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ハッピーバースデー

しんどさ的な意味で、今回の内容は少々キツイ物となっております。

苦手な方はご注意下さい。飛ばし読み可です。

部屋の中心には白いベッドがあり、ベッドをカーテンが囲える様に天井にはカーテンレールが据え付けられている。

ベッドの上部や傍らには酸素吸入器や何かしらの医療機材が設置されているが、どれ一つとして電源が入っている物は無い。


「…?」


ティーミスは、何処かの病室に辿り着いた。

それもティーミスの世界の病室では無く、より進んだ文明の、より機械的な病室である。


「此処が…ダンジョン?」


ティーミスは、病室の窓から外の景色を眺めてみる。

窓の外には団地の様な場所が広がっており、遠くに浮かぶ橙色の夕日が照らしている。

どうやら此処はかなりの高層階らしい。


「うーん…」


窓から飛び出してみようか。

それとも、これからこの病室で何かが起こるのか。

ティーミスは脳裏でいくつもの仮説を立てながら、ふと入口の方へと振り返ってみる。

病室の扉が、世界を繋ぐ扉では無く普通の病室の扉に戻っている。

扉の先には、この病院の廊下が見える。


「…行きましょう。」


ティーミスは病室を出る。

病室の外は渡り廊下になっていて、片方の壁は窓が並び、もう片方の壁にはこの病室と同じような扉がずらりと続いている。


「…不気味ですね…」


建物が大きければ大きい程、静けさは恐ろしさとなって行く。

ティーミスは恐怖に背を突かれながら、渡り廊下をトボトボと歩いて行く。


「…?」


ティーミスは、階段の前に辿り着く。

階段は上と下に続いており、付近の壁には病院の地図がある。

ティーミスは地図を見てみるが、ティーミスの知らない文字で書かれている為、大まかな部屋同士の繋がりは理解出来ても、それが何の部屋かまでは分からない。


「…“診療室”…?」


否。

ティーミスは、その文字が読めた。


「“リハビリテーションルーム”……“手術室”…“りねん室”…」


ティーミスは、地図に刻まれた平仮名、片仮名、漢字を読み進めて行く。

そうしてティーミスは地図の前に跪き、えずき始める。


「頭が…あ…」


ティーミスは地図の前に、黒いタール状の物を嘔吐する。


「私は……うぐ……」


ティーミスの背後に、唐突にウィンドウが出現する。

いつもの青いウィンドウでは無く、何かを警告する様な赤いウィンドウである。


ーーーーーーーーーー


エラー

不明な同調を検出しました


ーーーーーーーーーー


ティーミスは何かに駆り立てられる様に立ち上がり、階段を通り過ぎ、その階のある場所を目指す。


「407…408…」


ティーミスは、不意にピタリと立ち止まる。


「…409…」


ーーーーーーーーーー


エラー

ダンジョンが不明な同調を発現


ーーーーーーーーーー


ティーミスは、病室409号室の前に立つ。

ティーミスは409号室の扉に手を掛け、力を込める。

扉はビクともしない、訳では無い。

扉はほんの僅かに開き掛けたかと思えば、唐突に何かの力で閉じられる。


ーーーーーーーーーー


エラー

同調に伴う予期せぬ不具合の発生の恐れ


ーーーーーーーーーー


「此処…にぃ!」


ティーミスの手首から、僅かに赤黒い半液が滲み出てくる。

半液はティーミスの腕に纏わり付き、その筋力を増強して行く。

次第にティーミスの力が、扉の持つ抵抗力を上回って行く。

そうしてティーミスは、その病室の扉を開け放つ。


“バチチ…”


ティーミスによって[レヴィアタン国立病院]は別な場所に変わり、病院はティーミスをかつての時間の中に取り込んだ。



〜〜〜



「…ん?」


ティーミスの世界から遥か遠く離れた場所。

ジッドは深夜のコンビニの前で、不可解な通知を受け取る。

この場合、大まかな可能性は二つだ。


「はぁ…どーせまたチテンミが…」


ジッドは端末を持ち上げ、ふと眉を潜める。

発信元はチテンミでは無く、ティーミスの『Lpnt』からの自動通知だった。


(…何事だ?)


今までこんな事は一度も無かった。

『Lpnt』の仕様上、相当な事が無い限り不具合など有り得ないのである。


(…どうしてダンジョンの方までエラー吐いてんだ…?何かがおかしい…)


ジッドは端末を少し弄ると、耳元に当てる。


「おいチテンミ。ちょっと…あれだ、異常事態発生だ。」


『どうしたんですか〜?おでんでもこぼしちゃいましたか〜?』


「ワンチャンその程度の事かも知れねえし、ワンチャンそれ以上かも知れねえ。現状ではまだ、どう転ぶが分かんねえ。」


通話の向こうのチテンミは、しばしの間沈黙する。

ジッドの口から、真面目なトーンの“分かんねえ”が出てくる事など今まで殆ど無かったのである。


『…分かりました〜直ぐ帰って来て下さいね〜』


「ああ。分かってる。」


ジッドはチテンミとの通話を済ませると、再び端末に目を落とす。

次々と巻き起こる対応不可能なエラー達が、助けを求めてジッドの端末に通知を送り続けている。

ジッドはその通知を随時確認し続けるが、速度が追い付かない。


(…クソ…こりゃあんま時間無さそうだ…)


ジッドはそう呟き自転車に跨り、我が家を目指し爆速でペダルをこぎ始めた。



〜〜〜



5月◼️日。


「誕生日おめでとう!照廻(てるみ)!」


家族に囲まれながら、少女は病室のベッドの上で誕生日を祝われていた。

少女の机の上には、火の付いた蝋燭に見立てられた菓子が11本突き刺さっている。

少女は、自身の口元から酸素マスクを取り外す。


「皆…ありがとう。」


長い黒髪が美しい少女は、家族に感謝の意を述べる。

その顔立ちは僅かに痩せてはいるが、それでも眩しい程に儚げで愛らしい。

彼女の名前は、内崎 照廻。

成山県さくら市にある病院に入院している、14歳の普通の少女である。


「ねえねえおねーちゃん。誕生日プレゼント、何が良い?」


照廻は、弟にそう問われる。


「プレゼント…?じゃあ、皆のお話を聞きたいな。」


と、照廻は姉に額を小突かれる。


「またまた謙遜しちゃってさぁ。本当に何だって買ってやるよ?あたし、バイト代たんまりあるし。」


「ううん。私は本当に、皆のお話を聞きたいの。心の底から。」


「はぁ全く照廻ってやつは…退院したら、嫌ってほど何でも買ってやるから覚悟しとけよ?」


「ありがとう。お姉ちゃん。」


照廻の要望通り、照廻は朝から晩まで、沢山の語らいを聞く事が出来た。

照廻は病院のベッドの上で、家族の見た世界を共に共有したのである。

照廻は病院のベッドの上で積み木を高く積み上げる事に成功し、彼氏と共に水族館に行き、スーパーの小銭がピッタリと合い、新しく買ったルアーで大物を釣り上げたのだ。

照廻自身はどれ一つとして自身の身では行なって居なかったが、その全ての時間を共有出来たのである。

結局照廻の誕生会が終わったのは、面会時間を二時間程超過した後の事だった。


「じゃあね照廻。明日も会いに来るからね。」


「じゃあね。お母さん。…元気でね。」


「?」


「な…何でも無いよ!」


母が去り、病室は照廻一人だけになる。

否、一人では無い。


「…お願いを聞いてくれて、ありがとうね。」


照廻の枕元には、黒い靄の塊が佇んで居る。


“…本当に良かったのか?来世の幸運の殆どを引き換えに、今日一日を生きるなんて…”


「うん。後悔は無いよ。」


“…そうか。まあ、良い。…幸い、君は沢山の人々から愛されている。きっと再来世以降は、素晴らしい輪廻となるだろう。”


「関係無いよ。どうせもう、この事を思い出す日なんて無いんだし。」


“…一概には言えんな。最後に何か、言っておきたい事はあるか?”


「無いよ。私はもう、満足したから。」


“…そうか。”


黒い塊は一言そう言うと、蜃気楼の様にすうと消えて無くなる。

照廻は不意に眠気に襲われ、そっと瞳を閉じる。

画して、照廻のその短いながらも充実した生は完結を迎え、


「…がは!?」


ティーミスとして、寄り戻しの来世を送る事になった。


「はぁ…はぁ…い…今のが…まさか…」


今はただティーミスは、ベッドからガバリと起き上がった姿勢のまま、ただただ冷や汗を流し続けるだけであった。

最終回にはまだ遠いです。

ご安心(?)下さい。

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