自由回答
「…《女帝の尋問》」
淫乱なピンク色に染まったティーミスの瞳が、真っ直ぐと小隊長を見つめる。
ティーミスは、胸焼けがするほどの嫌悪感を自分自身に抱く程の、汚い手を使い勝利した。
「…」
ティーミスはしばし、小隊長への尋問を躊躇う。
際限無く全ての情報を話させるこのスキル。
これは、正義を重んじる本来の自分を隠し、理屈と命令を遵守する指揮官として振舞ってきた小隊長の全てを、否定する事になる。
「あ…ああ…貴方は…何者だったのですか…?何処から来たんですか…?」
「俺は、アルリード。帝国騎士団、アトゥ支部に所属する、第五等級のデュエリスト。」
小隊長は、眠り人のうわ言のように朧げに、それでいて上官に報告をこなす様にはっきりと、ティーミスの尋問に答えていく。
「何故此処に?」
「収容所からの定時連絡が滞り、ウエからの命令で小隊を率い様子を見に来た。」
「…その、ウエとは何ですか?」
「アトゥ植民区領主、ビ…」
人命を言いかけた瞬間、アルリードは麻痺した様にピタリと口を止める。
「あ…あが…ごが…」
アルリードの皮膚が土塊の様な色に変色していき、ボロボロと崩れ始める。
「…呪い!?」
ティーミスは咄嗟に、アルリードの絶命の前に命を抜き取る。
アルリードの身体は、半分ほどが茶色くボロボロと崩れ落ちたが、残りは白い灰となってそのまま天へと昇っていく。
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【第五等級帝国騎士団】を8人倒し、全滅させました。
19341EXP+全滅ボーナス20000EXPを獲得しました。
全滅ボーナス
・「毒」ダンジョンキーを獲得しました。
おめでとうございます。LVが16→31に上がりました。
スキルポイントを34獲得しました。
次のレベルまであと213EXP
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(アトゥ植民区の領主は、確か私が殺した、ルーベンと言う名前の者だった筈ですが…)
小隊長が最期に言いかけたその名前は、聞き違えなどあり得ないほどに、ルーベンとは全く違う頭文字だ。
もしティーミスに次もこの様な機会があった時は、質問を工夫しなければならない。
(直接知りたい情報を聞き出すのでは無く、少しづつ周辺情報から割っていく方法を取った方が良さそうですね。)
と次の瞬間、ティーミスの首が、撥ね飛ばされた。
「…!?」
ティーミスがその死を迎える間際に見たのは、月と太陽を模した、金色の紋章。
帝国騎士の身に付ける、赤いマントのはためく姿。
カサリと虚しい音を立て、ティーミスの首が転げ落ちる。
ティーミスの胴体もその場に倒れ、しばしの血しぶきを放ったのちその生を止める。
「…ふん、我一人で十分だったな。」
ティーミスの亡骸を睥睨する様に、白銀の鎧に身を包んだ一人の聖騎士が立っている。
その後を追う様に、漆黒の巨大な盾とランスを持つミノタウルスの大男と、聖樹の古木より切り出した大杖を持つ女性も、その聖騎士の側に立つ。
「…しかしこれは、随分と酷い有様でございますね。」
司祭の女性が、周囲の様子を見回しながら呟く。
アトゥ植民区の外れのささやかな森とも言えたその場所は、戸建ての家一軒分程の面積を残し焼け野原と変わっていた。
所々の炭木の下から、まだ微かに煙が上がっている。
聖騎士が、ティーミスの亡骸を見下ろしながら首を傾げる。
「そう言えば、この少女は何者だったんだ?どうやってアトゥ支部の小隊一つ退けたんだ?
それに、見るからに高級そうな魔法剣まで…」
聖騎士は、薪が切れた暖炉の様にプスプスと音を立てるティーミスの魔剣を持ち上げる。
「2年前、アトゥを治めてたっちゅう貴族家分かります?
そん中に、あー、ルミネア家っちゅう頑固なところがありましてね、金積まれても、脅されても、一向に領土を渡そうとしなかったらしいんすわ。」
ミノタウルスの戦士が、古い記憶を掘り出しては口まで運ぶといった様子で、聖騎士に説明してみせる。
「その話なら我も知っている。確か当主と夫人共々、帝国と契約している暗殺者ギルドからの刺客によって始末されたのだったな。」
「そうですそうです。…で、多分ですがこいつぁそこの子ですわ。
他の貴族の脅し半分見せしめとして、まあこっぴどく痛めつけられてたらしいっすよ。
わしもたまたま一回見た覚えがあるんですが、確かその時は、体にぎょーさん釘を打ち付けた状態で床に括り付けて、部屋にネズミをギョーさん放つとかだった気がしやす。
とっくにくたばってる思ったんですが、この様子じゃ耐えかねて脱獄してきたみたいですね。」
「そうか。」
聖騎士は、ミノタウルスの長々とした説明を一言で返すと、ティーミスの魔剣を持ったまま、踵を返してアトゥ植民区に戻ろうとする。
「待ってください。せめて、この子のためにお祈りを。」
司祭の女性がそれを引き止め、聖騎士は呆れながらも待ってやることにする。
「…神の傍へ、安らかに…ん?」
司祭は、ふと眉をひそめる。
(変です。魂の昇華が起こらないなんて。)
と、司祭の目の前でティーミスの身体は青い炎に包まれる。
付近に転がっていた頭も。
「おあ!?」
聖騎士の持っていたティーミスの魔剣も同様に。
ティーミスのパーツ達は全て完全に青い炎へと変化し、ツルツルと宙を滑るように移動し、ある一点の地面に集まる。
炎は一瞬凝縮したかの様に振る舞うと、ティーミスの足先から頭のてっぺんまでを瞬時に出現させる。
「!?お前、何をした!」
聖騎士が怒号を放つ。
「私じゃ無いですよ!あれは多分、自動蘇生です!」
「何!?」
最も一般的な、死亡時の自動蘇生魔法は、儀式によって心臓の上に烙印を刻むと言う物。
最低でも第七等級のプリーストが3人は必要で、最速でも2日はかかる大掛かりな儀式。戦地へと向かう一騎当千の英雄にでも無い限りは、使われることはまず無い。
更に、胸に巻きつく細身のベルトを除き上半身を全て露わにしているティーミスの身体には、それらしき物は確かに無かった。
「…私なんかの為にお祈りしてくれて、ありがとうございます。司祭さん。…とっても、暖かかったです。」
ティーミスの声は、その年相応よりも若干高く、あどけない可愛らしい声。
ティーミスの話すその整った敬語は、礼儀正しい貴族令嬢としてのティーミスの面影を色濃く匂わせていた。
と、司祭への礼を良い、強者の余裕を醸し出すティーミスだが、
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《強者への嫉妬》が発動します。
体力以外の全能力値が+9950(MAX)されます。
注意!
あなたより非常に格上の相手です!
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(逃げちゃダメです…逃げちゃダメです…!うう…!)
内心は、非常に怯え焦っていた。
いくら【奪取した命】の完全蘇生と言えど、あくまでも物理的な肉体の再構成。先程の戦闘で得た痛みの記憶、心と集中力の疲弊までは修復されない。
おまけに今は残機がゼロ。相手の実力を見るに、顎腕での威嚇も効果は無いだろう。
“死に際で手当たり次第にスキル習得しまくる作戦”の暇も与えては貰えそうになく、当然逃げ切れるとも思えない。
ティーミスが一歩でも動けば、その瞬間に聖騎士の剣がティーミスの首を跳ね飛ばすだろう。
詰みだ。もう手段は無い。
(…どんな汚い手でも良い。…お願い…思いついて下さい!私!…あ。)
否、手段はあった。
たった一つ、文字通り、命の賭け。
「…私を見逃しては、くれませんか?」
ティーミスは問い掛ける。
「ほざけ。」
聖騎士が質問をへし折る。
ティーミスは、質問を変える。
「…聖騎士様。あなたは私を、どう思いますか?」
「排除すべき対象。救援要請のターゲット。ただそれだけだ。」
「………」
「我の答えが納得行かないか?貴様は我に、憐れんでくれとでも乞うのか?
望み通りの生き方が出来る者など、ほんの一握りだ。いちいち貴様らの愚痴に付き合っていられるほど、我も暇では無い。
…貴様は確かに不幸なのかもしれない。だが、それを理由に貴様の立場が変わることは無い。」
「…そうですよね。…貴方の答えが聞けて、良かったです。」
ティーミスは覚悟を決めた様に笑うと、そのまま左手を握り、右手に魔剣を構えた。
「すー…いやあああああ!」
ティーミスはあどけない雄叫びを上げながら、聖騎士の方に駆けていく。
「は、剣術勝負をする気か?この我と!」
ティーミスの魔剣と聖騎士の聖剣がぶつかり合うが、魔剣の黒い炎によって聖騎士の剣が溶け始める。
「属性武器!?」
初見殺しで怯ませ、そして。
「突き出して、反時計回りに回す!」
ティーミスは光の中に飛び込むと、そのまま姿を消す。
少なくとも、聖騎士の目にはそう映った。
「…消えた?ステルス魔法か?」
ミノタウルスの戦士が、鼻を鳴らしながら否定する。
「…にゃ、多分だが瞬間転移の類でしょう。かなり遠くまで逃げたらしく、臭いがパッタリでさぁ。
…乾いた人血人肉の匂い、相当きつかったはずなのにパッタリでさぁ。」
「ふん。してやられたな。」
聖騎士は融解した剣をその場に投げ捨てると、ミノタウルスの戦士と司祭に指でくいと合図する。
撤退のサインだった。
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『色欲相』
《女帝の尋問》
【隷属】状態の対象から、さまざまな情報を聞き出すことが出来ます。
魔物の住処やダンジョンの位置などを聞き出せた場合、【印付きの地図】を獲得できます。
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