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償い方も知らずに

(殺せ!殺せ!人間は敵だ!人間は部族の敵だ!)


ミノタウルスの勇敢なる戦士ゴガンは戦っていた。

部族に災いをもたらす、人間と言う侵略者か、又は


「ゴガンさん!お願いですから、目を覚ましてください!ゴガンさん!」


自らの名を必死に叫ぶ、大切な家族と。


「たあああ!《連斬(マルチスラッシュ)》!」


「ぐおおおおお!わしが、人間なんぞに!」


ゴガンとグラハムの出会いは、とある遠征クエストだった。

近隣の森を荒しまわるミノタウルスの部族を、この頃まだ学生だったグラハムが討伐に向かった事が始まりだった。


「何という力だ…お前は一体…」


「我が名は、グラハム・バクター!帝国騎士学校、聖騎士学科所属の者だ!」


「…学校だと…?つまりお前は…!」


「お前達の言葉で言えば、まだ“戦ぬ子”の年だろうかね。どうだ、幼子に敗北した気分は。」


「おのれ…このクソガキがぁ…!」


「ふん、無駄口を叩くのは後にしてくれないか。」


グラハムの切っ先には、集落の家々が立ち並んでいる。

グラハムの目的は、人間の思考には疎いゴガンにも良く理解できた。


「ま、待て!家にはまだ幼子も老人もおる!要求は何だ!言え!」


「…おや、戦闘部族と名高いミノタウルスでも、交渉する程度の脳はあるのだな。」


「武器か!食料か!労働力か!」


「ふ…ふはははは!我がそんな原始的な成果物の為に、わざわざ荒野の奥地まで来たと思っているのか!

…そうだな…なら、この村の部族長にこう伝えておけ。貴様らが此処最近、森で度々人間を襲っている事は知っている。もしこの様な蛮行を続けるならば、我々も容赦しない、とな。」


「…!…まさか、“居れぬ“の奴が…?

どうやら、お前は少し勘違いをしておるらしい。わしら誇り高きン=ンは、これまで一度たりとも“話る”の者を攻撃する様な事はしておらん!」


「成る程。証明出来るか?」


「数日前、この村を追放になった一体のミノタウルスがおる。恐らくは其奴の仕業だろう。」


「…良かろう。其奴を倒した事で被害が収まれば、我々帝国騎士団外地調査部は貴様らン=ンを信用し、以後この様な侵略行為は決して行わぬと約束しよう。場所を教えろ。」


そうしてグラハムはゴガンの道案内によって数日の探索の末、見事“居れぬ”のミノタウルスを発見する。


「けっへっへっへっへ…お前かぁ、ゴガン。美味そうな人間連れて何しに来たんだぁえ?」


人骨で作られたネックレスをぶら下げた、ゴガンの倍ほどの図体の黒いミノタウルスだった。


「ジュデンゴ…やっと見つけたぞ!」


「黒い毛皮、古木を棍棒の様に振り回し、首には人骨のネックレス…貴様が人間を襲っていると言うミノタウルスか。」


部族を追放されたミノタウルス、ジュデンゴは、その黄色がかった瞳で二人を睥睨する。


「で、おいらを見つけたら何だってんだ。まかさ倒しに来たとかほざくのか?ゴガンよぉ。

お前はおいらに、一度だって勝てた試しがなかったじゃねえかぇ?」


グラハムは、しゃくに触った様にぴしゃりと話す。


「勘違いをするな。貴様を倒すのはこの我だ。」


「ほぉおおおお…けへへ!中々いきがいい人間だなぁ。ちょうどいい、お前ら纏めておいらの夕飯になっちまえ!」


抜き取った巨木を軽々と振り回すジュデンゴは、先ずはゴガンへと矛先を向けた。


「とらよ!」


「ふん!」


ゴガンは手に持つ斧でそれを弾くと、すかさず斧を振りかぶった。


「…なぁんも変わってねえなぁ。お前の攻撃は、威力はあるが隙がでっかいんだ…何!?」


「《連斬(マルチスラッシュ)》!」


グラハムの剣が、ジュデンゴの腕に真っ直ぐな切り傷を何本も刻む。


「ぐごあああ!?人間風情がぁ!死ね…」


「とりゃあああああ!!!」


大地を揺らすほどの轟音が鳴り響き、ゴガンの大斧が見事ジュデンゴの脇腹に直撃する。


「ぐがあああああ!?」


のけぞったジュデンゴに向かってグラハムは飛び掛かり、


「《薪割り斬り》!」


ジュデンゴの脳天から股までを、一直線に切り裂く。

二つに別れた巨体が、それぞれ別々の方向に倒れていった。


「…あんた、グラハムとか言ったか。わしと戦う時、もしや手加減でもしてやした?」


「お前から明確な殺意が感じられなかった。それだけだ。」


その日を境にグラハムとゴガンは親睦を深めていき、グラハムが学校を卒業し騎士団を任せられる際に、彼はゴガンを真っ先に指名し幹部として迎え入れた。

とある村を山賊から救った際に付いてきたリカリアも伴い、3人は数多の死線を乗り越えて来た。


「だああああああ!!!」


グラハムの死力を尽くした剣舞が、ティーミスの脚によって蹴り弾かれていく。

ティーミスの脚にも切り傷は増えていくが、毎秒2の自動回復も相俟ってそこまでの痛手ではない。


「はあ…はあ…だあああ!」


「…《破腹》」


疲弊するグラハムの隙を突き、ティーミスの渾身の横蹴りが繰り出された。


「ごっは!?」


「《顎割》《腕折》《三半飛ばし》《二連脚》」


ティーミスの足技は、容赦無くグラハムの人体機能を破壊して行く。


「ぐ…まだ…ま…」


「さようなら聖騎士さん。…来世では、貴方が平和な人生を送れます様に。《頭割》。」


黒い稲妻を纏ったかかと落としが、グラハムの頭をヘルムごと砕く。

頭を無くした骸が、ティーミスの犯した罪が、虚しく草原に横たわる。


「…う…ううう!」


溢れ出す感情が抑え切れずにティーミスは両目を覆う。その血濡れた指の間からは、雨の日の窓で、雫が線を描き流れ落ちていく様に、ティーミスの感情が溢れていく。


自らを守るたび、生き残ろうと足掻くたび、ティーミスの罪は積み重なり折り重なっていく。

既に許容量を超えぺしゃんこになっているティーミスに、屍体の形をした罪がさらに重なりティーミスを押し潰していく。


ティーミスは、死後に待つであろう地獄が怖かった、いつも見ていると言う神様が怖かった。因果応報が、怖かった。


「神様…貴方は私を…嫌いですか…?」


涙ながらに天に問う。

答えは返って来ない。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい!ごめんなさい!ぐす…ひっぐ…ごめんなさい!ごめんなさい!…ごめん…なさい…」


運命という大海原の真ん中で、罪にしがみつく事でしか生きられないティーミス。

贖い方も知らずに、ただ顔を手で覆い震えながら呟く。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…!」


ティーミスの元に、のしりのしりと重たい足音が近づいて来る。

虚ろな目をして、修道服によく使われる布とまだ血の滴る肉のこべりついた大斧を持つゴガンが、仕事を終えて戻って来たのだ。


「…ご苦労…ひく…様でした…貴方…ぐすっ…の役目は…終わりです…」


ティーミスのその言葉にゴガンが敬礼で返す。

と次の瞬間にはゴガンはただの白い灰となり、朝日の登る空へと溶けていった。

残ったのは、血肉のこべりついた斧と、聖騎士の骸と、草原にぽつんと落ちる、かつてゴガンの物だった【奪取した命】。

そして、


ーーーーーーーーーー


【ミノタウルスファイター】【七等級聖騎士】【星飛ばしのシスター】を倒しました。

78310EXP+超格上ボーナス100000EXPを獲得しました。


超格上ボーナス

・「雷」ダンジョンキーを獲得しました。


おめでとうございます!

LVが36→45に上がりました。

スキルポイントを20獲得しました。


ーーーーーーーーーー


罪に濡れた経験値。

無機質で無意味な祝福。

ティーミスが生き残る為の力。罪を重ねる為の力。




ーーーーーーーーーー

◇ティーミス・エルゴ・ルミネア◇


・LV45


・HP 2103(+1821)


・攻撃力 921(+200)


・防御力 900(+200)


・俊敏性 923(+200)


・魅力 1000(+200)


・徴兵力 800/800


・怒り 0/10000


・血酒 3812/5000


次のレベルまであと

10291EXP

《強者への嫉妬》は戦闘終了と共に解除されてしまいます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 防衛の成功に伴って罪が重くなってくのきつい…
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