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馬の方が追い易い

クルオール王国の存亡を賭けた戦い。

少なくとも、その戦争に参加している全ての人間がそう思い込んでいる戦争が繰り広げられている戦場にて。

ネクストチルドレンが来てから、今までの防衛軍の劣勢が嘘の様に戦局は覆った。


「君!気を付けろ!その兵士は防御が…」


防衛軍の一人がレイピアを持ち守衛と対峙する少年に助言を齎そうとするが、その言葉は少年には届かない。

“先生”の言葉と仲間からの情報以外は、彼等にとっては言葉では無くただの音でしか無かった。

しかしだからと言って、それで何か不備が生じる事も無い。


「《刺突》。」


少年の持つ銀のレイピアが、守衛の盾と守衛本体を貫く。

本来ならば急所の筈の鳩尾を貫かれた守衛であったが、その身はまだ崩れない。

ティーミスの兵士の受けた傷の基準には急所か否かと言う概念が無く、要素として存在するのはどれだけの損傷度合いかのみだけである。

たった数センチの穴が空いた程度では、守衛が倒れる事は無い。

少年は表情一つ動かさずに、守衛に突き刺したままのレイピアに魔力を流し込む。


「《エクスプロードオーラ》。」


少年の持つレイピアが、少年とレイピア自身には一切の損傷を与えずに、守衛の身体全体を吹き飛ばせる規模の爆発を起こす。

守衛だった物が付近に飛散し、盾も鎧の欠片も内部の肉体と思しき部分の破片も、一様に半液へと戻って行く。

少年は達成感に浸るでも無く、直ぐさま次の行動に移る。


「対象の効率撃破方法を発見。対象には至近距離での爆発属性が有効か。」


すると、少年の元に別な仲間からの通信が届く。

後衛で情報収集に専念していた、司令官役の少女である。


「複数地点より観測された対象の効率的撃破方法を集約完了。雑兵は高防御力故、固定ダメージや防御力無視が有効か。」


レイピアの少年は一言応える。


「了解。」


その手際の良さや行動の効率性はさながら、完璧にプログラムされたアンドロイドのそれだった。


「最要注意個体が行動を開始。こちら、最重要個体への接近が可能です。」


少年は、遠隔通信によって後衛の司令官へと通達する。


「全前線兵の最重要個体への接近可能が確認され次第決戦へと突入。保身行動をとり次の指示を待て。」


「了解。」


自我もエゴも無い彼等は、機械の様に正確である。故に、変える事が出来なかった。

もしも彼等に何かを考える能力が残っていたのならば、本当の意味で自国を守れたのかも知れない。

ティーミスの蹂躙の手から、クルオールを守る事が出来たのかも知れない。


「総員。最重要個体への接近を開始。」


「了解。」


少年少女達は、最後の目標に狙いを定める。


“シュウウウウウ…”


守衛を失った滅戦士(シャーザー)とネクストチルドレンによる決戦が今、始まる。



◇◇◇



戦場で、無意味な決戦が始まろうとしている頃。

ティーミスは、王城の謁見の間に辿り着いていた。


「…やっぱり何処にも居ませんね…流石に逃げちゃいましたか。」


城中何処を探しても、国王らしき人物が見当たらない。

謁見の間が探していない最後の部屋だったが、此処にも国王は見当たらない。

普通ならばこれが当然である。


ティーミスは前日に、この王国に一通の直筆の手紙を送った。

内容としては国王を差し出すか戦争するかを選べと言う、宣戦布告兼殺害予告の様な物である。

結果この王国は戦争を選び、国王は何処かへ逃げ去ってしまったのである。


「…まあ、良いです。」


ティーミスはその手首から、赤黒色の半液を一滴床に垂らす。

床に垂れた半液からは赤い棺が一つ現れ、直ぐさま棺の蓋が勢い良く内部から弾き飛ばされ、二足歩行でピスティナが現れる。


「ぐるるがう。」


「ピスティナちゃん。その、逃げてしまった王様の手掛かりを、一緒に探してくれませんか?」


「がう。」


そう告げられるとピスティナは直ぐさま体勢を四足歩行に変え、しきりに玉座を、文字通り嗅ぎ回り始める。


「グラスローズの香りかぁぁあ。いかにも裕福な国王が好みそうな香水だなぁぁぁぁ。」


ピスティナは二足歩行に戻り、すんすんと鼻を鳴らしながら、何かを辿る様に歩き回り始める。

ティーミスも、ピスティナの後を追う。

二人はそのまま廊下を出て玉座の間がある最上階から降りて行き、1階にある広い馬車乗り場の様な場所にまで辿り着く。

灰色の石壁石床石天井で囲われ、床には藁が敷かれて、周囲には馬の世話小屋がいくつも並んでいた。


「国王の痕跡は此処で途絶えているぁぁあ。」


「そうですか…では次は、轍でも辿って…」


「いいいい馬の方が辿り易い。」


そう言うとピスティナは地面に手を付け四足歩行になり、出口へと向かって駆け出し始める。


「にゃ…!」


ティーミスは慌ててピスティナを追おうとしたが、ピスティナは瞬きの間に遥か遠くまで行ってしまう。


「…行きますか…」


ティーミスはアイテムボックスから仮面を一枚取り出し、自身の正面に放り投げる。

仮面の裏側から赤黒色の半液が溢れ出し、半液はナンディンの顔以外の残りの身体を形造る。

ティーミスはナンディンに跨り、進行方向を睨む。


「ふぅ…大丈夫です。きっと上手く行きます。」


ティーミスはナンディンの手綱を握り締める。

ナンディンの走行の継ぎ目から赤色の光が漏れ、ナンディンは唐突に加速する。

ナンディンの発車時にその衝撃によって馬車乗り場が嵐に遭ったかの様に破壊されたのだが、ティーミスがその事実を視認する事は無かった。



◇◇◇



「《コンビネイトナックル》。」


少年の燃える拳が、滅戦士の取り巻きの守衛を叩き壊す。


「突破完了。」


「了解。」


エンジンの付いた剣を振るう少女が、エンジンの駆動によって振動する刃を滅戦士に向ける。


“シュウウウ……”


滅戦士の振るった剣と少女の剣が、鋭い音をたてぶつかり合う。

鍔迫り合いでは滅戦士の方が勝ち、少女の剣が押されていく。

少女の剣のエンジンが苦しそうな音を立てるが、少女の表情はピクリとも揺らがない。


キリキリキリキリ…


四人の子供達が、駆動剣の少女と滅戦士の周囲を、ワイヤーを張り巡らせながら駆け回る。

ワイヤーは滅戦士を少女ごとぐるぐると拘束する。

ワイヤーが食い込んだ少女の皮膚からは血が滲むが、少女もそれを見た周囲の子供達も顔色一つ変えない。


不意に巨大な鉄同士が擦れ合う音が響き、少女と滅戦士の上に日陰が出来る。

絶障が少女と滅戦士を引き剝がさんと、その盾を持ち上げたのである。


「巨人。行動開始。対応求む。」


ワイヤーを持っていた少年が、襟の裏に向けてそう呟く。


「了解。《カスタムスペル・インパクティア》。」


戦場はおろか、平野全体を睥睨出来る程の高さの防壁の上で待機していた少年の持つランチャーが、白色のオーラを帯びる。

少年はその強化されたランチャーの照準を絶障に定め、再びミサイルを発射する。

ランチャーが帯びていた白色のオーラは、放たれたミサイル弾に移っていた。


ミサイル弾が、少女を盾で潰そうとしている絶障の盾に直撃する。

弾は爆発し、本来の爆発とは別に半透明の不自然な衝撃が放たれ絶障を仰け反らせた。


「対象、極暫し無力化。」


少年はランチャーに再び弾を込めながら、遠隔通話魔法陣の向こうの他の仲間達に告げる。


「了解。これより、最重要個体の抹殺計画最終段階開始。」


鍔迫り合いをしたまま拘束された一人と一体の前に、かえし付きの銀色の長槍を持った一人の少年が立つ。


「目標補足。《パワーチャージ》。」


少年は、駆動剣の少女の背中に狙いを定める。

この槍で少女と滅戦士を串刺しにし、ワイヤーが千切れた後も引き続き滅戦士の動きを制限する為である。

当然、これしきの事では滅戦士も少女も死にはしない。


“ギギギ……バチバチ…”


弦楽器の様な音をたてながら、二人を縛っていたワイヤーが滅戦士によって引き千切れ始める。

少年は槍を構え、姿勢を低くし、そして、


「駄目!」


先程まで何処に居たかも分からなかった少女の声が突然響く。

少年は、その“仲間の声”に従い動作を中断する。


「作戦を中断。」


少年は振り返り、背後で震えながら佇んでいる淡い金髪の少女の方を向く。


「中断理由を述べよ。」


少年は少女にそう告げるが、少女は何も答えない。


滅戦士の力に耐え切れず、とうとう全てのワイヤーが千切れてしまった。

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