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姑息な悪党

ティーミスは、顎腕が頭上から兵士達を睥睨する格好で構える。

生物としての最も原始的な威嚇方法、『体を大きく見せる』だ。


「おい、ありゃ何のスキルだ!」


「知らねえよ…見た事ねえよ!」


案の定兵士達は怯えるが、実際は全員で掛かればティーミスはそこで終わりだ。

ティーミスの目的はただ一つ。戦闘が始まる前に出来るだけ数を減らす。

逃げ出させるでも、隷属状態にするでも、何でも良い。


「お前、直ちに隊長方に連絡を頼む!」


「し…しかし…」


「良いから!此処は俺たちに任せろ。さあ。」


「は…はい!必ず生きて帰って下さい!隊長!」


フラグを乱建築しつつ女兵士が離脱。残りは9人。


「…何で俺じゃなくてあいつなんですか!隊長!」


「それは、彼女が一番機動力が…」


「そんな御託は聞きたくありません!どうせ隊長はあいつに情を移して逃したんでしょう!」


「違う!頼むから話を…」


「もう沢山だ!お前の為に命なんて掛けられるか!付き合ってられるか!」


「待て!こら!戻って来い!…ふん。騎士の風上にも置けぬ臆病者が。」


兵士が1人、仲違いして敗走。

なんと、勝手に目標ラインの8人にまで到達した。


「何故私は、幽閉されていたのでしょうか…」


ティーミスは、秩序の象徴たる帝国兵に問い掛ける。


「お前が、そう世界から定められたからだ。」


「…!なら、貴方がもし…」


「…アトゥの貴族家に生まれ、身に覚えの無い罪によって幽閉されたらどうするか?…多分だが、それだけの力があればお前と同じ事をしたかもな。」


「……随分と、ナチュラルですね。」


「だが、俺が受けた定めは違う。帝国の秩序を守る刃として、盾として、悪しき罪人を裁く為に此処に立つ。

あるのは事実だけだ。ifもしもじゃない。」


また一つ、ティーミスを支えていた白い心がへし折られる。

ティーミスがかつて憧れた騎士。騎士の元に嫁ぐ事を夢見たティーミス。

それは秩序の騎士と言う存在が、正義の体現の様な、心の芯から良心で輝くような、そんな存在だと思っていたからだ。

もしかしたらティーミスは、この騎士が自分では無く自分の運命を呪ってくれる物かもと期待していたのかも知れない。ティーミス本質を見てくれるかもしれないと、期待していたのかもしれない。


だがしかし、現実は違った。

少なくとも、目の前の彼は違った。ただ運命という大海原を、帆とオールを授かり渡りきり、夢に到達しただけの一人の人間に過ぎなかった。

ティーミスの場合は身一つで運命に放り出され、大波嵐で溺れ死ぬ寸前にどこからか現れた流木にでもしがみついた状態かも知れない。いつか溺れ死ぬかも知れないし、どこにたどり着くかも分からない。


「……」


正義に憧れていた。真っ当に生きようと思っていた。花の一輪すら踏まなかった。

言いつけもいつも守った。親からの召使いからのも、厳しい教育係からのも、一つとして破らなかった。

いつも心には正義感を抱いていた。

だが世界がティーミスに与えたのは、血と苦痛と孤独に溢れた暗い道。忌み嫌われる邪悪な存在となる道。


ガリリと、ティーミスの歯が擦れる。


「てやああああああ!」


先ずは槍と剣を持った騎士が二人、ティーミスに近接戦を仕掛ける。

顎腕と左手でダメージを最小限に抑えつつ、ジャブの如く《《復讐の始まり(リベンジトリガー)》を連発し牽制する。

だがこれは、仮に怒りが100溜まった状態で放ち、100の追加攻撃力を経ても、次に0の状態で打った場合は、追加ダメージも追加攻撃力も0になる。累積では無くその都度上書きされる為、効率的とは言いがたい戦法だ。

近接戦が続く限りはまともな数字の追加効果を得られる為、これも自分を強く見せるための作戦だった。


「任せろ!はあ!」


近接部隊の後方から飛来する矢を避ける為に、ティーミスは後退し距離を取る。

後方に弓兵三人。さらにその後ろに、指揮官と魔道士、それにヒーラー。

先ずは弓兵を何とかしなければ、一方的に攻撃されるばかりだ。


顎腕を構え、特大の瘴気のブレスを貯める。


「…何か来るぞ!」


「させるかあああ!!!《大地穿つ槍(グランドスピア)》あああああ!!!」


岩を纏った槍の重撃によって、ティーミスの顎腕が大きく逸らされる。

数秒発射が遅れ、その間に弓兵達はバラバラに隠れて行く。

天に赤黒い瘴気のブレスが放たれ、空は黒く染まり、赤い光の粒子が小雨の様にその場に降り始める。


「何だありゃ…闇属性か…?」


「いや、奴特有の属性だろう。注意しろ、まだ何か隠しているかも知れない。」


これも、ティーミスが憤怒の城跡攻略時に偶然思い付いた技だ。

まさかこんな形で再現することになるとは、ティーミス自身も思っては居なかった。


「…ゲホッゲホッ!くそ…肺が焼けそうだ…!」


少しづつ体力が削られていく系ステージと聞けば、誰しも嫌悪感を抱くだろう。

ティーミスも、あのダンジョンの環境に対しての肺のあたりがえぐられる様な嫌悪感を経験し、それを再現して見せたのだ。


「ゲホッゲホッ…早いとこ蹴りつけるぞ!《真の剣(ホーリーブレード)》!!!」


剣士の斬撃がティーミスの顎腕に三度切り込み、深々と三本の傷を刻んだ。


「うえ、粘土みたいで切り心地気持ち悪いな…」


顎腕に刻まれた溝は、ボタボタと赤黒い液体を垂らしながら次第に広がっていきそして


「《招集(テイク)・【歩兵(ポーン)】》」


ーーーーーーーーーー


徴兵力 150/150→120/150


ーーーーーーーーーー


顎腕の傷口から、不愉快な音と共に三体の剣士が生まれ出てくる。

ティーミスは、もう自分の罪を隠すような事はしない。


「その兵士は…まさか!」


「お前かあああああああ!!!」


実際、今歩兵を呼び出す旨味もあまりない。

これは単に、ティーミスの意思表示だ。


歩兵は真っ先に、中距離位置を陣取っている敵の弓兵達を狙い突き進む。

前衛2人がそれを止めに入るが、ティーミスがそれを許さない。


「ふん、所詮は…」


次の瞬間、歩兵3体の首は、閃く斬撃で撥ねられる。


「毛の生えたギルティナイトか。」


「ごっほ!?」


代償を受け吐血するティーミスが見たものは、手に持つレイピアを薙ぎ払った直後の体勢の、この小隊の隊長だった。


「死ね!領主殺しがあああああ!!!《電雷撃(ライトニングアクター)》!!!」


魔道士が杖を振り上げると、ねじれた古木の様な杖の先端の黄色い魔石から、一筋の稲光が放たれる。

前衛2人は慌てた様子で避け、稲光はティーミスの胴体を直撃する。


「ふ!…ぎい!?」


ティーミスの手足が震えて、よたよたとその場に跪く。

エクストラHPが破られ、胸から腹にかけて痛々しい火傷を負い、さらに感電した。


(…死ぬ…このままじゃ…!

…………

…でも…今此処で殺されれば、私は悪役のまま…正義の騎士団と戦い見事討ち取られた悪役に…なれるのかな…?)


全てを手放せと言う、死神の甘美な誘いがティーミスを襲う。

奪取した命は二つあるが、この調子では何度起き上がったところで同じだろう。先程伝令が放たれていたはずだ。此処からさらに援軍が来れば、もはやティーミスに勝ち目は無いだろう。

そもそも、明らかに格上の騎士の小隊に戦いを挑むなど愚行だったのだ。


楽になれ。家族が待ってる。お前はもう十分に戦った。そんな声が、ティーミスに囁いた。

血で赤く染まる視界を、ティーミスは、そっと閉じた。














































(…嫌…)


本当に全てを捨てるのか?

過去から決別し、心に誓った覚悟も?

奇妙な巡り合わせで授かった力も?

犯した罪から、目を背けたまま?


(…私は…悪者…私は…悪者…!)


多対一の絶望的な状況下の中でも、なおも威厳を保ち絶対的な力を振るうのが悪役と言うものだ。


(…生き残る…生きてやる…!)


かつては善に染まりきっていたティーミスだ。

悪に染まる事だって、きっと可能なはず。


「ふん。まだ息があったか。仕方ない、最期くらいは楽に逝かせてやろう。」


(死にたく無い…いや、私は此処では死なない…!どんな手でも良い…考えろ…考えろ…!)


瘴気の雲が晴れる。

ティーミスの右手の指が、麻痺にしては少し大振りにピクリピクリと動く。


ーーーーーーーーーー


【奪取した命】を一括分解しますか?

(この場合サブアイテムは入手できません。)


ーーーーーーーーーー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで負けてるのかよくわからないですね…レベル差はあってもステータスの差や所持スキルの差があるのに…無意識に殺したく無いと思っているのですかね?
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