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デート

ーーーーーーーーーー


4h01m


ーーーーーーーーーー


ルイとティーミスは、暗い地下洞窟を歩いていた。


「まさか…孤児院の真下にこんな場所があったなんて、思いもしませんでした。」


ティーミスは、ツルツルとした岩壁を撫でながら進む。


「この街では数少ない、戦火が全く及ばなかった場所。狩り班だけが知っている、デートスポットさ。」


「…私のわがままを聞いてくれて、ありがとうございます。」


デートに誘ったのはティーミスの方だった。

ティーミスは一分一秒でも、自分を愛してくれる人と一緒に居たかった。

コンマ一秒でも、誰かの愛に触れていたかった。


「誘ってくれてありがとう。すごく嬉しかったよ。」


ルイは光る魔石のランタンを片手に、ティーミスの少し前を歩く。

しかしその足取りはおぼつかず、ルイ自身もこの場所に来る事は早々無い事が伺えた。


「ほら、着いたよ。」


ルイは錆び切った二枚扉の前で立ち止まる。

ルイが錆びたドアノブに手を掛けドアを開けようとすると、


“ガチャ…ガシャン!”


ドアは倒れた。

ドアの無くなった通路の出口からは、僅かに明かりが漏れていた。


「ありゃ、もう寿命だったかな?」


ルイはランタンを足元に置くと、ティーミスに手を差し伸べる。


「おいで。怖く無いよ。」


ティーミスは、ルイの手を取る。

ルイはティーミスを連れて、かつてドアがあった場所の向こう側に進む。


細道の向こうには、どこまでも広がる巨大な地底湖があった。


「どうだい?綺麗だろう。これ、水に見えて全部魔力なんだよ。」


ルイは、ティーミスの方を見る。


「………」


ティーミスは、静かに泣いていた。


「ど…どうしたんだい!?もしかして、怖かったかな…?」


「いえ…少し…懐かしい気分になっただけです…」


ティーミスの記憶の中の景色と、目の前の地底湖の景色が重なる。

直接関わる事は殆ど無かったが、魔力の地底湖もまた、ティーミスの人生を形作る上での重要な1ピースだった。


「懐かしい…か。」


孤児院には、ティーミスの素性を知る者は居なかった。

ティーミスはいつのまにか現れて、いつのまにか孤児院に馴染んだ。

いつから居たかを正確に答えられる者は居なかったし、いつから居たかを聞く者も居なかった。

ティーミスは自分について語った事は無いし、ティーミスに素性を聞く者も居なかった。


「ねえティーミス。君は、何処から来たの?」


ルイは勇気を振り絞り、ティーミスに問い掛ける。


「………」


ティーミスはぼんやりと地底湖を眺める。

涙で潤んだティーミスの瞳に、薄明かりを放つ地底湖の景色が反射する。

そこには、もう一つの絶景があった。


「…私は…」


ティーミスは、どう答えればいいかを考える。


アリはアリの巣から来る。

旅人は後にしてきた場所から来る。


ではティーミスは?


旅をしていた訳では無い。

何処かに住んでいた訳でも無い。


「…さあ。解りません。」


ティーミスは地底湖の方に進み、そのまま地底湖の中へと入っていく。

水深は小柄なティーミスの足首がぎりぎり浸かる程度。

それは、ティーミスの記憶の中の湖とは決定的に違っていた。


「やっぱり、君もそうなんだね。」


ルイは、湖に立つティーミスに話し掛ける。


「にぇ?」


「無能者がその液体に触れれば、10秒も持たずに肌がかぶれてしまうんだ。」


ルイは靴を脱ぎ、軍服のズボンの裾を軽くまくり、ティーミスの元まで歩いて行く。


「孤児院の中ではスキル使用者は狩り班だけって事になってる。君以外のみんな、この湖の水で調べたんだ。」


「…私も、それに入った方が良いですか?」


「まさか。君にそんな事はさせないよ。」


ルイはしゃがみこみ、ティーミスを抱き締める。

ティーミスは最初こそ戸惑ったものの、やがてそんな些細な緊張も解けていき、ルイの首にそっと手を回し、目を閉じる。

荒地に降る雨の様に、ティーミスの心にルイの体温が染み込んでいく。


(…やっぱり…誰かと一緒って、幸せ…)


ティーミスは幸せな気持ちになる。


ティーミスがなかなか離れなかったので、ルイとティーミスは暫くの間抱き合った。


「そうだ。液体魔力が平気なら、一緒にこの奥に行ってみようよ。」


ようやくティーミスが離れたので、ルイは小さな旅の続きを提案する。


「何かあるんですか?」


「うん。説明するには勿体ない物がね。」


ルイとティーミスは手を繋ぎ、地底湖の真ん中を目指して歩き始める。

いくら進んでも、水深が変わる事は無かった。


「ほら。見えてきた。」


ルイは、湖の中心に立つ5m程の構造物を指差す。

少し進むと、それが髪の長い女性を象った彫像であると言う事が分かった。

少し進むと、その彫像が一枚の布に装飾を施した物を服として纏い、水瓶を抱えている事が分かった。

少し進むと、それが水晶の様な材質で出来ている事が分かった。

彫像の前に立つと、その彫像が息を呑むほど美しく、精巧に作られている事が分かった。


「…これは?」


「《ルインラックの水瓶乙女の偶像》。E級魔力源泉だよ。」


口を横に向けられた水瓶からは、液体魔力がか細く流れ続けていた。


「いつから此処にあるのか、どうして此処にあるのか、誰にも分からない。でも凄く綺麗。」


ルイはティーミスの方を向く。


「まるで君みたいだなって思って。」


「…ふふ。」


ティーミスは、口説かれて少し嬉しくなる。

ふと顔を下げた時、ティーミスは水面の下にキラキラとした物を見つける。

拾い上げると、それが砕けた水晶だと言う事が分かった。


「これは?」


「遠い昔、この空間は全部宮殿だったって言われてる。柱も屋根も全部水晶で出来た、壮麗な場所だったって。」


不意に地面が少し揺れ、初めからアンバランスな姿勢だった水晶の像が倒れる。

像には傷一つ付かず、おまけに独りでに立ち上がって元どおりの場所に戻る。


「でも、ある日戦争で壊れちゃったんだ。源泉特有の破壊耐性を持ってた、この像以外はね。」


ルイは像を見上げる。

像は、変わらずそこに立ち続ける。

その姿勢から見るに、かつては何かに寄りかかる様に立っていたのかもしれない。


二時間ほど、2人は水晶像の前で座って過ごした。


「そろそろ、帰ろっか。」


「うん。」


「…ティーミス?今、敬語が…」


ティーミスは、ルイに笑顔を返す。


「絶対に、あなたの事は守ってみせる。だから、出来るだけ長い間、ううん…ずっと、あなたと一緒に過ごしたい。」


ティーミスは、ルイを口説く。


「ありがとう、ティーミス。僕の事を大切に思ってくれて。凄く嬉しいな。」


ルイは、ティーミスの頰にキスをする。


「ずっと一緒にいよう。ティーミス。」


ーーーーーーーーーー


1h50m


警告

前兆イベント《清掃》発生


ーーーーーーーーーー


不意に、上から爆発音が聞こえて来る。

洞窟の屋根が崩落していく。


「…!」


ルイは咄嗟にティーミスを自身の元に引っ張りこむと、地底湖の液体を一掬い飲みこむ。


「《タートルワールド》!」


ルイがそう叫ぶと、落ちてくる瓦礫が、水面の揺れが、全てスローモーションになる。


「そう長くは持たせられない。直ぐに逃げよう!」


「う…うん!」


ルイはティーミスの手を引き、出口を目指し駆け出す。

洞窟の崩落は地底湖の中心を起点に、ゆっくりではあるが確実に進んでいく。


「はぁ…はぁ…い、一体…何…?」


「明らかにこの土地が攻撃されてる。奴ら、きっとまた戦争を始める気だ。…孤児院の皆が危ない!」


地底湖からあがり、ルイは靴を半ば踏み潰す様に履き、ティーミスを連れて、出入り口へと続く細穴へと入る。

今までは異様に引き伸ばされていた崩落音が、元に戻る。

ティーミスの直ぐ後ろで、通路が潰れていく。


「ティーミス!飛んで!」


「!?」


ティーミスはルイに、前方に投げ飛ばされる。

壁に描かれた魔法陣から、ティーミスは地上に、教会の裏に出る。


「ルイ!」


ティーミスは不安になって名前を呼ぶ。


「はぁ…はぁ…何だい。ティーミス。」


ティーミスの背後から返答が来る。

ティーミスは振り返ると、そこにはルイが立っていた。

身体中擦り傷だらけにはなっていたが、命に別状は無さそうだった。


「…その魔法陣って、教会の壁に書いてあったやつ…だよね。」


ティーミスはルイに確認する。


「そうだけど…」


次の瞬間、ルイは魔法陣の上に立っている事に気が付く。

ルイは恐る恐る振り返るが、そこには教会は無かった。

ーーーーーーーーーー


1h43m


前兆クエスト

《清掃》

・クリア条件

メインクエスト開始まで生き残る


報酬

・【重機部品】×500

メインクエスト開始時、5分間の強力なバフをランダムで獲得


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