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各地点での命運改変

とあるダンジョンの最深部。


「今だ!ファンソン!」


柱に刻まれた刻印から放たれる、緑色の魔光に照らされた大部屋の中。

ダンに打ち上げられたファンソンが、ダンとリジカの決死の猛攻の末に露わになったエメラルドゴーレムの核に飛び込む。


「うおおおおおおおお!」


エメラルドゴーレムを動かしていた巨大なエメラルドの塊に、ファンソンの剣が突き刺さる。

エメラルドの塊には光り輝く亀裂が入り、軽い衝撃波と共に弾け飛ぶ。


“オオオ…オオ…ギィィィ…”


動力源を失ったエメラルドゴーレムはそのまま仰向けに倒れ込み、二度と起き上がる事は無かった。


「はあ…はあ…はあ…」


エメラルドゴーレムの背後にあった扉が、まるで時の経過を取り戻したかの様に高速で風化を始め、やがて消え去る。

宝物室兼出口が出現したのだ。


「…終わったの…?」


エーミが震える声で、エメラルドゴーレムの上に立つファンソンに問い掛ける。


「ああ。」


ファンソンは、エメラルドゴーレムの角のあった場所に埋まっていたネックレスを引き抜きながら一言。


「攻略完了だ!」


「…はふぅ…」


その言葉を聞いた瞬間、エーミは昏倒する。

魔法の使い過ぎだ。


「っと。危ない。」


地面に打ちそうになったエーミの頭を、ダンの大きな掌が受け止める。

ダンはそのまま、気を失っているエーミを抱え上げる。


「早く行こうぜ。さあて、今日は宴だ。」


リジカはファンソンの方に歩きながら、右手をくいくいと動かし二人を急かす。


「姉御!あんまり無理しないで下さい!まだ…」


まだ、肩の切断面の血が止まっていないのだから。


「何だよ。あたしよりもエーミの心配してやれよ。腕の一本なんて、安物のアーティファクトでも代用できるんだしさ。」


画して何の変哲も無い普通のパーティは、冒険者協会始まって以来の、三つ上のレベルのダンジョンをクリアした最初のパーティとなった。

咎人に運命が書き換えられた結果、彼らは挑戦の勇気を得て栄光を手にした。



〜〜〜



「…何だと…?」


斥候からの報告書を握り締めながら、ギズルは驚愕に震えていた。

予想される異常事態を超える異常事態が、かの戦争で起こったのである。


「…これは確かか。」


「は。ニルヴァネ連邦がセガネ本土への侵攻を始めた直後、咎人が突如として出現。ニルヴァネの軍勢への攻撃を開始。凡そ15分の内にニルヴァネ軍は壊滅。撤退した後、咎人は行方不明となりました。」


「…奴は、約束を果たしたと言う訳か…」


セガネの王が唆された事は知っていた。

利口なセガネの王を、ティーミスが口説いた方法も大まか予想が付く。

それなのにギズルは、ティーミスが軍事介入する可能性を少しも考慮していなかったのだ。

ティーミスが本当に約束を果たす可能性を、少しも考慮していなかったのだ。


「…だああああああ!」


ギズルはその拳を、思い切り机の上に叩き付ける。

今回はギズルの、強者に対する偏見が原因の完全なる失策だ。


「陛下!どうか落ち着いて…」


「落ち着いて居られるか!咎人は…ティーミスは!ケーリレンデ帝国から国を一つ奪い取ったのだぞ!」


帝国の傘下となる国に、帝国は高い代償を求める。そうして帝国は、隣国の脅威からその国をかくまい守る。

対してティーミスは一切の対価を要求する事無く、ただ帝国との関わりを断つだけでその国に帝国と同等の加護を与える。

この事実が世間に露見すれば、果たして何が起こりえようか。


「…おのれ…おのれおのれおのれ!」


確かに帝国の国力は強大だが、傘下の国からの徴税の一切を断てる程の余裕は無い。

今現在ギズルの管轄内の資源や国力は、ジョックドゥーム雪原の調査と雪原地帯の拡大抑制に吸い取られている状態なのだ。

属国の囲い込みに軍を使えばジョックドゥームの吹雪が帝国を萎え細らせ、吹雪を抑えていれば、属国にかまけている余裕は無くなる。

周囲から少しづつ弱らせていくその様は、いつかのアトゥ入手の為の政策を彷彿とさせた。


「陛下。他の皇子達や現皇帝陛下も、既に少しづつ咎人の噂は耳にしている様で御座います。

咎人に関する経緯と情報を全て最高監督委員会に報告し、帝国全体で掛かれば如何でしょうか。」


「そんな事はもうとうの昔に何度もやったさ!…ただ奴らは皆、次期皇帝選挙の事しか頭に無いのだ。」


周囲には隠蔽して後から事に当たるでは遅過ぎるのだ。

今、何とかしなければいけないと言うのに。


咎人に運命を書き換えられた結果、帝国の未来は先の見えぬ靄の中に沈んだ。



〜〜〜



トゥメイエの街にある、とある酒場にて。

沢山の人々の手拍子と共に、少女が一人舞台で舞っている。

キエラだ。


「良いぞキエラー!」


「きゃー!こっち見てー!」


此処でのキエラの名声は膨れ上がる一方で、最初は見よう見まねをセンスでカバーしていただけのキエラの踊りの技能も、だんだんと成長している。

プログラムに書かれた5曲全てと追加でアンコールを2回ほど踊り、キエラの公演はやっと終幕を迎える。


「み…皆様!今日も最後まで見て頂きありがとうございました!ではまた、近いうちに会いましょう!さようなら!」


キエラは、だんだんと定型文として定着してきた終わりの挨拶を観客に行うと、疲労でよたついた足取りで舞台袖へとはけて行く。


“キエラ様。お疲れさ…”


キエラは、リテの目の前で倒れる。


「はぁ…全身が痛いでございます…」


リテは胴体からいくつかの細い蔦を伸ばすと、その蔦でキエラを持ち上げ自身の背中に寝かせる。

キエラを乗せたリテは、そのまま自分達の荷物などが置いてある舞台裏へと向かう。

リテとキエラを出迎えたのは、この酒場のオーナーだった。


「いやーキエラちゃん!今日も良かったよ!お陰でうちの店は大繁盛だ!酒も飛ぶ様に売れて…」


リテは、蔦の一本を木面に当てる。

静かに、のジェスチャーだ。


「…おや、失礼致しました。こちら、今回の公演量でございます。」


オーナーはリテの前に、銀貨で満たされた麻袋を差し出す。

リテはそれを、首元から生やした蔦で受け取る。


“ありがとうござます。…ん?いつもより少し重い気がしますが…”


「キエラちゃんにはいつも助けて貰っているからね。たまには、美味しい料理でも食べて欲しくてね。ほんの気持ちさ。」


“そうですか。…重ね重ね、ありがとうござます。”


「私はそろそろ店に戻らなければ。それじゃあまたね。キエラちゃんとカトプレパス殿。」


オーナーはそう言い残し、比較的静かな楽屋から店の喧騒の中へと溶けて行った。

ただリテは直ぐには帰らず、30分程をその楽屋で過ごしていた。


「…うーん…」


“起きましたか?キエラさん。”


「…は、わたくし、いつの間に寝て…」


キエラは少し気恥かしそうに、リテの背の上から降りる。


「…踊り子の衣装はどうしてこんなに布地が少ないのか、やっと分かってきた気がしますわ。」


キエラは衣装の上からそのまま上着を羽織りながら、感慨深そうに呟く。


“と言うと?”


「あの熱気の中で、普通の格好で動き回れる気がしないんですの。」


“そうですか?私はあまり…あ、いえ、何でもありません。”


リテの居た森は、夏場の気温が50度を軽く超える。

故にリテは、暑さに関しては鈍感なのであった。


「まあとにかく、今日は早く帰りましょう。明日も“夜早い”んですから。」


ティーミスに運命を書き換えられた結果、キエラの人生は変わった。

それがキエラにとって良い事なのか悪い事なのか、今となっては誰にも解らなかった。

それでも少なくとも、今のキエラは幸せである。

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