罪科とは即ち
“ガアアアアアア!”
ピグナッツが敗れ、残るは聖獣マ=モス一体となった。
マ=モスが、ピグナッツに行ったバフは相当強力なもので、マ=モスは反動で先程まで麻痺したように動かなかった。
「…あと…一匹…」
今のティーミスのメンタルはとても戦闘が出来る状態では無いが、目の前に居るものはしょうがない。
「…やりますよ?《復讐の始まり》!」
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怒りが全て消費されます。
8291→0
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マ=モスに向けて、ティーミスはその憤怒の拳を振り上げる。
流石に神獣とあってその動きは素早く、ティーミスの拳は虚しく宙を横切った。
「《晩餐》」
その着地の隙を見計らい、ティーミスは素早く顎腕を生成しマ=モスを捕らえる。
マ=モスは単純な身体能力も高く、通常ならば、もがくだけで簡単に抜け出してしまうだろう。
“ギャアアアアア!?”
バキ…バキボキバキ!
《復讐の始まり》で攻撃力を強化していなければ、だが。
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ダンジョンクリア、おめでとうございます。
これより前回の位置付近にあなたを転送し、報酬の受け渡しを行います。
攻略、お疲れさまでした。
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暫しののち、ティーミスの視界は光に沈んでいく。
ティーミスが戻ったのは、ダンジョンに入る前に座っていた木の枝の真下だった。
赤い門は閉じ、無へと帰る。
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【憤怒の城跡】をクリアしました。
7802EXPと、サタンの小箱を手に入れました。
おめでとうございます、LVが8→16に上がりました。
スキルポイントを18獲得しました。
次のレベルまで、あと872EXP
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ティーミスは、両手にそれぞれ一つづつアイテムを持つ。
本物の炎の様に燃える、ピグナッツから取り出した魂と、手のひらサイズの赤い小箱。
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【焦土に燃ゆる命】
とある男の永劫の怒りの中で焦土と化した世界の中、真の命滅びても、本当の世界滅びてもなお、おのが使命を忘れなかった者の力強い命の炎。
分解することにより限定アイテムを手に入れることが出来る。(蘇生には使用不可)
【サタンの小箱】
憤怒の力が宿った強力なアイテムが手に入る小箱。
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ティーミスはピグナッツの命をしまい込み、小箱から使う事にした。
「…ん。んー!」
開かない。
鍵穴らしき物は見当たらないが、蓋同士が接着された様にぴったりとくっつき動かない。
スライドを試したり、どこかに絡繰が仕掛けられていないかも探したが、それは本当にただの蓋のついた小箱だ。
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このアイテムは現在使用できません。
チェスト系アイテムはスキル《強欲な盗掘者》習得で解錠可能になります。
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ティーミスはしゅんと肩を落とし、その小箱もアイテム倉庫に収納してしまい、右の頰をぷうと膨らましながらスキルボードを開く。
(ちょっと離れていますが19ポイントで…ん?)
ティーミスはとある項目を見つけた瞬間に目の色が変わる。
ティーミスの白魚の様な美しい手が忙しなく動き、グロテスクブラックなアイコンを立て続けに解放していく。
『強欲相』はその名に恥じず、全体的にアイテムの獲得に関するスキルが多い。
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『強欲相』
アクティブスキル
《盗人の礼法》習得コスト・3
10秒の詠唱後、一定時間あなたの姿や影、音などの全ての痕跡を隠します。
あなたが他のスキルを使った場合、この隠密状態は解除されます。
パッシブスキル
《無垢なる物欲》習得コスト・4
【奪取した命】獲得時、一定の確率で他のアイテムも獲得できます。
《強欲な盗掘者》習得コスト・2
チェスト系アイテムが使用可能になります。
また、【奪取した命】分解時のアイテムが一定の確率で増加します。
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目的のスキルは獲得したが、ティーミスの指はまだ動く。
《強欲な盗掘者》から真上に伸びる、六角形のアイコンに。“キー”の項目に。
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キープログレス
《罪科とは即ち》習得コスト 10+審判へと至る鍵×1
上下装備、【???】を獲得します。
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(上下…装備…!)
ゴクリ、とティーミスの喉が鳴る。
ここ数日間ずっと布一枚、ましてや2年間まともな服など一度も着れなかったティーミスにとって、それはある種の憧れだった。
本当に無意識に、ティーミスは右手に【審判へと至る鍵】を持ち、六角形の石板に突き刺す。
「…突き出して…反時計回りに回す!」
六角形の石板がバラバラと割れ、鍵は塵に消える。
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上下装備【命運よりの脱獄囚】を獲得しました。
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と、スキルボードの画面から放り出される様に、布の塊がティーミスに向かってぽいと飛び出す。
ティーミスは下敷きになってしまった。
「…これが、上下装備…あれ、でかく無いですか?」
ティーミスに渡されたのは、明らかに成人男性用のサイズの、黒と赤のシマシマ柄の囚人服。
試しに着てみるが、小柄なティーミスにはやはりブカブカだ。
「…これは…」
「おおガキ。イカした格好じゃねえか。」
「ジッドさん!?…だから、その呼び方やめて下さい!」
「あん?じゃあ、メスガ…」
「ティーミスです!」
「はいはい。…で、どうした?着ねえのか?」
「…見たらわかるでしょう。サイズが合わないんですよ。」
「はぁーこれだから近頃のガキは。工夫だよ工夫!」
ジッドがティーミスから囚人服を剥ぎ取る。
まずはズボンは普通に着せ、余った裾を縛る。その後ベルト代わりに上着の袖をぎゅっと結び、ズボンがずり落ちない様にした。
「っし。完璧だ。」
「…あの…本気ですか?」
ティーミスは胸を隠す様に腕を組みながら、左の頬をぷくりと膨らましていた。
このままでは半裸状態だ。
「ああ?ガキだし別に良いだろそんなもん。モ○ナ見た事無えのか?」
ティーミスは何も言わずに、森林を反射した深緑色の瞳でジッドを睨んでいた。
「はあ…わあったって。…確かーこの辺にー付録があった筈ー…と、これだぁ。」
ジッドはティーミスの黒赤囚人服のポケットから、黒革のベルトを引っ張り出しティーミスの胸に巻いてやった。
一番後ろにある止め穴に留め具を通した後、ジッドは二歩ほど離れ、パチンと指を鳴らす。
「完、壁、☆どだ?もう文句ねえな?」
「…胸元がちょっと心許ないですが、布一枚よりはまあましですね。」
側から見ればその絵図は、美少女と美少女にコスプレをさせる不審者だった。
「…と、誰か来たみてーだ。ま頑張れよ。可愛い脱走犯ちゃん。」
「……」
靄の様にジッドは消え、残ったティーミスも附近の藪に隠れる。
とその直ぐ後に、先程までジッドとティーミスの二人が居た地点にぞろぞろと兵士が集まって来る。
「おい、なんじゃこりゃ!」
「定時連絡が無いと思えば…!」
「これも、アトゥ植民区モンスター事件と関係が?」
「判らん。ただ、こいつは自然現象じゃ無いのは確かだ。
よく見てみろ。この地点を中心に地面が陥没している。収容所は、多分だがもう無い。」
崩落した階段を囲む様に、10人もの兵士が話している。
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《強者への嫉妬》が発動します。
体力以外の全パラメーター+1850
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「…?何者だ!」
兵士の一人が気配に気付き、短剣を一本、ティーミスの居る藪の中に投げつける。
短剣はティーミスの耳をかすめ、奥の木に突き刺さった。
彼らの中に最低一人は、ティーミスよりも明らかに実力が上の存在が居る。それも、ステータスだけではどうしようも無さそうな程の圧倒的強者が。
「…?女の子?」
腕で顔を隠し気味に、ティーミスが恐る恐る藪の中から現れる。
レンガ色のパサパサの長髪に、絶え間なくその色彩を変化させる美しい瞳。
その容姿とは裏腹に、下半身を覆うのは黒地に赤の縞模様の囚人服。上半身は、黒革のベルト一本だけを胸に巻いている。
「…?インプか何かか?」
「よく見ろ、こいつ、エルゴのガキだ!脱走犯だ!」
ティーミスは、ただ生きる為だけに、収容所から逃げただけだ。
逃げ延び生き延びる事が悪だと言うならば。ティーミスの生そのものが罪だと言うのなら。
罪人としての生しか許されないのであれば。暗く孤独な道しか残されていないと言うなら。
「《血の池の宴》《晩餐》」
ティーミスはその日、罪人として生きる覚悟を決めた。
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◇ティーミス・エルゴ・ルミネア◇
・LV16
・HP 1248(+1821)
・攻撃力 2216(+200)
・防御力 2099(+200)
・俊敏性 2180(+200)
・魅力 1000(+200)
・徴兵力 150/150
・怒り 0/10000
・血酒 /5000
次のレベルまであと
872EXP
習得スキル
パッシブ
・《無垢なる物欲》奪取された命獲得時、稀にボーナスを受け取れる。
・《強欲な盗掘者》チェスト系アイテムを使用可能になる。奪取された命の分解時アイテムが増加する。
アクティブ
・《盗人の礼法》
10秒間の詠唱後、一定時間ステルス状態に変わる。
攻撃を受けたり、逆に攻撃を行ったりした場合は解除される。
装備
【命運からの脱走囚】
罪科とは即ち、生である。
生きとし生けるものは全て罪過を犯し、罪過に塗れたその手で、厚かましくも神への許しを請う。
罪過とは即ち生である。生こそ最もありふれた罪過である。
この装備はあなたの基礎能力値の二倍の値を持ちます。