キライキライ虫
悪口を言われた時この人の中には、キライキライ虫がいるんだと思うようにしています。
今日かんたは、学校でとても嫌なことがありました。
それほど仲の良くない子に、いきなり「お前キライ」って言われたのです。
「ばあちゃんなら絶対、僕の気持ちわかってくれる!」
かんたは黒い雲がいっぱいに広がったくもり空の中、急いで家に帰りました。
今にも雨が、降りそうなあやしい天気です。
「はははっそりゃああんた、キライキライ虫が、その子の中に入っているね。」
かんたの話を聞いたおばあちゃんが、ごうかいに笑います。
「キライキライ虫って。」
かんたはタオルで、髪をふきながら聞き返します。
「キライキライ虫ってのはね。人の口の中に入って、人に悪いことを言わせてしまう嫌な虫のことさ。」
「ふーん。」
「ばあちゃんもね。若いころからキライキライ虫のせいで、いろんな事言われてきたけど、この人の中には、キライキライ虫がいて、悪い言葉を言わせてるんだって、頑張ったんだ。」
「ふーん。」
「だからその子をキライになっちゃいけないよ。」
「なんで?」
外では雨がザーザーと、降り続いています。
雨が窓をうちつける音が、部屋の中にひびていました。
「あいつ色んな子に、キライって言ってるんだ。クラス子みんなが、あいつのことキライだよ。」
「だからその子は、キライキライ虫のせいでキライって言っているだけなんだよ。ほかの子がキライって言ってもあんただけは、その子のことキライにならないで、あげなさい。」
「はーい。」
と、口では言ったもののやっぱりかんたは、キライといった子を許すことができませんでした。
「ぜったいゆるしてやるもんか。」
次の日、かんたは、学校に行きました。
教室の窓から外を見ると昨日から降り続いた雨もやみ、雲の切れ間から太陽が顔を出しています。
昼休みの時かんたは消しゴムを拾ったあいつが、落とした子に消しゴムを渡そうとして「おまえキライ」って言っている姿を見てしまいました。
そういえばかんたがお前キライって言われた時も、えんぴつを探しているときでした。
えんぴつはいつの間にかつくえの上においてあったので、すっかり忘れていたのです。
「もしかしてあいつ本当に、キライキライ虫に。」
「お前気に入らないだよ。」
「やっちゃえ。みっちゃん。」
「みっちゃんって、呼ぶな!」
その様子を見たかんたは、思わず声をかけてしまいました。
「ちょっと待った!」
「なんだかんた!邪魔するのか?」
「そいつには、キライキライ虫って、悪い虫が、ついてるんだ。気をつけろ、近づくとうつるぞ!」
「うそだ!」
「うそじゃない。今までそいつが、キライ以外の言葉をしゃべったの見たことあるか?」
いじめっ子は子分を見ました。子分は、フルフルと顔を横にふります。
「ないな。」
「じゃっじゃあ。」
「キライキライ虫がついてるって、言うのは本当の話……」
「うわぁーー」
いじめっ子はいちもくさんに、逃げ出しました。
「待ってよ。みっちゃん。」
子分が後を追いかけます。
「悪かったな。汚いものあつかいしちゃって。」
「ううん。ありがとう。助けてくれて。ぼく話するの、苦手で、いつもキライって言っちゃうんだ。」
「そうだったんだ。けど、あまり言わない方がいいよ。キライって言われるの結構きついから。」
「ねぇよかったら、僕と、友達に、なって、くれない?」
「しょうがないな。どうしてもって言うなら。」
こうしてかんたと新しくできた友達は、キライキライ虫をおい出す訓練を始めました。
クラスメイトに話しかける練習をしたり、虫取りしたり、おたがいの家でゲームしたり。
それは訓練とは、言わないものだったのかもしれません。
けれど二人にとって良い思い出に、なりました。
いつしか友達は人に話しかける時に、「キライ」と言わなくなっていました。
「かんた君。」
「なに?」
「実はね、話したい事があるんだ。」
「あっ!」
かんたは、驚きました。なぜなら友達の口から黒くてとげのいっぱい生えた虫が、飛び出してきたからです。
「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ。」
キライキライ虫は、どこかに消えていきました。
「特訓に付き合ってくれてありがとう!かんた君。」
「どういたしまして。これから、ぼくんち来てゲームやろう!」
「うん。」
それからかんたは「キライ」って言われても、相手のことをキライにならないようになりました。
相手をキライになるより友達になって、一緒に遊ぶほうがずっと良いですからね。
ありがとうございました。