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以って、永夜潰える

まるで神にでもなったかの様。

その力は、ティーミスをそんな気分に浸らせた。


「あ…ああ…」


100年振りの青空を見ながら、リテはただただ、感動と狼狽を交互に繰り返す。

100年間世界を覆い隠していた灰は、一瞬で消え去った。

ティーミスの舌からぶら下がる、2g弱の金属の力によって。


「………」


ティーミスは、少し渇いた舌と共に装飾品を口の中に戻す。


“ガアアアアアア!”

“グウウアアアアアアア!”


地を彷徨っていた下級のゾンビ達は、日光にやられ軒並み焼き消えて行く。


「てぃ…ティーミスさん!?これ…こんなの…!」


「…神様みたい、ですか?」


ティーミスはそう言うと、青空を見上げながら澄んだ空気を胸一杯に吸い込んだ。


「…リテさん。リテさんの船は何処に有りますか?」


「へ?あ…ティーミスさんの背中に停泊してますよ…」


「判りました。」


今リテやティーミスが居る巨龍も、見方を変えればティーミスの一部である。

ティーミスそう解釈し、リテにはそれ以上何も聞かずにその場を去っていった。



〜〜〜



(あそこか…)


暗き灰に紛れながら、ガムはそろりそろりと進む。

場所は、かつて結界の境界が存在した場所付近。

狙いは、ガスマスクを付け、寄り添いながら歩く二人の少年少女。


(距離良し、角度良し。…今だ!)


ガムは、二人の背中に向けて飛び掛かる。

その瞬間、空と空気から、灰が吹き飛ばされる様に消え去った。


“!?”


突如明るくなり、ガムの視界は一瞬潰れる。


「…!リニアちゃん!危ない!」


背後の気配にいち早く反応したカレボは、リニアと共に狼の射線外に倒れ込む。

攻撃を外したガムは、着地も上手く行かずに地面に転がり落ちる。


“ぎゃああああああ!?何で、灰が!?」


ガムの毛皮は焦げ焼けていき、ガムは人の姿に戻る。

ただ、姿が変わっただけなので口や体にこべりついた渇いた人血はそのままだった。

ガムの纏う返り血は、カレボがガムを警戒するには十二分過ぎる要素である。


「行こう、リニアちゃん。こいつはきっと危険だ。」


「え、でも…」


リニアは、ガムを観察する。


「ああああ熱い!焼ける!いぎゃあああああああ!」


リニアは徐に、苦しむガムに歩み寄ろうとする。


「ダメだ。」


「…でもこの人…」


「僕等は今、この人の素性を何も知らないし、助ける方法も解らない。ここに居ても危険なだけだよ。」


「…でも…」


「僕だけを見て。…僕を信じて。」


カレボはリニアの顔を両手で挟み込む様に手を当て、自分の顔だけを見させる。


「う…うん、解った。」


リニアは後味悪そうにしながらも、カレボと共にその場を後にした。


「クソがああああああ!こんなとこでえええええ!ぐううあああああ!?」


次第に、ガムの肌も焼けただれていく。

自分の焦げる匂いを嗅ぎながらガムが意識を手放そうにした時、


「…?」


唐突に現れた小さな日影が、ガムを優しく守る。

キーヤのさす日傘だった。


「お困りですか?お嬢さん。」


キーヤは悪戯っぽく言う。


「お前…まだそんなの持ち歩いてたのか。まあ…今回はお前の臆病さに救われて…」


「何言ってるの?」


キーヤは、自ら傘の外に出る。


「おま…」


「私は物憑魂(マテリア)。陽なんてへっちゃらだよ。知らなかった?」


「な!?じゃあ、何で…」


「決まってるじゃん。」


キーヤは、再び傘の下に入る。


「どっかの人食い狼さんと、こうやって相合傘がしたかったからだよ。」


妖怪は、種によっては陽の光は致命傷に繋がる。

故に、日の下での相合傘は何よりの信頼の証だった。


「キーヤ。言っとくが、こんなんでもあたしゃノンケだぜ。」


「ば…バカ!そんなんじゃ無いわよ!」


白い煙を吹き出しながら、ガムの傷が見る見るうちに再生していく。


「ねえガム。ぬらりひょん様達、どうしてるかな。」


「あの方の事だ。流石に、何か手は打ってるとは思うが。」


ガムは、キーヤの傘から出ない様に慎重に立ち上がる。


「ま、とにかく行くぞ。…もうお前を乗せてってやれそうには無いけどな。」


「別に良いよ。あの方の事だし、こんな状況なら遅刻しても許してくれるよ。きっと。」



〜〜〜



「いやはや、こいつぁ参ったねぇ。」


焦げ地の真ん中に聳え立つ、日本城の様な建物の天守の上。

一体の鬼があぐらをかきながら、実体の無い黒い唐笠をさしている。

その傘は、持ち手の先は雲まで届くほど長く、周囲一帯の天を覆うほどの大きさである。

その傘は、城下の妖怪達を日光から守る日傘だった。


「おう。今帰りか。ミズキ。」


城の壁を這うように、黒い霧の塊が鬼の元まで来る。

霧は鬼の傍らまでやってくると、凝結し、やがてそこに玉藻前の少女を形作った。

ミズキである。


「しかしえらい事になったのぅ。叶酒童子…いや、今は“ぬらりひょん様”だったかの?」


ミズキはにやにやと笑いながら、からかうように叶酒童子の今の名前を呼ぶ。


「おうよ。泣く子も黙る天下の大妖怪。叶酒童子あらため、ぬらりひょんたあ俺様の…」


「おうおう分かっとる分かっとる。」


ぬらりひょん。

妖怪においての最上位種族であり、100体の上位妖怪との召喚獣契約と言う課題をこなしさえすれば、どんな小物妖怪でもぬらりひょんの座に就くことが出来る。

しかし、一度召喚獣となった妖怪はもうぬらりひょんにはなれない。

故に、相当な相手でない限り妖怪は契約など結ぼうとはしない。


「んな事より、はあぁ…俺様特製の、“永夜天都計画”が…」


「まあ仕方ない。永夜の訪れが一瞬なら、明けが一瞬でも文句は言えまい。」


その時、傘に小さな穴が空き、一筋の光がミズキの額に直撃する。


「あたっ!」


穴は直ぐに塞がるが、ミズキの額に小さな火傷が残る。


「っとあ!済まねえ!」


「………」


ミズキは知っていた。

ぬらりひょんが今使っているスキル【覆天傘】は、本来日の入り時に使い夜の訪れを少し早めたり、明け方に使用し撤退の時間を稼いだりする為の物だった。

通常ならばこれ程までに広域に、かつ長時間展開出来る代物では無かった。


「はぁ…俺もまだまだだな…」


「なあ、うぬはずっとそうしとるつもりなのか?」


「あ?んな訳あるかい。夜がくりゃやめるぜ。」


なんて事ないとでも言わんばかりに、ぬらりひょんは笑ってみせる。

しかしその笑みは、引きつった不自然な物だった。

ぬらりひょんが今無茶をしていると言う事は、誰が見ても解った。


「ともかく、お前さんは自分の事だけを心配しときゃ良いんだ。良いな?」


ぬらりひょんの言葉を聞いて、ミズキはバッと立ち上がる。


「そんな事出来る訳無かろう!現に、今だって綻びが出たでは無いか!」


「そりゃおめぇ…あれだ、ちょっとからかっただけだよ。」


「嘘を吐くな。わしとて怒る時は怒るぞ。」


ミズキは手を腰に当て、少し大げさにぬらりひょんを威嚇して見せる。

こりゃどうしたものかと、ぬらりひょんは困った表情を浮かべる。


「じゃ…じゃあ、おめえさんには何かいい案があるってのかい。」


「む?それは…」


しかし当のミズキも、そんな案は持ち合わせていなかった。

なのでミズキは、今即席で案を考えた。


「勿論じゃ。」


「へぇ。是非とも聞きたいねぇ。」


ぬらりひょんは、ミズキにからかう様な視線を向ける。

ミズキは、自らの纏う着物を緩め始める。


「ん?おめえ、何を…まさか!?」


「妙な想像をするで無い。うぬになど死んでもくれてやるものか。」


ミズキの着物の下から、灰が出てくる。

その灰は一粒一粒が意思を持っている様に動き、まるで小虫の群れの様だった。


「これだけあれば、城下の民草の日除けにはなるじゃろう。」


「おお!あの灰…永夜の残滓をとっておいてくれたのか!」


「元は自分で使う予定じゃったんだが…この際仕方無い。」


ミズキの放った灰が、ぬらりひょんの日傘に変わり空を覆う。

空が完全に覆われた事を見計らい、ぬらりひょんは術を解く。

術を解いた瞬間、ぬらりひょんは糸が切れた様に仰向けに倒れ込んでしまった。


「かっは…おっかしいねぇ…さっきまでは、平気だったんだが…」


「うぬはそこで寝ておけ。わしはこれから、次の計画の為に出掛けてくる。」


「待て待て、何処に行くって?」


ミズキは空を見上げる。

灰で覆われその光は殆ど入ってこないが、空には砕けた太陽が煌々と輝いていた。


「夜を明かす者ならば、再び夜を迎えさせる事も出来るじゃろう。或いは、もっといい物かもな。」


「おい答えになってねえぞ。おい何処行く、おーい!」

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