第6話:男勝りな女性
「おっせぇよ!ヤス!遅刻するだろうが!」
「なにぃぃ!?お前乗せてっから遅いんだよ!まず急がなくちゃいけない原因はお前だ!」
―――昨日と同じように、ヤスの自転車で二人乗りして学校へ向かっている。現在時刻は、8時25分。タイムリミットは、残り5分だ。ちなみに、遅刻の原因は日課になりつつある、女神との口論でした☆
「うるせぇ!とりあえず頑張って漕げぇ!」
「なんつー理不尽な!お前、あの前輪ない自転車乗ってけや!!」
あ、まだ落ちてたのね、あれ。
「いいから、頑張れヤスゥゥゥ!」
「残り2分……なんとか校門は通れたか……」
「ハァ…ハァ……俺もう死にそう……」
ん?ヤスが体力の限界みたいだ。仕方がないやつだ、まったく。
「まぁ、とりあえず教室行こうぜ。」
「お前は、気楽でいいな……」
そんなことを言いながら、校舎に入ると、怒鳴り声が聞こえてきた。
「………………誰かキレてんな」
「だねぇ〜」
ヤスはたいして興味なさそうに言う。そのあと昇降口で靴を履き替えて、階段を上っている途中、二人の人影を見つけた。
「ぁん?どうした修司」
「あいつ……綾川琴音じゃねぇか?」
「え?俺らのクラスの?」
「あぁ、お前がチェックしてたやつだ」
「……説教中か?やかましいな」
そう、怒鳴り声が聞こえたのは生徒指導の岡田が怒っていたから。そして、説教されているのは、1-B出席番号32番、綾川琴音だった。
「チッ……朝からあんな大声だしやがって。あんまいい気分しねぇな………」
俺は、そういうと鞄の中から"あるもの"を取り出した。
「って、ちょっ!おい、修司!それはやめとけって!」
ヤスの注意を無視して、俺は"あるもの"を岡田に向かって投げた。
パンッ
水風船である。
「な、なんだ!?グァァァ!目が痛いっ!!」
「よっし!ジャスト顔面!」
「いやいやいや!お前なにしてんの!?なんかあの水赤いんだけど!?ってかその前になんで鞄に入ってんの!?ねぇ!?」
「バレねぇうちに逃げとくぞ!」
「シカトかぁぁ!シカトなのかぁぁぁぁ!」
なんか、叫んでるヤスは放っておいて、俺は教室へと逃げ込んだ。
結局ヤスも叫びながら逃げてきたみたいだ。あ、ちなみに水風船の中身はタバスコです☆
「お前なにしてんだよ……」
「いや、なんかうるさかったジャン?」
「バレたらどうするんだよ……」
「ヤスのせいにする」
「おいぃぃぃ!それはひどいだろ!!」
「もう8時35分だ。そろそろ席座っとこうぜ」
「またシカトか…………」
あ、本気で落ち込んでないかコイツ?まぁいいか。その内立ち直るだろ。
「あ、冴上君!」
「ぁん?」
「ありがとね!さっきのあんたっしょ?いや〜ナイスナイス」
おぉ、綾川だ。……なんかこの子バカ笑いしながら背中叩いてくるんですけど!かわいい子だと思ってたけど男勝りだったのか…………
ドスッ
「えっ!?ちょ……初対面でいきなりレバーブロー……!?肝臓がぁ……」
「今、私のこと男勝りとか思ったでしょ」
なに!?この子も思考読めるの!?乙女先生と同じ特技持ってるよ!!
「ど、どうやって分かるんだ……?」
「勘」
ちょ!もし、違ってたらどうするのさ!?まぁ、あたってたけどさ!思っちゃったけどさ!!
「うぅ……にしてもレバーブローはないぜ……めっちゃ綺麗に入った……」
「あれ?どうした?修司」
うわ……復活したのかよ、ヤス……。
「えーっと、ヤス君でいいのかな?」
「え?あぁ、綾川さん?それは、いいけど……コイツどうしたの?」
「いやぁー、ちょっとレバーブローしただけ」
「え……?」
ドスッ
あぁ……ヤス……お前も男勝りとか思ったんだな……。
「いやーっ!メンゴメンゴ!もう、条件反射に近いからさ。悪口言われてると思ったら体動いちゃうのよ」
肝臓に一発入れられたヤスは、今お寝んね中。いや、お前よく気絶するね。ってか肝臓いれられても普通動けなくなるぐらいじゃない?
「マジで痛かったよ……綾川さん、あの、ボクシングとかやってたの?」
「あ、琴音でいいよ。」
「え……?こ、琴音……?」
「うん。そうだけど?」
な、何この急展開!期待してもいいの!?ねぇ!?あたい期待してもいいの!?
「どしたの?」
「あ、い、いや…………こ、琴音はなんか習ってたの!?」
「うんにゃ?やってないよ」
「うぇぇ!?マジ!?それなのにあの威力!?」
「あぁ、私昔から力強いの。ホラ見る?」
そういうと、あやk……琴音は机を二つ持ち上げたと思ったら、投げた。…………ってえぇぇぇぇぇ!?これ、お手玉!?あぶねぇよ!本当にこの子女!?いや、机をお手玉するような子を女とは呼ばん!!
ガンッ
「頭がぁぁぁ!い、いってぇぇ!ちょ!机は危ないヨ!?」
「本当にこの子女?いや、机をお手玉するような子を女とは呼ばん!って思ったでしょ」
勘なのに、なんでそんな具体的に分かるの!?それ、すごいよ!?
「あ、そうだった。お礼言いに来たんだったね。」
「えぇ?」
「ホラ、私が先生に怒られてたら助けてくれたジャン」
「あぁ、あれは岡田がうるさかったからやったことだから」
「いやぁ、でもありがと、ありがと。こっちは助かったよ」
「そ、そうかい……」
「……んぁ?」
ヤスが目を覚ました……。なんかちょっといい雰囲気だったのに!この野郎!!
「あれ……?なんで俺はここにいるんだ?確か、昇降口にいたような……」
気絶する直前の記憶が飛んでらっしゃる!なんで!?そんなに効いたのか!?レバーフック!
「え?え?あ、あぁ……ヤス君昇降口で急に倒れたんだヨ?」
アッー!この子嘘ついちゃったーっ!でも、目がすっごい泳いでるよ!?不自然すぎる!
「あぁ……そうだったの?」
信じちゃった…………。コイツ将来詐欺にあわないかな……心配だよお母さん……。
「まぁ、そんなことよりヤスくん。よろしくね!」
そう言いつつ琴音は、ヤスに握手を求める。いや、急にどうしたんだい?
「え?うん……なにが?」
「えぇ?親友っしょ?親友の親友は親友って言うじゃん!」
えぇ!?急展開!いつの間にか俺らは親友にされてしまったらしい!あと、普通は友達の友達は友達じゃない!?いきなり親友って関係深すぎるよ!
「え、あぁ……?修司って綾川さんと、友達だったの?」
「まぁ、ついさっきね……」
「ふぅん……まぁ、よろしく」
「うん!よろしく〜」
ピシガシグッグッ
あれ!? 握手じゃなかったの!? しかも、ちゃんと真顔でやってる! でも、そんなんじゃダメだよ! まず、YEAAAHって言ってからじゃないと!
「よしよし!んじゃ、もう授業始まるから。まったね〜」
そう言うと、琴音は自分の席に戻っていった。うーん、今思ったら女友達ってやつ、初めてだな俺。まぁ、あんまり女として見れないから、つるみやすいってのもあるな。
「修司ぃ……なんか……いいなぁ」
「あぁ……琴音は見た目は美人だしなぁ……」
「そうだなぁ……ん?」
「……どうした?ヤス」
「お前……なんで琴音って名前で呼んでんの?」
「次の授業なんだっけ?」
「おぉい!無視するなよぅ!」
「起立、礼!着席」
「よっしゃーっ!終わったぁ!」
「修司!帰るぞぉ!」
時は経ち、現在LHRが終わってあとは、帰るだけである!んでもって、ヤスと帰ることにしたのだが……
「あ、修司くーん!ヤスくーん!一緒に帰ろーぜー!」
遠くで俺達を呼ぶ声がする。まぁ分かっているだろうが琴音の声だ。しかし、恥ずかしいことこの上ない。こういうときは……
「よし、ヤス」
「そうだな」
「「スルーで!」」
とりあえず、二人で逃げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
なにぃぃぃ!?一瞬で追いついただとぉ!?今10メートル以上離れてたでしょ!?どんな、脚力!?
「ど、どうしたの?」
「今、逃げようとしなかった!?」
「いやいや、まさかぁ!一緒に帰ろうか!」
「え、あ、うん……」
結局、俺達は3人で帰ることにした。なんか、野郎から殺気を感じるよ!でも、ちょっと優越感!
「あぁー、今日は二人と友達なれて良かったよー」
う、嬉しいこと言ってくれるじゃないこの子!あたいもあんたと友達になれて良かったよ!
「あ、なぁなぁ、そうえばいつから二人は友達になったわけ?」
「え?あ、あぁ、朝いろいろあったのよ」
あ、そっか、そうえばコイツ記憶飛んでるんだ。……あれ?なんか忘れてねぇか俺?朝いろいろあった…………
ガシッ
「……冴上。ちょっと話がある」
あれれ〜?すっごい嫌な予感がするぞ〜?
とりあえず振り返ってみようか!うん!
…………………………………
ギャァァァァァァ!! 岡田センセェェェェ! 目が真っ赤ですよ!! 俺がやったんですけどね!!!それと、ヤスと琴音なんでいないの!?
「は、話とは、なんでしょう」
「朝、俺になにしたか覚えてるよな……?」
なんで分かったの!?誰か密告ッったのか!?く、くそぅ……こうなったら!
「タバスコ風船2号!」
パシッ!!
う、受け止めただとぉぉ!?この、近距離でぇぇ!?
「ほぅ……いい度胸しとるな貴様……!」
パンッ
投げ返されたぁぁぁぁ!ぐぉぉおぉ!先生の痛みが分かったぁぁぁ!
「目がぁ、目がぁぁ!(某大佐風)」
ヤ、ヤベェ目があけらんねぇ!あっ!?襟首つかまないで!やめて!引っ張らないでぇぇ!
「よし、逝こうか……」
行こうかですよね!?逝こうかって言ってませんよね!?あっ!どこに連れてくんですかぁぁ!
「アァアァァァアァァァアァァァァ…………」