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第12話 スケルトンさん、幽霊を呼び寄せる

 こんにちは。

 スケルトンことアルヴィンです。

 俺は今、多くの霊魂が捕らわれているという、とある大樹の根元に来ております。

 こちらの黒き森の新心霊スポット。

 つい先程まで巨大ムカデの巣窟(そうくつ)となっておりましたが、20分程前、無事に物理的な安全は確保されたため、一般開放されることとなりました。

 今日は霊魂専門家、チャーチグリムのカラさん監修の元、私、超霊魂引き寄せ体質のスケルトンのアルヴィンが、この場所に(ただよ)う霊魂に呼びかけてお話してみようと思います。

 では、「新心霊スポットで霊に呼びかけてみた」どうぞ。


「それでは冒険者の魂に呼びかけてみたいと思いまーす」


「不謹慎だぞー」

「危ないからやめろー」

(たた)られても知らんぞー」


「お前が言うなよ」


 一匹三役のガヤ役で盛り上がっているカラに思わずツッコミを入れた俺。


 こいつも無茶言いやがるぜ。

 俺がいくらアンデッドと言えど、幽霊とのコミュニケーションの取り方なんて分かんねぇよ。


 さっきのアンちゃんのお母さんは、めっちゃいい人だったし、成仏して行くような清らかなゴブリンだったから良かったけど、次は違うでしょ。


 絶対バリバリ迷える魂じゃん。


 この世に未練ありまくりじゃん。


 絶対めんどくさいよー。


「ほらぁ、いいから頑張ってくださいよー。生きてる人間より全然話分かりますし通りますって。普通にお願いして冒険者ライセンス見せてもらってください」


「にゃあん」


 うう…。

 レイローまでカラの味方なのかよ。


 だが、だが、未来の俺達の安心と安定のためだ。

 幽霊と話すくらいなんてことはない!


 俺は肝を()えた。

 そして、身体を大きく仰け反らせ、この巨大空間全体に聞こえるように声を張り上げる。


「すいませーん!冒険者の方ー!冒険者の方はいらっしゃいませんかー!」


 ふう、これで冒険者の魂がこの空間のどこにいても、俺の声は届くはず…


「ふー、やりきった」と額の汗を手の甲で(ぬぐ)う仕草をしてみせながら、俺は反らしていた身体をまっすぐに戻す。


 すると、いつの間にか俺のすぐ目の前に一人の人間の男が(たたず)み、虚ろな眼差してこちらを見下ろしていた。


「うおぉっ!?」


 突如(とつじょ)として現れた陰気な人物に対して、驚いた俺は思わず声を上げ、その場から二、三歩後ろへと跳び退く。


 腰を抜かしそうになっている俺の横で、同じく跳び退いたレイローも背中を丸くして全身の毛を逆立てた。


「ちょ、ちょちょ、今のは反則!めっちゃ怖いじゃん!」


「話は通じる」と言っていたカラの言葉を信じ、俺は両手を前に突き出しブンブンと振りながらも幽霊に訴えた。


 と、幽霊は突然表情を変え、人懐っこい笑みでニッカリと笑う。

 そして、


「あ、びっくりしました?幽霊ってこんな感じかなーって思って、頑張ってみたんスけど。思ったより成功したみたいで良かったっス」


 などと、実にイキイキとした様子で俺に話しかけてきた。


 なんなのコイツ。

 俺が言うのもあれだけど、ほんとに幽霊なの?


 全っ然、幽霊的な悲壮感を感じないんだけど。


「ほらぁ、やっぱり僕が言った通り、すっごくいい人じゃないですかー」


「しゃべるワンちゃんじゃーん!スゲー!お手して、お手!」


「はい、どーぞ。あ、すり抜けちゃいましたー」


「スゲー!!」


 ノリ、軽!

 二人共、ノリが軽過ぎる!!


 なんでそんなにすぐに打ち解け合えるの!?


 おじさん、ちょっと、そのノリには付いていけない。


「いやー、なんかさっきから、俺達のこと探してるっぽい感じがしたんで、とりあえずこっち的にはリーダーの俺だけ近くに行って様子見てくるって言う話になってたんスよー。いやー、いいヒト達でよかったー!人じゃねーけど!」


 え?

 お前がリーダーなの?

 めっちゃ心配なパーティじゃん。


「俺も、まあ、結果オーライと言うか…、怖くなさそうな幽霊でよかったぜ」


 俺の返事に、二十代前半位のイマドキの若者といった感じの幽霊は、輝くような笑顔を向けた。


 伸ばしっぱなしの(くす)んだ灰色の髪を無造作に(ひも)で結わえ、顔は無精髭(ぶしょうひげ)混じり。

 だが、笑顔の似合う好青年だ。


 いや、事実、顔どころか全身青色に発光してるんだけどな…。


 がっしりした体付きに、身に付けている年季の入った鉄製の胸当てや腕当てをといった装備を見るに、それなりの腕前であることは確かだろう。


 だが、見てるとなんか、心配になるんだよな。

 コイツの態度!


「あ!申し遅れて誠に申し訳ないっス!俺、ギシークラウト・マッカーリといいます!ギシーって呼んでください!享年23歳で生前は冒険者で戦士やってました!死因はムカデに食べられたってカンジですかねー」


 え、何?

 アンデッドの自己紹介って死因とかも言っちゃう感じなの?


「ああ、わざわざ自己紹介どうも、ギシー。俺は生前の記憶はあまり残ってないから、大した紹介はできなくて申し訳ない。今はアルヴィンと名乗らせてもらってるスケルトンだ。死因は…、なぁ、これ言わなきゃいけないのか?」


「アルヴィンさんってば律儀(りちぎ)ー!別に言わなくていいんスよー。俺、ノリで言ってみただけなんで」


 幽霊と関わると生気を吸い取られる、なんて話を聞いたことがあるけど、これは確かに吸い取られる…。


 めっちゃ疲れる。

 生気なんて持ってないけど、なんか疲れる。


 俺がげんなりしていると、そこへ二つの人魂がふよふよと(ただよ)いながらこちらへとやってきた。


「あ!おーい!、マチ!ピンネ!」


 その人魂達に元気いっぱいに手を振るギシーの様子から察するに、冒険者仲間なのだろう。


 人魂達はギシーを(はさ)むように俺達の前に立つと、青い陽炎(かげろう)をとなってその場でゆらゆらと燃え上がった。


 そして、陽炎(かげろう)の中からは、二人の女性の幽霊が現れる。


 一人は固めのツンツンとした栗色の髪をポニーテールに束ねた、(りん)とした顔立ちの戦士。

 もう一人は金髪を白いフードで(おお)った、優しげな垂れ目が特徴的な神官だ。

 二人共、ギシーと同じ年頃に見える。


 と、戦士の格好をした女性の方が、キッとギシーを(にら)みつけたかと思いきや、彼の(しり)に強烈な蹴りを一発入れた。


 パァン!


「迷惑かけんな!」


 空気が()ぜた音にびっくりしたレイローが再びその場で飛び上がる。


 (しり)を押さえてその場にうずくまるギシーの横で、神官の女性が深々とこちらへ頭を下げた。


「すみません。ウチのリーダーがやかましくして…。あ、猫ちゃんっ」


 あ、この神官は同志だな。


「はわわわわ…、もふもふ…、触れない。つらい…」


「ぬー、ぬぅー」


 ああああ、二人とも可哀想…っ


 カラとギシーの時もそうだったが、幽霊同士は殴れても、死者と生者だと接触できないのか。


 アンちゃんのお母さんは俺の手を握ることができたということは、死んでる俺は幽霊に触られるんだろうな。


 レイローの元にしゃがみ込み、しゅん、と項垂れている神官の()に同情していると、戦士の()の方が俺の方へとずいっ、歩み寄ってきた。


「アルヴィンさん。アンタ達の様子はムカデと戦ってる時から見させてもらってたよ。正直スカッとしたね!やっつけてくれてありがとよ。私はマチ・ネーベルク。よろしく」


「私はピンネ・ソリオーイと申します。失礼とは思いましたが、ゴブリンの女性とのやりとりも聞かせていただいておりました。私、今まで魔物には救う魂はないと、魔物は絶対なる悪だと、死ぬまでそう思って生きてきましたが、今はその考えは恥ずべきものだったと反省しております」


 二人共、えらい真面目じゃん!


 話ししてても全然疲れない!


「気にしなくていいと思うぜ、ピンネさん。俺も生前は魔物は人間を見かけたら理由もなく襲いかかってくるもんだと思ってたし。それから、マチさん。こちらこそ、そう言ってもらえるとムカデ達と戦ったかいがあったと思えるぜ。ありがとな」


「アタシも生きてた時は筋肉ばっかり見てたけど、スケルトンってのも割りかし悪くないね」


 そう言うとマチは俺へと熱いウインクを送ってくれた。


 マチさん、魔性過ぎるぜ。


「で、アンタはいつまで倒れてるんだい?もたもたしてないで早く立ちな」


「いてぇ!踏むなよ!ケツが更に分割されるだろ!!」


「マチちゃん…っ、そんなにガンガンお(しり)踏んだら、ギシーも立ち上がれないよ…っ」


 ヒールでガンガン踏みつけられ悲鳴を上げている哀れな男を見たピンネが、マチをなだめる。


「仲良しですねぇ」


「ほんとにな。三人は幼馴染か?」


「そうっス!三人共黒き森を抜けた先にある、港町タルツィアの町出身なんです!」


「ミリオンレッグは、ゴブリンだけじゃなく人間も食べ物にしちまうからね。放っておくと、そのうち町まで被害が出るかもっていうから討伐(とうばつ)しに来たってわけさ。まぁ、負けちまったし、おまけに食われちまったけどねー」


 あっはっは、と三人声を(そろ)えて笑っているのを複雑な心持ちで(なが)めていると、ギシーが声をかけてきた。


「そういえば、アルヴィンさん。なんか、俺達を探してたっぽいじゃないスか。なんか用事とかありました?」


 あ、そうだ。

 個性派三人に圧倒されていて、忘れかけてた。


 俺は三人に大ムカデの【鑑定】をし忘れたこと。

 魔物として生きていくには、とにかく情報が必要なこと。

 良ければ三人のステータスボードを見せて欲しいということを説明した。


 すると、三人は二つ返事で快く、自分達が打ち捨てられた場所へと案内してくれる。


「それにしても良かったよなー。あいつら意外とグルメでさー。冒険者ライセンスまで食われてたらステータス見せてあげられなかったもんな!」


「でもさ、服脱がされた時は流石に絶望だったよ」


「ギシー、マチちゃん、その話は身体がざわざわするから、やめようよ。今は、こうして死んでも三人でお話できることを喜ばないと…」


 ピンネさんの感性が一番まともだ。


 おじさん、君達が死ぬ直前の話を「昼、何食べた?」くらいのノリで話し始めたからびっくりした。


「僕、幽霊なのにこんなにイキイキしてる人達初めて見ましたー」


 今日は墓守犬にとっても初めてなことが多い一日らしい。


 でも、そうだよねー。

 幽霊ってもっと大人しいよね。

 俺の勝手な思い込みかと思ってたけど、やっぱりこの人達にぎやか過ぎるよね。


「ま、きっとにぎやかなアルヴィン様が呼び寄せたからですね」


 え?俺のせいなの?


 陰気な人が呼び寄せたら、この三人、もっと暗くなるの?


「そんなわけないだろ。こいつら、誰が呼び出したって絶対こんな感じだろ」


「アルヴィン様だからですよ」


「それ、いい意味で言ってくれてるんだよな?」


「当たり前ですよー」



 陽気な幽霊三人衆に連れられて、俺達の探索はもう少しだけ続く。

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