分身は元の体と同じ姿をしていたが、生前とは違い皆、瞳がシュレアと同じ赤色をしている。


「丁度2で割り切れますので、6体はこの下の貧民街へ。もう6体はわたくし達と一緒にケーリレンデの本土へ行きましょう♪」


シュレアがそう言うと、12体の分体の瞳が渦巻く様に変わっていく。

生前と同じ色。

これでもう、誰も見破れやしない。


「では貧民街組。行きますわよ♪」


そう言ってシュレアは、船の屋根の上から飛び降りる。

成層圏ギリギリの高度だったが、指定された6体もシュレアに続き飛び降りていった。

残った6体は、そのまま船の屋根に沈み込む様に消えていった。



〜〜〜



「ふーん♪ふんふーん♪」


リテは、新しく手に入れた船の掃除をしている。

リテの体は人一倍汚れや不衛生な環境に弱いので、これも必要な作業である。

ごみや汚れは自前の掃除用具で綺麗にしていき、不要物は肩から生やしたハエトリグサの化け物に喰わせていった。

そんな豪快な掃除をしながら、リテが倉庫に差し掛かった時だった。


「…ぅ…」


リテは、積荷から聞こえる微かな声を聞き取る。

小虫の囁きと会話も出来るリテにとって、その音源を特定する事など訳も無かった。


「此処ですね。」


食料や日用品の入った箱を退かし、リテはその奥にある古びた木箱を見つける。

木箱の蓋や鍵には埃が積もっており、長年誰も触られていない事が一目で分かった。

リテは、木箱に向けて蔓を伸ばし、先端の方で触れる。

すると、箱は木箱を形成していた木材と一体化した。


(この中で間違い無い。微かに、何かが動いた感触がする。)


蔓と繋がった木材が成長し、隣接する他の木材と一体化する。

新たに繋がった木材がまたその隣の木材と融合していき、最終的に木箱は一つの箱型の植物に変わる。

こうなればもう、この箱の形はリテの自由自在だ。


(大きさとしては、まだ子供?でも体温が全く感じられない…)


箱が解けていく。

中の存在が、日の元に晒される。


「ひぃ!?」


中には胎児のポーズのまま干からびた、有翼の子供のミイラがあった。

リテは思わず尻餅をつく。

ミイラがその瞼を上げる。

その朽ちぬ事無き瞳は、赤色をしている。


(鮮やかな赤色…シュレアさんとは質感が違う。)


「…マゾク…」


ミイラはゆっくりと動き出す。

骨と皮のみになった翼が、二対目の腕の様に動く。

長い髪は、干し草の様に床を滑る。


「リテ。」


リテの背後から、シュレアの分体の一体が声を掛けてくる。

白髪に短い白ひげの、貫禄のある中年男性型だ。


「それ何。」


「え?」


分体の腕が黒く肥大化し、背から蝙蝠型の翼が生える。


「それは何かって、聞いてるんですの!」


分体の左腕に、赤色の光粒子が集結していく。

その顔は、忿怒と憎悪で歪みきっていた。


「…マゾク…」


分体から、紅色の閃光が放たれる。

ミイラは横転して回避する。


「…《リインカーネーション・ウィザード》…」


ミイラの身体に、黒色の霧が纏わりつく。

霧はミイラの背から上に立ち登り、黒いローブを纏った人型のを形作る。


「何ですの、その力。天使がそんな物使える訳…」


黒ローブの人型が、その腕を分体に向ける。

袖口から覗くその手は、骸骨だった。


「《キル》」


ミイラは呟く。

骸骨の手が紫色に輝く。

その瞬間、黒ローブは黒い砂の様になって崩れて行った。


「貴女…さては堕天使ですのね…キュフフフフ…」


シュレアの分体もまた、黒い砂の様になり崩れていった。

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