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「僕を、僕の陣営を、貴女の配下にして欲しい。咎人よ。」


ドゥルンジタは仰向けのまま、ユミトメザルに来た理由を話す。


「…えっと…それは…」


ティーミスは、当然戸惑う。


(どうしましょう…配下ってどう言う状態になるんでしょうか…食べ物とか住む場所とか、必要になるのでしょうか…)


誰かが強大な力を持てば、追従する者が現れるのは当然の事。

ただティーミスには、その手の知識が丸っ切り無かった。

絶対的な力を持った悪役としての暮らし方など、学校では教わらない。


「た…対価は…」


ティーミスは緊張で締め上げられた喉から、必死に台詞を絞り出す。


「対価?僕が貴女様に差し出す物は何か、と言う事ですか?」


「いえ…その、ドゥルンジタさん。貴方は私に、何をして欲しいんですか?」


「…!」


ドゥルンジタにとって強大な力を持つ者の傘下に下ると言うのは、こちらへのメリットのある行動だと考えていた。

しかし、ティーミスにとっては逆だった。

ティーミスにとって何者かを家来に向かえると言うのは雇用と同じ、対価はティーミスの方が支払う物だと思っていた。

ドゥルンジタにとってこの認識の相違は、嬉しい誤算だった。


「では僭越ながら、僕からの要求を申し上げます。咎人様。僕から提示する要望は二つ。

まず一つ、僕と僕の配下の者に対する不戦条約、及び僕らの陣営の保護をお願いしたい。

そしてもう一つ、貴女様の傘下への加入を求める他の神龍も、同様に受け入れて欲しいのです。」


ドゥルンジタはここぞとばかりに、ティーミスに求める物を全て吐き出す。


「…えっと、それだけですか?」


ティーミスは首を傾げる。


「ん?」


ドゥルンジタも首を傾げる。


「その…私、ドラゴンさんがどんな物を食べるのだとか…どれくらいの広さのお部屋があれば良いのかとか…残念ながら全く知りません…」


ティーミスは少し俯きながら、申し訳なさを言葉に乗せて話す。


次の瞬間、ドゥルンジタは理解する。

咎人と自分の感性が違えている訳では無い。咎人がただただ無知なだけだと。


「その…咎人殿。別に僕は、貴女との同居がしたい訳では無いのです。あくまでも傘下に入りたいのであって、一つ屋根の下に入りたい訳では無いのです。」


「そう…なんですか?私はてっきり…」


ティーミスは、自分の家や縄張りといった物に対する意識が低い。

と言うのも、壁に門すら無いのに、ティーミスの我が家は人の出入りが激しかった。ダンジョンで出会った知らない男に、勝手に住まわれた時もあった。

ピスティナ達の事もあり、ティーミスにとって仲間とは一緒に住んでいる者と言う認識があった。


「そうですか…本当に、大丈夫なんですね。」


ティーミスは確認する。


「ああ。貴女がそれで良いのなら、問題は無い。」


本当はドゥルンジタは、傘下に入る対価として自身を使役する権利を差し出すつもりだった。

しかしドゥルンジタは考えた。

咎人にとって、神龍一匹の戦力などどの程度の価値なのかと。

咎人にとっては、“お魚さん”一匹を手に入れた事により得られるメリットよりも、“お魚さん”の事を守る労力の方が明らかに上では無いのかと。

今回はドゥルンジタが、ティーミスの無知により救われる形となった。


「では、僕はそろそろ此処を去…」


唐突に、ドゥルンジタは台詞を区切る。

ドゥルンジタの表情が、至極険しい物となる。


「…済まない、咎人。やはり暫く、此処に置いてくれないだろうか。」


それを聞いたティーミスの表情が、僅かに綻ぶ。


「やっぱり一緒に住んでくれるんですか。良いですよ。大っきな部屋、用意しますから。」


ティーミスは、浮力を失い地面に倒れたままのドゥルンジタの頭を抱え上げる。


「ドゥルンジタさん、貴方は眠ったりしますか?」


「何故そんな事を聞く。」


「夜は一人より、誰かと一緒に居た方が落ち着くんです。」


ティーミスを一方的に虐め、殺しかけたのは人間である。

故にティーミスは、初対面の人型の生物、とりわけ人間と出会った時はいつも一定の嫌悪感を抱く。当然、その後の付き合いによりそう言った嫌悪は晴れるが。

しかしドゥルンジタは、ドラゴンである。

言葉を話す人間以外の生物は、ティーミスにとっては好意の的だった。



〜〜〜



ドゥルンジタの分体の片方がユミトメザルにたどり着いた頃、もう片方の分体は神龍会議を開いていた。


千翼の還る場所。

山頂の円形広場。


「どうなっている、ユグドレリアは欠席として、フカセツはまだ来ないのか?今回もどうせ咎人関連の話だろうに、フカセツが来ないのは納得出来ん。」


紅色の二足龍ディブリエが、会議に集められた面々を見回しながら愚痴る。

今この場には、11体のうち9体の神龍しか来ていなかった。


「"全員”揃ったみたいだね。」


ドゥルンジタはいつもの様に、開会の挨拶をする。

8体の神龍達は皆、突如の事に愕然とする。


「…失礼、ドゥルンジタ。今、何と言った?」


白色のティラノサウルス型ドラゴン、メルヴィアントラがドゥルンジタに向けて疑を呈する。


「…神龍は、ユグドレリアを抜けばこれで全員なんだ。」


ドゥルンジタは、力無く答える。


「失礼、貴方のおっしゃっている意味が解らない。どう言う事ですか?フカセツはもう来ているのですか?」


メルヴィアントラが、ドゥルンジタを追求する。

他の7体の神龍も行動こそ起こさないものの、概ねメルヴィアントラと同意見だった。


「これはまだ機密情報だが…彼女は、亡くなったんだ。」


ドゥルンジタが事実を述べると、その場から一瞬音が消えた様になった。


「それは…それは…あやつもああ見えて、もう年じゃったからのぅ…惜しい方を亡くしたが、これも天命。いずれはワシらにも起こりうる事だ。」


深海の管理者、魚龍サンクトゥスが真っ先に状況を把握し、頭を軽く横に振りながら呟く。

ドゥルンジタは一瞬歯ぎしりをする。


「…天命な訳が有るものか。彼女は他殺された。咎人に、殺されたんだ。」


どうせ誰も信じはしないだろう。

ドゥルンジタはそう確信していた。

しかし、実際は少し違った。


「負けたのか…?フカセツが…咎人に…!?」

「ユグドレリアが来なかったのはそう言う事か…」

「クソ…この世界は一体どうなっちまったんだよ。」


ドラゴン達は、ドゥリンジタの言葉をすんなりと信じ込んだ。

ドゥルンジタは、自身の想像以上に他の神龍達から信頼されていた。


「…で、ドゥルンジタ。これからどうすんだ?」


メルヴィアントラが、ドゥルンジタに向けて質問する。


「ああ。僕はこれから、咎人の側につく事にする。」


若干騒がしかった神龍達が、ドゥルンジタのその言葉でしんと静まる。


「…済まない、ドゥルンジタ。今何と言った?」


キランガンドが聞き返す。


「僕は咎人の傘下に入れて貰う事にした。」


ドゥルンジタはもう一度、自身で導き出した結論を答える。


「貴様正気かドゥルンジタ!」


キランガンドが、ドゥルンジタの方へとにじり寄る。


「ドゥルンジタよ、今からでも訂正した方がいい。」


9つ頭の青いハイドラ、ヤルマハイダの頭の一つが冷静にドゥルンジタに提案する。


「そうか…残念だ、ドゥルンジタ。」


ヤルマハイダの9つの首全てが、やれやれと言った具合でそれぞれ横に振る。

次の瞬間、キランガンドがドゥルンジタに飛び掛かる。


「…!」


ドゥルンジタは空に垂直上昇する事でキランガンドの攻撃を回避する。

が、ドゥルンジタは回避先で、遥か天空から伸びてきた鎖により捕縛される。


「悪いね、ドゥルンジタ。貴方はもう僕達の敵なんだ。」


全長15センチほどの、妖精のような羽の生えた小さな白いドラゴン、コゥエルの魔法だった。


「…では君達は、咎人に対しての勝算があるのか?」


ドゥルンジタは問う。

少なくとも今のドゥルンジタは、ノーと答える質問である。


「じゃあ君は、勝てないと判断したからって敵の側に付くのかい?そうやって難題から逃げるなんて、君らしくない、ドゥルンジタ。」


コゥエルはそう言いながら、鎖で縛られたドゥルンジタの顔の前まで飛んで来る。


「よく聞くんだ、8柱の神龍達よ。もしも君等の中に僕と同じ考えを持つ者があれば、躊躇わずに僕の所まで来てくれ。」


「これ以上ドラゴンの秩序を乱すなら…死ね!」


コゥエルの口の前に、白色の魔力球が形成されていく。


「…ユミトメザルで、待っている。」


コゥエル放った超高出力の聖属性ブレスにより、ドゥルンジタは跡形も無く消し飛ばされた。

後に残ったのは、先端が融解した、天空からぶら下がる鎖3本だけだった。


「どう思う。コゥエル。」


キランガンドが問う。


「大きさも長さも重さも、普段の半分。誰がどう見ても分体を作った後でしょ。あれは。」


コゥエルは一つ、大きくため息を吐いた。


「ユミトメザル…か。咎人が優しいと良いね。ドゥルンジタ。」

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