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見境

東龍会総本山、亜責ノ都。

フカセツの屋敷。


「…ん…」


灰まみれのティーミスは身を起こす。


ティーミスは、自分の頰を両手で触ってみる。

少なくとも、腫瘍の手触りでは無かった。


ティーミスは、フカセツの灰の中に埋まっていた手鏡を持ち上げ覗き込む。

煉瓦色の、腰まで伸びる長い髪の毛。手鏡の中の自分をぼんやりと写した瞳。

見慣れたいつもの自分の顔である。


「………」


ティーミスは、開けっ放しになっていた出入り口の方を見る。

着物を着た一人のドラゴニュートが、目を見開き、口を僅かに開けた状態で立っていた。

目撃者は、放心状態で呟く。


「ふ…ふか…せつ…様…?」


ティーミスはゆっくりと立ち上がり、目撃者の前まで歩く。


「今観た事を、出来るだけ沢山の方に広めてください。」


「…は…?」


ティーミスは、手刀を振るう。

目撃者の腕が、右肩から切断される。


「死にたくなければ、早く。」


「ひ…ひやあああああああああああ!」


目撃者は、一口啜れば万病を治すと言われている龍血を撒き散らしながら逃げ出す。

絶叫しながら走り回るその姿が不気味だったので、ティーミスは一つ身震いした。


「…はぁ…」


ティーミスは、手鏡で再び自分の顔を見る。

いつも通りの顔。


「……」


ティーミスは、自分の顔が映った手鏡を割る。


「…もう、見境が無くなっているじゃ無いですか。」


ティーミスは、自身の額を殴る。

血が、目の間から鼻先まで流れる。


「…すっきりしました。」


ティーミスは、親指の先に付いた自分の血を満足そうに眺める。

ティーミスは、割れた自分の顔に向けて呟く。


「…願わくば、今日の夜は私のベッドで眠れますように。そして明日は…」


騒ぎを聞きつけた沢山のドラゴニュート達が、フカセツの部屋に駆け付ける。

散乱したフカセツの灰。脱ぎ捨てられた浴衣。割れた手鏡。

部屋に残っていた物は、それだけだった。

フカセツを最も慕っていたドラゴニュートが、フカセツだった物を見つめ呟く。


「…神龍様が…死んだ…?」


その日、世界はひしゃげた。



〜〜〜



朝。

焦げ地上空。


「…確か君達って、御主人様と命を共有してるんだっけ。」


アルベルトは、下に向けていた剣を再び構え直す。


「………幕引キ………」


カーディスガンドはアルベルトに背を向ける。


「おや、逃げる気かい?」


「………ソウ思ウナラ……付イテ来イ……」


カーディスガンドは、ユミトメザルの方角に向けて飛び去る。

アルベルトは一人取り残される。


「はてさて挑発か、或いはダンスのお誘いか。いずれにしても…」


アルベルトは、地面まで降下する。

アルベルトを見つけた大盾の冒険者が、アルベルトに声を掛ける。


「おお隊長。ご無事でしたか。」


次いで、赤色の鎧を纏った女性騎士が話し掛ける。


「アルベルト様。お疲れ様です。」


大規模魔法を生き残った15人の精鋭達が、アルベルトを出迎える。

アルベルトは一団を見て、少し虚しそうに話す。


「…やっぱり、君達だけが残ったんだね。」


赤色の鎧を纏った帝国騎士の女性が、アルベルトの前に出る。


「クエストの事務手続きを行う上で、人数の水増しは必須でした。それにアルベルト様がやらなくとも、彼等はいずれ咎人の眷属に殺されていたでしょう。それに今回徴兵されたのは…」


「それ以上は言うな。…はぁ…狂ってるよ全く…」


「ごもっともです。」


アルベルトは、ユミトメザルの方を向く。


「僕はこれから、咎人の元に行く。」


一瞬間が空く。

一同は息を呑む。

最初に止めに入ったのは、剣を装備した若い男の冒険者。


「待って下さい。今回のクエストは調査が目的ですよ!壁の材質は分かった、眷属を2体も撃退した!それで良いでしょう!わざわざこれ以上行軍する理由が…」


「君達は帰って良い。」


「…は?」


「咎人の元には、僕だけで行く。」


「しょ…正気ですか!?いくら隊長と言えど、死にに行くような物ですよ!」


「大丈夫だ。僕は死なない。この子もね。」


アルベルトは、ライトライガの首をパンパンと叩く。


「じゃあね。また後で。」


アルベルトは、飛翔する。



〜〜〜



ユミトメザル。


天馬に跨る聖騎士が一人、城の前に降り立つ。


「…誰も居ない?」


アルベルトの目の前に、僅かに赤色の稲光が発生する。

次の瞬間、天より一本の稲妻が落ちる。


「!?」


閃光と轟音が鳴る。

アルベルトは怯み、目を閉じる。


「にゃあああああ!」


アルベルトでは無い悲鳴が響く。

アルベルトは、恐る恐る目を開ける。

目の前には、おかしな呼吸をしながら縮こまる少女が居た。


「は…はぅ…はぅあ…」


胸に巻かれた黒いベルト。ぎりぎりサイズの黒いパンツ。二の腕から始まる、袖口が広くなっている黒い袖。黒と赤のストライプ柄のニーハイ。靴は変わらず編み上げのサンダル。

ティーミスである。


「にぁ…?」


ティーミスは先ず、自分の格好の変化に気が付く。

次に、目の前に表示されたシステムウィンドウに目が行く。


ーーーーーーーーーー


おめでとうございます!


危険度10の敵を討伐しました。

称号【神喰い】を獲得しました。

・【神喰い】

あなたは危険度11として扱われ、危険度10以下が全て格下判定になります。

格下の敵に与える全てのダメージが25%上昇します。



危険度10の敵を交戦開始より5秒以内に討伐しました。

【神喰い】は、レジェンダリー称号【最強】にグレードアップしました。

・【最強】

【最強】を持たぬ全ての敵が格下判定になります。

危険度5以下の敵から受ける、いかなるダメージも状態異常も無効化されます。

危険度6以上8以下から受ける全てのダメージが4分の1になり、状態異常が無効化されます。

危険度9以上10以下から受ける全てのダメージが半減します。



【最強】獲得報酬

・装備【タプターロスが拒んだもの】



【タプターロスが拒んだもの】

体力を除く全能力値が、装備者の存在する世界においての上限まで上昇します。

体力を除く全てのリソースが無限になります。


『はは。はははは。笑えるな。俺は…俺達は…これを神様って呼んでたんだな。』


ーーーーーーーーーー


ティーミスは、情報過多により錯乱する。


「にぁ…恥ずかし…これ…何が起こって…」


システムウィンドウが閉じる。

ティーミスは、先程までシステムウィンドウに隠れていたアルベルトの姿を確認する。


「…にぇ?」


アルベルトは目を閉じる。

アルベルトは呼吸を整える。

アルベルトは心を鎮める。

アルベルトは目を開ける。

アルベルトは、強大な敵との接敵時の礼法を一通り終えティーミスに話し掛ける。


「やあティーミス。会えると思っていたよ。」


ティーミスは一瞬目の前のそれが誰だか解らなかった。

ティーミスは記憶の奥底から目の前の騎士の顔を呼び起こす。

ティーミスは、その名を呼ぶ。


「あ…しょ…書記さん…?」


「やだなぁ。もう学校は無いんだ。アルベルトで良いよ。」


アルベルトはティーミスに笑みを向ける。

いつも通りの、底知れぬ不気味な笑み。

ティーミスにとっては何処か懐かしい笑顔。


ティーミスは、恐る恐る質問する。


「生きて…たんですか…?」


「ああ、まあ、うん。僕の家は直ぐに土地の所有権を明け渡して、亡命したんだ。帝国に。」


「貴方…だけが…?」


「いやぁ、多分だけど他にも居ると思うよ。あの国の全員が、自分の命よりも愛国心の方が重いとは限らないからね。」


「戦いに…来たんですか…?」


「…いや、僕は君と、話がしたくて来たんだ。まあ丁度いい。僕も聞きたい事が沢山あるんだ。」


アルベルトのペガサスが、魔法陣の中に消えて行く。

アルベルトは剣を鞘に納め盾も背中に回す。

アルベルトはティーミスに交渉する。


「交戦する気は無い。僕が少しでも信用出来なくなったらいつでも殺していい。だから、その、この国を散歩でもしよう。」


「…散歩…」


ティーミスはゆっくりと立ち上がる。

ティーミスは一つ大きく息を吐く。

ティーミスは、アルベルトに返答する。


「分かりました。寂しいし狭いし文字通り何も無い国ですが、私で良ければ案内します。」


「ありがとう。ティーミス。」


アルベルトはティーミスの目の前まで歩いて来る。

お互いの間合いにお互いが入る。

今のティーミスならば、1秒以内にアルベルトをミンチにする事が出来るであろう。

しかしティーミスは、当然そんな事はしなかった。

ティーミスには見境と言う物があったからだ。


ティーミスは、アルベルトの顔を見上げる。

ティーミスは気付いた点を述べる。


「…そのメガネ、ずっと変えていないんですね。」


アルベルトは、ティーミスに軽く仕返しをする。


「君は、相変わらず小さいね。」

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