ハイ街
空も大地も全てが灰色に染まった、薄暗い瓦礫と廃墟の街で、16歳ほどの3人の少年達が、武器を片手に食料を探している。
孤児院で待つ、血の繋がっていない8人の兄弟姉妹達の為に。
三人とも灰で汚れた同じ軍服を着ていたが、持っている武器はそれぞれ、剣と、槍と、壊れかけの機関銃と言った具合でバラバラだった。
「…見ろよ。これ。」
剣を持った少年が、道路の窪みに出来ていた小さな水溜りを指差す。
「どうした?何か見つかったか。」
他の二人も、剣持ち少年の元に集まる。
「どうやら此処には、もうまともな飲み水も無いらしいぜ。」
少年の指差した水溜りの周囲には、おびただしい数のネズミが死んでいた。
そのネズミはどれも、鼻や顔が潰れていた。
「この臭い…もしかして。」
機関銃の少年が、二本の枝を使ってネズミの死体を水溜りの中に落としてみる。
中の液体に落ちたネズミは、まず表面から小さな泡を吹き出していき、次に毛や皮膚などが剥離していき、最後は血色の泡と完璧な状態の骨だけになった。
「ただの酸じゃん。なんでこいつら、こんなもの飲もうとしてたんだ?」
槍の少年が、特に理由も無く死体を酸溜まりに落としながら、疑問を呈する。
「他に飲む物が無かったんだろ。」
剣の少年が、溶けていくネズミ達を観察しながら答える。
「降る雨は有毒。川は枯れてるか汚染されてるかのどっちか。蛇口ひねれば出てくるのは毒薬。俺たちが飲んでる水は全部、軍が置いてった奴。此処はもう生物の住める場所じゃ無いのさ。」
剣の少年は見解を述べ終える。
「もしかしたらネズミ達は、この世界に見切りをつけたのかも知れないね。」
機関銃の少年が、すっかり赤くなった酸溜まりに浮かぶ白骨を、枝で突きながら話す。
「…羨ましいか?」
剣の少年が二人に問う。
槍の少年は、無言を返す。
「ちょっと…いや、凄く羨ましい。」
機関銃の少年は答える。
「これで7人か。」
剣の少年が、ポケットから取り出したメモ帳に機関銃の少年の名前を記入する。
「残り4人。まだこの世界に未練のある残りの4人の弟妹がこのロクでも無い世界に飽きた時、俺たちの役目は終わる。その時は、兄弟みんなで…」
槍の少年が、剣の少年の足元を徐に指す。
「おい、それって…」
「ん?何だ?」
剣の少年は顔を下げ、ブリキ製の赤い缶が転がっている事に気がつく。
缶は未開封の状態だった。
剣の少年は缶を拾い上げ、表面の土埃を払い落とし、掠れた文字に目を凝らす。
缶の正体は、乾パンだった。
「おいマジかよ…」
槍の少年が唖然とする。
「凄い!きっと神様が、まだ諦めちゃダメだって言ってるんだと思うよ!」
機関銃の少年が、軽く飛び跳ねながら喜ぶ。
「見た感じ軍人の忘れ物って感じだな。こんだけあれば3日は持つな。よしお前ら、一旦帰還…」
剣の少年は孤児院のある方角を向くと、遠巻きに人の姿がある事に気が付く。
ガタイのいい成人男性。服装は軍服で間違い無い。
「…1人、だね。」
機関銃の少年が、スコープでその人物を覗く。
「あんま乱射するなよ。もしかしたら何か持ってるかも知れねえからさ。」
槍の少年も、己が武器を構え臨戦態勢に入る。
「もう少し待とう。もしかすれば本物の生存者の可能性もあるからね。」
剣の少年がそう言った矢先だった。
“オオオオオオオアアアアアアア!!!”
遠巻きの人物は3人に気付くと、突然叫び出し、気味の悪い程の高速で駆け出して来る。
肌は白色。下あごは無し。血まみれの大きなリュックを背負っている。
「良いか。合図をしたら頭を狙え。怯んだところを俺が討つ。」
槍の少年は、物凄い勢いで走って来るゾンビを見据える。
ゾンビと少年達の距離が、100m前後に差し掛かった時だった。
「今だ!やれ!」
槍の少年はそう叫ぶ。
“ダダダ…ガチャチ…ダダダダ…ガチャチ…ダダダダ…”
数発に一回弾詰まりを起こしながら、機関銃が連射される。
弾道はブレにブレていたが、3発がゾンビの頭に命中する。
ゾンビの頭が、吹き飛ぶ。
「行くぞ!」
槍の少年は、剣の少年と共にゾンビの元へと駆け出す。
(まずは腕…次に足だ。)
2人はほぼ同じタイミングで、ゾンビを間合いに収める。
ゾンビは腕を振り回すが、感覚器官の塊である頭部を失っていた為、少年達に当たる事は無かった。
「てい!てやぁ!」
剣の少年が、二筋の剣戟を繰り出す。
ゾンビの両腕が肩のあたりからバッサリと切断され、リュックと一緒に地面に落ちる。
「《足払い》!」
槍の少年が、ゾンビの足元に向かい槍を横に振るう。
ゾンビは転倒する。
「《聖なる一刀》!」
剣の少年がそう叫ぶと、手に持っていた鉄製の剣が光を帯びる。
少年は、その剣をゾンビの鳩尾に突き刺す。
ゾンビの体も同じ様に輝き始める。
ゾンビは、暫し悶え苦しむ素振りを見せる。
光が消えると同時にゾンビの動きも止まり、再び動き出す事も無かった。
「みんな大丈夫?怪我は無い?」
機関銃の少年が、2人の元に駆け寄って来る。
「あんな雑魚に手負わされる程は落ちぶれちゃいねえよ。」
槍の少年は答える。
「おい見ろよこれ!」
剣の少年は、ゾンビの背負っていたバッグを開けて叫ぶ。
「包帯に鎮痛剤。放射能汚染用の血清に、回復ポーションまであるぞ。」
槍の少年が、ゾンビの胸の勲章を確認する。
「さしずめ、はぐれ補給兵といった所だろう。全く皮肉だな。軍に街を壊された俺たちの生命線が、その軍の忘れ物なんてな。」
槍の少年はひとしきり中身を確認し終えると、その中に先程手に入れた乾パンも入れ、血で汚れ硬くなったチャックを閉じ、背負う。
槍は他の二つと比べて非常に軽量な武器なので、当然の流れではあった。
「そろそろ本当に帰るぞ。近くにこいつの仲間が居たら厄介だ。」
せっかくの戦利品を失ってはならないと、3人は足早に孤児院へと帰って行った。
〜〜〜
そこは孤児院と言う名前はつけられているが、実際はそんな良い物では無かった。
建物は、傾いた壊れかけの教会。暮らしているのは居場所を失い勝手に集まってきた子供達。当然、世話役の大人なども居ない。
「そして悪い王様は改心し、七頭のロバと一緒にいつまでも幸せに暮らしましたとさ。おしまい。」
揺り椅子に座る少女は読み聞かせを終えると、ほぉと一つ息を吐く。
煉瓦色の長い髪。教会の壁と外の景色をそのまま写した灰色の瞳。。茶色いワンピースを纏っており、首からは十字架のロザリオを下げている。
「面白かったー!」
「サンサお姉ちゃんより、いっぱいお話を知ってるんだね!」
少女を囲むのは4人の子供達。
6歳から7歳程の、少年と少女2人づつ。
全員、ボロボロになった少年兵用の制服を纏っている。
「お姉ちゃん凄いね!何でも知ってるって言ってたサンサお姉ちゃんよりも、ずっと何でも知ってるんだね!」
「ねえねえ、他のお話は無いの?」
縋り来る子供達に、少女は落ち着いた様子で返答する。
「次のお話は今夜話してあげます。それに、そろそろ朝ご飯の時間です。」
「えぇ〜?」
「もっと聞きたーい!」
「意地悪ー!」
駄々をこね始める子供達に少女が困っていると、部屋にもう1人、別の少女が入って来る。
年は16歳程。長い茶髪に鳶色の瞳。背は高めだが、少し痩せている。
「こーら!ティーミスお姉ちゃんが困ってるでしょ!」
「うわぁ!サンサお姉ちゃんだ!」
「怒られる!逃げろー!」
子供達は、ティーミスの元から一斉に散らばって行く。
「はぁ…全くもう…」
サンサは腰に拳を当てながら、子供達の出て行ったドアを眺める。
「ごめんなさいね。朝食もまだなのに、子供達の相手をさせてしまって。疲れたでしょう?」
サンサは、ティーミスの目線の高さまでしゃがみこむ。
「そんな事ありませんよ。自分の知っているお話を誰かに聞かせるのは楽しい事ですよ。」
ティーミスは、少し笑みを浮かべながら答える。
「はぁ…貴女も貴女で、少し良い子過ぎない?私達にはもう将来なんて無いんだし、もう少し自分に正直でも良い気がするわ。」
「…そう悲観しないでください。この世界にも、一欠片の喜楽くらいあると思いますよ。」
ティーミスは揺り椅子から立ち上がり、窓辺まで歩いていき、灰色の空を見上げる。
雲っている訳では無い。
この街を壊した戦火の灰が、今だに空を覆っているだけだった。
「…演じている訳でも、良い子でいようとしている訳でも無くて、それが貴女の本質なんだね。ごめんなさい。お姉ちゃん、少し勘違いしてたわ。貴女は本当に良い子なんだね。」
「…にゃ…」
ティーミスは、照れくさくなり赤面する。
「ふふふ。貴女って本当に可愛いわね。さ、早く行きましょ。今日は狩り班のみんなが、乾パンを見つけてきてくれたんですって。」
ティーミスの喜んだ姿が見たくて、サンサはティーミスの顔色を伺う。
ティーミスは真っ青な顔で、宙の一点を見つめていた。
「どうしたの?ティーミス。」
「な…何でもありません。早く行きましょう。」
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急襲予報
00:10:07
wave数 0/4
報酬
1wave 《火薬》×200
2wave 《戦車用装甲板》×50
3wave 《大型重機製造用基礎資源》×100
4wave 《???の設計図》
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