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観客席付き屠殺場

「【呪具解放・リングフレイム】!」


魔器使いが竜を模した彫像を掲げそう叫ぶ。

竜の彫像からは、名前通りのリング状の青い炎が放たれる。


ボフ!ボフボフ!


“グルアアアアアアアア!”


岩竜の纏う岩石が赤熱する、

すかさず剣士が駆け寄り、赤熱した部位に向かって剣劇を繰り出す。


「【ウォータースラッシュ】!」


剣士の持つ水属性の剣が、赤熱した部位を瞬間的に冷却する。

パチパチと音を立てながら、岩の如き竜の装甲は脆く弾け、壊れ始める。


「うおらああああ!」


岩竜が怯んだ隙に、女戦士が大剣による一撃を叩き込む。

女戦士の大剣は、振り下ろされた直後にシュレアの糸によって加速し、岩竜の頭部をいとも容易く断ち割った。


“ガアアアアアア!”


二足状態だった岩竜の頭部と胸が地面に着く。

先程まで足に攻撃を加えさせていた剣士を下敷きにならない様に一度撤退させ、岩竜の首元まで直ちに移動させる。


「キュフフ♪貴方達、中々の手練れですわよね?操作も楽ですし、頼もしかったですわ♪」


と、女戦士がシュレアの言葉を否定する。


「頼もしかっただぁ!?岩の装甲は剥がれたかも知れないが、奴はまだ…」


「皆様、お疲れ様でしたの。」


「…あ?」


シュレアは宙で手を払うと、シュレアと三人を繋いでいた糸は全て千切れて消えて無くなる。

代わりに、シュレアの右手には赤くて細長いランスが形作られる。


「皆様、下がっていて下さいまし。」


剣士が、疑問を投げ掛ける。


「…どう言う事だ。」


「直ぐに分かりますわ。」


三人は、訳も分からずシュレアの後方まで移動する。


“グルルル…ガアアアアアア!!”


岩竜は四足状態のまま、シュレアを睨み付けている。

岩竜の周囲には、無数の岩が形成され始めている。


「《龍岩ズィ・ワイバーンロックアヴァランス》ですの?…キュフフ。まあ、発動してしまったら一体どうしましょう♪」


シュレアは左手を地面に付き、ランスを持った右手は横に伸ばし、ランスはシュレアから赤色の煙の様なオーラを吸収する。


「リングフレイムと同じですの。名前のまんま。《レッド・ピアス》。」


次の瞬間、シュレアは右手に構えた槍を一直線に放つ。

残像だけ見れば、短い光線でも放ったかの様だ。


“グル……”


シュレアの放った赤い槍撃が。岩竜の頭部から背までを貫く。

貫通した槍は、どこか遠くに飛んで行く前に赤い霧となって消え去る。

岩竜は力無く倒れ、二度と起き上がる事は無かった。


「装甲を破る手間が省けましたわ♪」


「……な……」


日を跨いでの戦闘を覚悟していた冒険者達は、不意に拍子抜けする。


「うわーお……」


魔器使いが、頭に穴を開けて死んでいるドラゴンを見て一言そう呟く。

空を飛ばない代わりに地上戦に特化した岩竜と呼ばれる種は、総じて高い体力に定評があるのだ。

そう、彼らは理解していたのである。


「キュフフ♪さあて、この子は一体何年物でしょうか♪」


状況を飲み込めていない三人を尻目に、シュレアは目を輝かせながら岩竜の骸の傍らまで移動する。

シュレアは岩竜の首に付いている岩盤を強引に引き剥がし、露わになった岩竜の本当の皮膚を、軽くしゃぶった後に牙を突き刺す。


「…吸血鬼の貴族か…」


剣士は、次第に萎え細っていく岩竜の死体を眺めながら、近くに居た女戦士にそう告げる。


「あいつは確か、人の多い場所に行きたがってたぜ。人間の大好きな物が欲しいとか何とかで…どう思う?」


「もしも奴が食欲を満たしたいだけなら、この中の二人を殺して残った一人を脅すとかすると思う。」


「…あいつに従うか?」


「そうするしか無い。…どっち道、俺達が逆らって良い相手でも無いだろうし。…何より、さっきまでのお前の態度にキレたりしなかったし、人間に対する敵対心自体は無いと思う。」


「…悪かったよ。さっきはあんな…」


「大丈夫さ。嫌った分だけ、仲良くなれば良い。あいつみたいにな。」


剣士は、興味津々な様子でシュレアに近付いていく魔器使いを指差す。


「ゴクリ…ゴクリ…」


(…どう言う事…?いくら岩竜でも、このサイズのわりには味に深みが無い…このドラゴン…この大きさで子供なんですの…?)


これ以上味わう価値は無いと判断し、シュレアは早々に吸血を切り上げる。


(若い血には興味無いんですの。…ちょっと不自然ではあったけど。)


「あ…あの!」


「キィ?」


魔器使いが、シュレアの事を真っ直ぐと見つめながら声を掛ける。


「い…今のあれ、何ですか!あの、ぎゅーんって奴!」


「キィ?…ああ、あれは【レッド・ピアス】って言うんですの。破甲した相手に対しての、超強力な特攻効果があるんですのよ。」


目を輝かせながら自分の話を聞く魔器使いを見て、シュレアは確信する。

カーディスガンドの言った通り、やはり人間は新鮮な情報が大好きだと。



〜〜〜



「……ケッホ……」


土の混じった咳をして、少女は“控室”の片隅で目を覚ます。

今の控室には少女以外は誰もおらず、代わりに此処では無い別な場所へと続く大門が空いている。

門の向こうからは、微かに声援の様な音が聞こえる。


「………」


少女はそのオンボロの身体で立ち上がり、門に向かってよろよろと歩いて行く。

門の向こうから放たれる、陽の光に希望を抱いて。


長い廊下をゆっくりと進んで行くと、少女の耳に届く声援の声は大きくなって行く。

それと同時に、それ以外の様々な音も聞こえる様になって来た。

金属同士がぶつかり合う音。無数の雄叫び。恐らく拡声器によって増幅された、何者かの声。


「……っ」


少女は廊下を抜け、陽の光が当たる場所に辿り着いた。

急な光によって少女の目はしばし眩むが、直ぐにそれも晴れる。


「………!」


噎せ返る血と汗の臭い。狂った様な歓声と雄叫び。一つのコロシアムの中。剣と盾を手に互いを斬り合う奴隷達。

少女は初めて、人間の悲鳴を聴き、血と臓物を見た。

少女は初めて、目の前での人間の死を見た。

少女は、嘔吐する。


「ああ?ガキかぁ?」


「………!」


少女の身の丈の倍ほどの大きさのサーベルを持った、筋骨隆々の大男が少女の存在を認知する。


「…………っ!」


この戦場では、戦う力の無い少女は絶対的な弱者。

逃げ惑うか、運命を受け入れるか、抗い足掻くか。


大男のサーベルが振り下ろされる。

少女はその威圧に尻餅を付くが、手元に落ちていた木盾を咄嗟に構え、振り下ろされたサーベルをガードする。


「っちぃ…見た目よりは力有る見てえだなぁ…この」


不意に、少女を切り飛ばさんとしていた大男の台詞がプツリと途切れる。

大男の首に横一直線の切れ目が入り、大男の首は胴体からずれ落ちる。


ゴロン…


先程まで少女に話しかけていた筈の男の首が、少女の足元に転がり落ちる。


「………!」


大男の胴体が、数刻遅れて倒れる。

大男の倒れた先には、細長い刀を持った青年が佇んでいた。


「お前、剣闘士希望には見えないな。…さしずめ、厄介払いに取り敢えず此処に売られたって感じか。」


「………」


少女は、目の前の現実にただただ怯える。

少女は今まで、採掘奴隷として過ごしてきた日々が人生の中での最悪だと思っていたが、目の前に広がるのは、それを軽く凌駕した破滅的な地獄である。


「…別に俺はお前を助けた訳じゃ無い。ただ隙を見せてるデカいやつが居たから、それを斬っただけだ。一応俺はお前を見逃しといてやるが、ちゃんと自分の身は自分で守れよ。どうせ、このコロシアムで生き残るのは一人だけだ。」


剣士はそれだけ告げると、再び大乱闘の中へと消えて行った。

何のスキルも経験も度胸も勇気も無い少女が、このコロシアムで生き残れる確率は皆無に等しい。

その事は、少女が最も良く理解する。


「………」


少女は大男の持っていたサーベルを持ち上げようとするが、重過ぎて持ち上がらない。

サーベルは諦め、次に付近に散乱している他の武器を観察する。


「………!」


少女が目を付けたのは、キャスターによって地面に付けたまま移動することが出来る大きな盾だった。

あれならば、もしかすれば生き残れはするかもしれない。

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