第7話:突撃!隣の晩御飯
「ヤス君って何者!?」
「……は?」
俺は、学校に来て教室のドアを開けた途端、琴音に訳のわからないことを聞かれた。
「まぁ、俺が知ってることは……。人間じゃないってことかな?」
「そんなことは知ってるよ!」
「待て。俺は人間だ」
なんだヤス。もう、いたのか。
「そんなことは、どうでもいいのよ!」
「そんなことどうでもいいって酷くないかなぁ……。」
落ち込んでるヤスは放っておいてと。はて?じゃあ、どういうことだ?
「昨日、修司君置いてって二人で帰ってたらさ、サラッと金持ち発言したのよ!」
あ、やっぱり置いてかれたんだ……。ちょっと寂しいな……。って、金持ち発言したって?
「あぁ、ヤスの親父って虎島財閥のトップだもんな。金持ちだよ。ってかヤスなんて言ったんだ?」
俺は、琴音にそう質問する。だって、俺が見る限りあんまヤスって金持ちっぽいとこ見せねぇと思うんだけどなぁ。
「昨日帰りにさぁ! コンビニで買い食いしようって言ったら、色々奢ってくれたわけよ! しかも大量に!」
ほぅ、ヤスめ。俺には、奢ってくれないのに女には奢るのか。……あとで、タバスコ風船をお見舞いしてやろう。
「それで、もんだいはその後! 買ってくれたあと、『こんなにいいの?』って聞いたら、『あぁ、金なら腐るぐらいあるからいいよ』って言いやがったんだよぉ!ウザッて思ったね!なんか無性に腹立ったからローリング・ラリアットしてやったよ!」
相当キレてんな、琴音……。ローリングラリアットって……あんた、すごい力あるから怖いよ……。まぁ、もしもそんなこと言われたら、俺も腹立つけどさ!
「ということでっ!!今日は、ヤス君のお宅拝見!!」
えっ!?結局、それが言いたかったの!?
「えぇ!ダメだよ!俺ん家は無理無理!」
「え?なんで?別に実家行くんじゃないんだから。今のお前の家そんな豪邸でもないジャン」
なんで、コイツはこんなに焦ってるんだろう?女の子には見られて行けないものでもいっぱいあるのか?
「あれ、そうなの?てっきり、でっかいお城に住んでるのかと思った」
琴音が、首を傾げながら言う。なんでちょっと残念そうなの?やっぱ女の子は、お城とかメルヘンチックのがいいの?…………いや、琴音に限ってそれはない…………
クルッドスッ!
ロ、ローリング・ラリアットォォォ!?そうだった、この子思考読めるんだ……!時に、ヤスよ……お前はこんなのを喰らっていたんだな……。相当キツい……死ぬよこれ……。
「いや、普通の一軒家だよ」
ヤスは、平然と返事してる。……あれ!?俺のことはノータッチで!?心配ぐらいしてくれ!!
「じゃあいいじゃん!!」
「ダメよぉ!とにかく、私の家はダメなのぉ!!」
そう言いながら、ヤスは走って逃げて行った。オネェ言葉なってるぞ、ヤス。動揺しすぎだ。あれ……そうえば、俺もヤスの家ん中見たことないな……。これはなにかあるのか……?
「むぅ……怪しい……。 修司君!………………あれ?なにしてんの?そんなとこで寝てたら服汚れるよ?」
この子、自分のやったこと忘れてるのぉぉぉ!?あなた、俺になにしたよ!?思い出してぇぇ!
「まぁ、いいや。それより、なんかヤス君怪しくない?」
思い出してくれなかった……。なんか自身なくすわ……。
「……まぁ、怪しいっちゃ怪しいけど……」
「だよね!? よし……クククッ……」
……ん?この子なに企んでるの?すっごい、嫌な笑い方してるんですけど!
「……ヤス君の家に潜入よ!」
で、なんやかんやあって、現在時刻7時。今、琴音とヤスの家の前にいます。
「―――ということで、やってまいりました。虎島家です。はい、ちなみにわたくし、ヨネス……」
「そんなの、いいから早く忍びこんじゃおうよ」
そんなのって言われた……。ちょっとぐらい笑ってよ……。せっかく巨大なしゃもじ持ってきたのに……。
「それにしても、本当にシンプルな一軒家だねぇ。とりあえず……忍び込めるとこある?」
琴音は、辺りを見回しながら言う。まぁ、一番いいのは窓とかなんだろうけど……なんでヤスん家、窓ないの?すっごい不思議なんだけど。
「……とりあえず、裏側行ってみようか。もしかしたら、裏口があるかもしれない」
そういって、俺達は裏側に回ることにした。にしてもガーデニングがすごいな……。ヤスがこんなことするかなぁ……?
「……って、あった……。裏口だ……」
ドアノブを回してみる。…………開いたよ。結構簡単に入れたね。
「あれぇ?真っ暗だなぁ。あそこになんかでかい扉が見えるけど」
そう、中は真っ暗なのだ。とりあえず、横のほうにある扉から光がもれてるから、あっちに行ってみようか……って、あれ?琴音が動かない。
「おーい?どうしたの?琴音ぇ〜?」
琴音の前で、巨大しゃもじを振ってみる。
…………返事がない。ただの屍のようだ。
って、そうじゃない!なんで、固まってんだ?……なんでちょっと震えてんだ!?
「あ、あれ、なんだろう…………?」
そう言いながら、琴音は俺の後ろを指指す。……え?どうしたの?なにかあった?
疑問を持ちながらも、俺も振り返ってみる。
…………ゴーレムがいる。
えぇぇぇぇぇ!?ちょ、おかしくない!?家の中にゴーレムゥゥ!?目、光ってるよ!?しかも、なんか唸ってるから!
「って、危ねぇぇ!逃げるぞぉ!琴音ぇぇ!」
俺は、琴音の腕をつかむと、ゴーレムを無視して扉の方へと走った。
あれ?ゴーレム追ってこないな。まぁ、いい……よしっ!着いた!光が洩れてるから、誰かいるのか…………
ガチャッ
「………………間違えましたー」
バタンッ
あれ〜? なんかおかしいぞ〜? なんでメイドさんが見えたんだ、俺。
それに、ここはそんな大きくもないただの一軒家のはずだ。
よし、もう一回確認してみようか。
ガチャッ
……ヤスがいる。ただ…………ヤスと俺の距離が50M近く離れている。
『………………よぅ』
ヤスが拡声機を使って言う。いや…………
「よぅ…………じゃないよねぇぇぇ!?なんで家の中こんな広いんだよ!!!おかしいだろ!拡声機使わないと会話できない部屋って何!?東京ドームぐらいあるんじゃねぇか!?」
「あ、いや、東京ドームの1.2倍ぐらい」
んなこたぁ、どうだっていいんだよ!!俺が言いたかったのは、なんでこんなにでかいのかってことだよ!!完全に物理法則無視してるよね!?
「…………って、ちょっと!これ、どうなってるの!?」
あ、琴音ずっと固まってた?やっとしゃべったよ!
「え……?いや、空間を……ンッウンッ」
お前は、なにわざとらしく咳払いしてんだよ!?しっかり聞こえたよ!?空間って言ってたよねお前!!なにこれ、どこ○もドア!?
「もう、お前ん家わけわかんねぇぇ!!」
「……えぇーっと、家についてはツッコまないでくれ」
とりあえず、今はなんとか落ちついてヤスと話をしている。……東京ドーム並みの部屋の真ん中で。
「わかった……じゃあそれ以外で、いくつか聞きたいことがある……」
「なんだ?言ってみろ」
あ、なんかこいつちょっと偉そうなんだけど。えらい腹立つな。まぁ、今はいい。
「まず、メイドが何十人もいるじゃないか。一人貰うことにした」
「聞きたいことじゃなかったの!?それ違うじゃん!しかも、決定事項かよ!」
チッ……やっぱり、ダメか……。
「じゃあ、あのゴーレムはなんだ……」
「あぁ、あれはペットの太郎」
なにぃぃ!?ゴーレムをペット感覚ですか!?ってかネーミングセンスねぇなお前!
「あんなの、飼ってなにがいいの!?」
「結構、かわいいところもあるぞ?」
うわぁ……コイツいろいろ大丈夫か……?真顔なのが怖いんだけど……。
「……わ、私、もう帰るね?」
なにぃぃ!?琴音ぇ!逃げるのかぁ!?置いてかないで!この家怖い!
「じゃ、じゃあ、俺も帰るわ!……ってヤス!正面玄関どっちだ?」
「え?何言ってんの?お前ら、入ってきたジャンか」
え……?あんた何言ってんの……?大丈夫?
「いや……俺らが来たのは、裏口だろ?玄関は?」
「は?あれが玄関だぞ?太郎いただろ?」
「…………………………琴音、GO」
バキィッ!
「いったぁぁぁぁぁ!?は、鼻から鳴ってはいけない音がぁぁぁ!!」
琴音のエルボースタンプが、ヤスの鼻っ柱を直撃した。うん。すっげぇ痛そう。
「……仕方ない。帰るか。琴音」
「そうだね…………」
ヤスからしたら、勝手に家に入ってこられて鼻折られるって理不尽なことなんだろうなぁ。まぁ、俺の知ったこっちゃないけど♪
「……って、どうした?琴音?」
「…………………………」
あれ……?なんで、また固まってんの……?なに、嫌な予感するんだけど?
「……な、なんか聞こえる」
ん?なんか聞こえるって?まさか……この扉の向こうから?
バキッグシャッ……バリバリ
わぁ♪すごい音がしてる♪
「って……な、何が起きてるんだ?」
「見てみる…………?」
「そ、そうだな…………」
くそぅ!どうせ、ここを通らないと外に出られないんだ!なるようになりやがれ!
ガチャッ
あ、ゴーレムに俺の巨大しゃもじ食べられてる…………
なんか、コメディー要素強すぎるな……。