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守りの価値

つい先日やっと建て替えられた、真新しい二枚扉がノックの音を鳴らす。


「入りたまえ。」


セガネ王は、同じく真新しい玉座の上からそう告げる。


「失礼します。陛下。」


快い音をたてながら、二枚扉の片側が開かれる。

キチンと撫で付けられた短い黒髪の、眼鏡の男が玉座の間に入ってくる。

男の背後で、真新しい扉は独りでにそっと閉じられる。


「陛下。ケーリレンデ帝国より書状です。読み上げますか?」


「ああ。頼むよ。」


眼鏡の男、セガネ王の家来は、上等な羊皮紙に刻まれた、三千文字程の文章を読み上げる。


「…以上です。陛下。」


書状の内容は、懇切丁寧に綴られた帝国からセガネに対する宣戦布告であった。


「ふ…あと2年は先だと思っていたが…」


セガネ王は首から下げていた鍵のペンダントを使い、玉座の間のクッションを取り外し一枚の封筒を取り出す。

封筒は若干シワが付いているものの、至極綺麗な状態であった。


「玉座が破壊されているのが見つかった時は流石に焦ったよ。何せ、この紙一枚で数百万人の運命が決するのだからね。」


「では、とうとうあれを発令するのですね。」


「息子にはもう少し、楽な仕事をして欲しくてね。…今から議会に召集を掛けろ。“猫目喰みの律令”を発動する。」


「は!」


例え咎人が居なくとも、いずれセガネとケーリレンデの関係は破綻する。

セガネ王はそんな確信の元、あらかじめ戦争の準備を済ませていたのだ。

この書類へのサイン一つで、国土を守る為の要塞は起動し、各地の武器商人や軍需工場との契約は一瞬で完了し、国の地下の蓄えられていた兵器の数々はすぐさま起動準備を始める。

仮に負けたとしても、ただでは負けない程の戦力。勝利の可能性も十分存在する程の戦力だ。


そして更にセガネにはもう一つ、強力な追い風が吹いていた。

ティーミスが初級から上級までのダンジョンを独占した影響で、今は仕事を求める冒険者が溢れ返っている。

超級以上を楽々と熟す様な強者は流石に独占の影響は受けない故に雇うのは難しい。が、それでも冒険者は、頭数としてはかなり上等だ。


「…それと陛下、別件ではございますが、こちらを…」


家来は懐から、よく磨かれた桐箱を取り出し蓋を開ける。

そこには、緩衝材兼防音材として詰められた天然綿を纏った、ハンドベルが一つ。


「おお。それが何か分かったのか?」


「…王室の魔導師や学者が、文字通り束になって掛かったのですが…」


家来は、申し訳無さそうに研究報告書を懐から取り出す。


「お恥ずかしながら…このハンドベルに施された術式やルーンはどれも、明らかに時代を先行している物でして…分かったのは、このベルが不可壊性の金属で出来ている事と、相当高度な文明の産物と言う事だけでした。」


持った者の意志や感情を探知する為の、持ち手に刻まれたルーン文字。

特定の条件下で無ければピクリとも動かないクラッパー。

そして、金属の性質を示しながら、スプーンよりも軽いと言う明らかに符合しない重量。

無数の魔法術式が施されていながらセガネの学者達が解読できたのは僅か数個だけだった故、鳴らせば何が起こるかなどは依然として不明のままだった。


「…陛下、これを一体何処で…」


「ちょっとした知り合いから譲り受けた物だよ。」


「冒険者の方ですか?」


「ダンジョンには潜っているらしい。ただ、冒険者では無いだろうな。」


セガネ王は、桐箱からハンドベルを取り出し揺すってみる。

案の定、そのベルは歌わなかった。



〜〜〜



雪の降る空に、突如赤い亀裂が入る。

亀裂はやがて広がり、ナンディンによって内側から突き破られる。

目的地に到着したナンディンは、減速しながら螺旋を描く様に降下していき、やがて城跡の正面の円形の庭に降り立つ。


「…っと。もう着いたんですか。」


さっきまでティーミスは、名も知らぬ灰色の大地に居た。

その筈が現在は、フィフィ王国の跡地に居る。

紛れも無く、転移先に設備を必要としない瞬間移動。

転移魔法学のシンギュラリティに、ティーミスは知らず知らずの内に到達していた。


「…お城はちょっと直せば使えそうですね。後は…」


所々に、意図的に破られたと思しき窓ガラスがある。

恐らく、廃都泥棒が通ったのだろう。


「…リフォーム…いえ、リカントリーしましょう。」


ティーミスは指先から、赤黒色の液体を一滴地面に垂らす。

地面に垂れた赤黒色は、加速度的にその面積を広げていき、やがて庭全体に赤黒色の沼地、或いはプールが出現する。


“ポコポコ…”

“バチャ…”


沼地からは、やがて兵士達が湧き始める。

主に雑務の熟せる歩兵や、重機並みの力を持つ獣戦士を中心に生成し、時たま何かに使えるかも知れない放火魔も混じらせている。


「せっかくですし、他にも便利そうな方を…うわ、やっぱり多くなってますね…」


一気にスキルを習得した関係で、ティーミスはまだ自分が何を出来るか把握しきれて居なかった。


ーーーーーーーーーー


招集(テイク)石魔(ガーゴイル)

消費徴兵力・1体/100

強靭な耐久力と飛行機能を兼ね備えた、あなたの魔兵が召喚できます、

物理、魔法双方に高い耐性を持ち、飛行による機動力とその大きな図体を生かし防衛戦の中核を担います。

しかしながら、石魔自身は異能を兼ね備えて居ない上に、大型兵の中では攻撃力に難を抱えています。

攻めの際は、あなたや、あなたの重要な兵士の護衛などに配備するのが有効でしょう。


ーーーーーーーーーー


赤黒のプールが沸き立ち始める。

プールの表面が気泡によって膨れ上がり、気泡は弾け一対の大きな翼となる。

やがて、牛の様な短い二本の黒い角と、雨のシンボルが描かれた赤い仮面に覆い隠された顔と、赤いラインが其処彼処に入った黒い体と、強靭な二手二足も、プールから上がって来る。

身長は大体4〜5m程で、全体的に彫像の様な容姿をしている。


「…うん。」


石魔を見上げながら、ティーミスは一人で納得し頷く。

やはりティーミスの兵士は、どれも面白い程に役職を容姿で体現している。


「えー、では皆さん。これから、この跡地をお片付けします。防壁は多分まだ使えそうですので、何名かは見張りをお願いします。」


その言葉を切っ掛けに、ティーミスのリカントリー計画は開始された。

瓦礫は急ピッチで片付けられ、石魔はティーミスの読み通り空中運搬を担当した。

作業開始から僅か一時間で最初の更地が生まれ、片付けられた瓦礫はティーミスの元に集められた。


ーーーーーーーーーー


【瓦礫】×3を合成して、【建材】を生成しますか?

《はい》《いいえ》


ーーーーーーーーーー


「ええ。」


ーーーーーーーーーー


合成完了


【建材】

建築物を生成する為の基本材料です。


ーーーーーーーーーー


瓦礫はティーミスの手によってリサイクルされ、建材となって再び兵士達の手に戻る。

建材は全て、旧フィフィ城と外壁の修復、改造に回された。


ーーーーーーーーーー


あなたの制作した完璧な外壁にて、所有者の無い土地を囲う事に成功しました。

あなたは外壁内の土地の所有権を得ました。


ーーーーーーーーーー


「…にぇ?」


ティーミスは、自らの力で新たな土地を手に入れる。

全くの無自覚で。


次第に片付いて行く自らの土地を、ティーミスは城の最も高い屋根の上に腰掛け眺めている。

此処ならば石魔の運んで来る瓦礫を一番受け取り易いし、フィフィ全土を全方位で一望出来る。

否、もう此処はフィフィでは無い。

旧フィフィと呼ぶにも違う。


ーーーーーーーーーー


[名無しの土地]の名称を変更しますか?

(初回改名無料)


ーーーーーーーーーー


「……」


ティーミスはしばし悩んだ後、ふと思い付いた名前を入力する。

此処はもうフィフィでは無いし、アトゥとも関係無い。


ーーーーーーーーーー


土地の名称を変更しました。

[ユミトメザル]


ーーーーーーーーーー


こうして、ティーミスのリカントリー計画は僅か半日で大部分が完了する。

城の修復も間も無く終わる。

後は、この土地の使い道を考えるだけだ。

トルコ語の[Umut Mezar]と、日本語の[故認めざる]です。

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