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暗くて湿った

かつては警備兵だったスクラップの上に座り、ティーミスは夜の摩天楼を眺めている。

車の音と、何かの広告の音だけが響く無人の街。

此処の住人は、一体どこへ消えてしまったのだろうか。


“排除対象を発見しました。これより武力鎮圧を開始します。”


上空に飛来したジェット機から鋼の立方体が一つ、ティーミスの目の前に落とされる。

黒色の3m四辺ほどの立方体はガチャガチャと崩れて行き、大型ロボットへと変貌する。

鋼の塊の様な四本足。巨漢の男性を連想させる、黒光りする鋼とワイヤーで形作られた人型の体。その両腕には、ガトリングガンが取り付けられている。


ーーーーーーーーーー


【市街戦型戦術兵器・トリトンサッガー】


リーマス社により製造された、大型市街地での戦闘を得意とする大型兵器です。

多数の重火器と高い耐久性を持ち、持続的な戦闘を得意とします。

あなたより格上のモンスターです。


ーーーーーーーーーー


機械相手には魅了も効かないし、そもそも生物でも無いので命の奪取も出来ない。

しかし、だからと言って悲観する事も無い。


「貴方もスクラップにしてあげますよ。大きな大きなスクラップです。」


ティーミスは魔剣をしまい、左腕を大顎の怪物へと変貌させる。

戦術兵器の持つ二つのガトリングガンがティーミスめがけて連射されるが、顎腕に弾かれ躱されで一つとしてティーミスに命中した物は無い。


「先ずは、メインカメラです。」


何故、戦術兵器の頭部を頭と言わずにメインカメラと呼んだかは、ティーミス自身も分からなかった。

顎腕が戦術兵器の頭にかぶりつき、二、三左右に振った後にその頭をちぎり取る。

戦術兵器はよろめきながらガトリングガンにあらぬ方向への連射を始め、その隙にティーミスは顎腕から魔剣へと武器を変更する。


「ロボットの仕組みはよくわかりませんが、多分そこが急所ですね。」


胴体部分のプレートを力ずくて引き剥がし、露わになった動力コアにその黒い炎の魔剣を何度も突き刺す。

コアが青白い光を放ち始めると、ティーミスは本能的に戦術兵器から距離を取る。


“損傷…ザザ…重篤…ガガ……センター…救援…発し…”


戦術兵器は全体が青白い光に包まれ、直後に大爆発を起こしスクラップへと変わり果てる。


「うわ!…思ったよりも傷だらけですね…」


損壊した周辺の建物を見ながら、ティーミスは呟く。

いつも通りの、ダンジョンクリアおめでとうございますのウィンドウがティーミスの前に表示され、いつも通りにティーミスの視界は白に沈んでいく。

と、建物の傷の周辺に小さな蜘蛛型のロボットが続々と集まり、修復を始めるところまではティーミスも見えた。


バシャン!


がしかし次の瞬間には、ティーミスは水の中に放り出されていた。


「ゴボゴボ!?」


思った以上に疲労が蓄積していたらしく、ティーミスは浮上に手間取っているが、下側から何か温かい物に押され見事水上に浮上する。


「ぷっは!…ぜえ…ぜえ…此処は…?」


ティーミスが居たのは、巨大な地下湖。

神秘的に青白く輝く湖がどこまでも広がっており、水平線すら確認できるほどだ。


「失礼、大丈夫ですか?」


「へ?」


ティーミスの傍に浮上して来たのは、人サイズのクリオネの様な生命体。

巨大クリオネは戸惑った声色でティーミスに問いかける。


「貴女、もしかして人間ですか?ああてっきり、とんだうっかり者が卵を放っておいてしまったのかと。

そうだ、取り敢えず陸まで案内しますね。私に掴まってください。」


ティーミスは訳も分からずに、一先ずそのゼリー状の生物にしがみつく。

ティーミスはふと周囲を見回すと、水中にこれと同種の生物が沢山居るのが見えた。


「あ…あの…貴方達は一体…」


「私の名前はプリスエって言います。見ての通りのアクアジュレスです。貴方は…」


「私の名前はティーミスって言います。その、少なくとも生まれた時は人間でした。」


「あらあら、面白い自己紹介ですね。哲学的で素敵。真似しても宜しくて?」


「はい、その、ご自由に。」


しばしして、ティーミスとプリスエは浜の様な陸に辿り着く。


「ふう…その、ありがとうございます。」


「いえいえ。…しかし人間である貴女が、どうしてこのアトゥルルイエに?」


「アトゥルルイエ?」


「貴女方人間は、ここを魔力の泉と呼んでいます。」


「…!」


ティーミスの背筋にぞくりと何かが伝う。


(…つまり…此処はアトゥの真下…)


元はと言えばアトゥの真下にこんなものがあるから、帝国が目を付けティーミスの故郷を乗っ取ってしまったのだ。

アトゥの地下にこんなものさえ無ければ、ティーミスは今頃も普通の少女として暮らせていただろう。


「ふー…ふー…ふー…」


行き場の無い怒りが、ティーミスの胸の中で燃え上がる。

と、ティーミスの腹に、暖かくて湿ったゼリー状の膜。プリスエのヒレがひたりと触れる。


「!」


「事情はよくわかりませんが…貴女はこの泉を恨んでいるのですね。

この泉が、また何か不幸を生み出してしまったのですね…」


「……」


ティーミスはふと冷静さを取り戻す。


(違います…こんなのただの…八つ当たりです…)


消え入りそうな声でティーミスは呟く。泉には何の非もない、ただそこにあっただけだ。


「ごめんなさいプリスエさん。…その…何でもありません…」


「あら…?貴女から、何だか懐かしい気配がするわ。」


「?」


「んー…あ、そうだ!貴女、もしかしてギサーリさんの親戚ですか!?」


「ギサーリ…?私の、祖父です。」


ティーミスのエルフの祖父であり、ティーミスが生まれて間も無くして病死したギサーリ・エルゴ・ルミネアの事だった。


「ああやっぱり!あなた、ルミネア家の方ですね!」


「…え?貴方は、私の家を知っているんですか?」


「ええ。ギザーリ様…あのお方は、七百年前に私達の住処であるこの泉を守る為に、ここの上に国を創って下さったんです。

ここの水は、厳密には圧縮されて液体化した魔力そのもので、一滴で島一つを吹き飛ばせる力を発揮すると言われてます。…しかし、私達アクアジュレスはこの液体の中でしか生きられません。

その事実を知ったギザーリ様は、人間の搾取の手から私達を守る為に、正式な手続きを持ってこの地下空間のある土地を所有して、守り続けて下さったんです。いままでも、これからも。」


ティーミスは胃が締め付けられる心地がする。

アトゥの下に泉があるのでは無い。この泉の上にアトゥを建国したのだ。それも、紛れもなくティーミスの祖父の手によって。

そして今、帝国が、此処を。

もし今のこの状況を知ってしまったら、祖父は、彼らは、一体何を思うのだろうか。


ティーミスは絞り出すように、噛み潰す様に、プリスエに告げる。


「私の祖父は。素晴らしい方だったのですね。…少し野暮用が出来ました。出口は何処でしょうか。」


「そこから真っ直ぐ行った先に階段があります。少し長いらしいですが、そこを抜ければ地上ですよ。」


「ありがとうございます。…突然来てしまい申し訳ございません。」


ティーミスはプリスエの頭をひたひたと触ると。洞穴の出口へ向かい歩き出す。

その後ろ姿に、何かを思い出したかの様にプリスエが呼び掛ける。


「あの!貴女は一体どうやって此処へ?」


「…その…少し、転移魔法に失敗してしまった様です。」


「まあ。それは大変でしたね。」


ティーミスは、彼らには何も伝えない。

帝国の事も。ルミネア家とアトゥ公国の末路も。何も。


「お元気で!ギザーリ様のお孫様!」


ティーミスの歩みが、一瞬ピタリと止まる。

誰かから気遣われる事が、乾きかけているティーミスの心を微かに湿す。


「貴方達も。」


光り輝く魔力の泉を背に、ティーミスは一人暗い道を歩む。

湿った岩壁がティーミスに微かな恐怖を与えたが、それももう慣れたものだ。


アトゥを取り返し、祖父が人生をかけて守ったこの泉を守り、帝国には報いを受けさせる。

それが天から見て悪だったとしても正義だったとしても、ティーミスの道には、いつも孤独が付き纏っていた。






ーーーーーーーーーー


【怠惰の摩天楼】をクリアしました。

EXPを800000入手しました。

おめでとうございます。

LVが45→51に上がりました。

スキルポイントを16獲得しました。


あなたはダンジョンを三つ攻略したため、ボーナスとしてパッシブスキル《摂理の否定・体》を習得します。


《摂理の否定・体》〈レジェンダリースキル〉

魅力と体力を除くあなたの全ての基礎能力値、各種リソースの上限が51(現在のLV)倍され、麻痺などの一部行動阻害系状態異常を完全に無効化します。



『それは福音か、はたまた呪いか。

神の書いた設計図からの脱却か、自然界における突然変異か。それすらも神の描く図面の上の出来事か。

理を三つ、全てを部品にまで崩し、稚拙な想像力で組み上げたそれは、摂理への冒瀆。人が人のまま人を超えるための、己が為の新たな理。』

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