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第11話 スケルトンさんは、たくされる

 さてさて、ステータスの確認も終わったことだし、少し辺りの様子を見てから出ようか。


 別に好きで見物するわけじゃない。


 俺は魔物にはなったが、その辺りの感性は人間寄りだと思う。


 まあ、確かに少し、生前より神経が図太くなった気はするけど…。神経ないけど…。


 とにかく、ムカデの死骸だらけの場所を歩くなんて、本当は嫌で嫌で仕方がないが、欲しい情報がある。


 それは、大ムカデ達のデータだ。


 今回の戦闘での反省点は、感情に任せて行き当たりばったりで大ムカデの巣へ突撃したことだ。

 大ムカデが油断しきっていたから助かったものの、こちらの危険性を察知し待ち構えられでもしていたら、死んでいたのは俺達の方かもしれない。


 一応オブ=シディからムカデ達の特徴や数の情報は得ていたが、相手を知る上でレベルやステータスなどの【鑑定】も必要だった。


 次はいつ、今回のような大物と戦う羽目になるか分からない。


 そのために、今回倒した奴らの情報を得て、今後の参考にしたい。


 しかし…


「【鑑定】!」



 [【鑑定 LV.2】による素材の解析結果]


【ミリオンレッグの毒顎(どくあご)

 状態:やや悪

 麻痺に対する上級解毒作用がある。

 尚、薬品化には繊細な調剤能力が必要。


【サウザンドレッグの毒顎(どくあご)

 状態:やや悪

 麻痺に対する中級解毒作用がある。

 尚、薬品化には繊細な調剤能力が必要。



 とまあ、死んでしまうと素材としての鑑定内容しか表示されなくなってしまうようだ。


 やっちまったぜ。


 ただ、大ムカデのデータそのものは頂けないが、もう一つ俺達の実力を確かめる方法がある。


 それは、先にこのムカデコロニーに挑み、消息を絶った冒険者達のライセンスを見つけることだ。

 金属タグの形をしたライセンスには、ステータスボードを表示するシステムがあり、それが破損していなければ誰でも中の情報は開示可能だ。


 冒険者はその過酷な仕事内容故、任務の途中で命を落としても遺体を回収することが難しい場合が多い。

 そのような時は、仲間の冒険者や、後に遺体を発見した者がタグだけを持ち帰り、冒険者ギルドへと届ける手筈(てはず)となっている。


 今回はそんな冒険者達が残したであろうライセンスから、ムカデコロニーの実力を推し量るしかない。


 こんな散乱した場所ではあるが、冒険者の一人が持っていたという戦斧ならば、大きさもあるし見つかりそうな気はする。

 きっとその近くにライセンスも落ちているだろう。


「──というわけだ。二人とも、探せる範囲でいいから斧を探すぞ!」


「にゃー」


「はい!任せてください!…と言いたいところですが、ここは色々と臭いが混ざり合っているので、鼻で探すのは難しいです」


「まぁ、無理はしなくていいから」


「いえ、元々は斧を探しに来たから、この際頑張って探しますよ」


 そんなやりとりの後、俺達はムカデ達との戦いを行なった場所よりも、穴の更に奥へと歩みを進めた。


 大樹の根元にぽっかりと()いた巨大な空間の奥は、ムカデ達の食事場となっていたようだ。


 そこにはゴブリンのものであろう、いくつもの骨の山が築かれていた。


 うん。

 この辺り一帯のゴブリンを狩り尽くしたというのは間違いではなさそうだ。


 しかし、魔物の進化という行為は周囲の生態系を変えてしまう程の強大な力を持っているんだな。


 今回の件、もしこのまま放っておいたらムカデの影響は黒き森だけでは(おさま)らなかったかもしれない。

 できれば俺は野盗どもを狩り尽くした後はこの森で平和に暮らしたいから、今回こうしてムカデを駆除できたことはラッキーだったかな。


 そんなことを考えながら、俺がざっくりとゴブリンの骨の山を見て回っていると、ふと、目の前の一帯がぼんやりと青く光っていることに気が付いた。


「な、なんだ?」


 骨の山の中腹部に(とも)る淡い青色の光は、思わず上げた俺の声に反応するかのように光を強める。


 そして、するりと骨と骨の隙間(すきま)をすり抜け出てきた青い光は、音もなく俺の元へと降りてきた。


 ここまでくれば、流石の俺も光の正体が何であるかくらい理解できる。


 丸いフォルムにふよふよと後ろへなびく尻尾。


「ひ、人魂だ!うわぁ!人魂がでたぁ!」


「あー、ふぁいふぁい。ひふぉらまれすねー」


「カラ!!テメェは何、人様の大腿骨失敬してんだよ!おかげで俺が(たた)られそうだわ!!」


 すぐさま冷静に俺の元へと駆けつけてくれたカラ。

 だが、彼の口には状態の良いゴブリンの大腿骨がくわえられている。


「いえ、ほら、外にはオブさんやアンさんがいるので、持って行けませんから…。ここでサクサクっと食べちゃおうかなと…」


 うわぁ、サイコパス犬やぁ…。


「それは、流石にやめときなさい…?それに、なんか、俺の足が食われてるみたいに見えるからさ…。見てると足痛くなってくる…」


「はぁい。アルヴィン様がそう言うなら仕方がないですねー」


 話すために一旦地面に置いた骨を再び拾い上げたカラは、大腿骨を元の場所へと戻しに俺から離れていった。


 あ、待って。

 人魂と二人きりにしないで…。


「にゃーん」


 あ、レイローが来てくれた。

 天使かよ。

 ありがとう!


「……アリガト、ゴザイマス…」


「え?あ、骨の連れ去りの件ですか?こちらこそすいません。うちの子、食欲がすごくて…。悪い子じゃないんですけど…」


 人魂がカタコトで話しかけてきたので、俺もあわてて頭を下げる。


 カラとレイローののほほんとした様子から察するに、この人魂は悪いものではないようだ。


「イエ、ソウデハナクテ……」


 そこで、人魂はその姿を変化させる。

 下に伸びる青い陽炎(かげろう)のように揺らめいた人魂は、やがて、一体のゴブリンとして俺の前に立った。


 いきなり現れたゴブリンは人魂と同じ青い色で発光しているし、向こう側が透けている。おそらく、彼女はすでに亡くなっているのだろう。


 なめし皮のワンピースをまとった女性のゴブリンの幽霊は、小さく牙を見せながらニコリと微笑む。


「アナタカラ、ワタシノ カゾクノ ニオイ、シマス。マモッテ、クレタ デスネ」


 そう言ってゴブリンの女性は、アン=シディとよく似た優しげな目を細めつつ、俺の手を両手で握りしめた。


「アリガト、ヤサシイ カタ。《アン》ト《オブ》ニ サキニ テンゴクデ マッテルカラ、ユックリ タノシンデ、ツタエテ クダサイ」


 ああ、やっぱりこの人、アンちゃんのお母さんか。


 よかった。

 彼女をここから連れ出せば、オブやアンちゃんに会わせてあげられるじゃないか!


 しかし、そうこうしている間に、彼女の身体がどんどん薄く透き通っていく。


 あれ、これ、消える?


 (あせ)る俺とは裏腹に、アン=シディの母親は穏やかに微笑みを(たた)えたまま、言葉を(つむ)ぐ。


「フタリニ、アイシテル、ツタエテ クダサイ……」


「ちょ、ちょっと待ってくれ…っ」


 (かすみ)のように消え()く彼女を引き止めるため声を上げた俺だったが、そんな俺にいつの間にか戻ってきていたカラが静かに告げた。


「アルヴィン様、このまま逝かせてあげた方がいいです」


 普段とは違い、落ち着いた物腰で話すカラには、墓守犬としての威厳(いげん)のようなものが感じられる。


「この場所は霊魂にとっては、恐怖と哀しみの場所ですから、長く留まらせておくと、彼女達はアンデット化してしまいます。彼女は今、この不浄なる土地から自らの力で解放されて、天に登ることができる状態です。逝かせてあげてください」


 霊魂と関わりが深いであろうカラが言うなら、そのとおりなのだろう。

 ここで、無理に引き止めてしまうことで、アン=シディの母親を苦しめてしまうのなら、俺もそんなことはしたくない。


「わ、分かったよ…」


 俺はカラにうなずいて見せると、アン=シディの母親へと向き直る。


「俺がオブとアンちゃんにあんたの言葉、ちゃんと伝えておくぜ。あんたは先に行って、天国旅する準備して待っててやってくれ」


 そう送る言葉を告げた俺は、自由な方の手で力強く親指を立てて見せた。


「ハイ。オテスウ、オカケ シマス」


「あんた、めっちゃ、人語上手だな!」


「ジマンノ オット、オカゲ……」


 最後にそう言いながらアン=シディの母親は、俺の仕草を真似て親指を立てて見せた。


 そして、彼女は微笑みながら完全に空気の中へと溶け、()き消えて行く。


 最後にふわりと青い粒が舞い降り、俺の額に当たって消えた。


「いやー。こんな(けが)れきった場所で、あんなに綺麗な状態で魂が登っていくのは初めて見ました」


 カラがいつもの間延びした物言いで俺へと話しかけてくる。


「アルヴィン様はアンデッドにしては自我の強い(かた)ですから、きっと周りの霊魂にも影響を及ぼしやすいのかもしれませんねー」


 こころなしか、いつもより更に明るく弾んだ口調の彼は、軽く尻尾を振りながら宙を見つめている。


 墓守犬として、魂が無事に天へと登って()くのを見送ることができて、純粋に嬉しいのかもしれない。


「そっか」


 やっぱ、お前、いい奴じゃん。


 と、レイローがカリカリと小さく俺の(すね)の骨を引っ掻いてきた。


「にゃー、にゃー」


 レイロー。

 ダイレクトベンケイはダメよ。

 なんか、ぞわぞわしちゃう。


「なんだ?レイロー」


 俺の質問にレイローは、俺の右手に手を伸ばしながら「にゃん」と短く鳴いた。


 先程、アン=シディの母親が握りしめていた方の手だ。


「これ…」


 見れば俺の中指に、いつのまにやら髪飾りが引っかかっている。

 光沢がある布を何枚も重ねて作られた青い花の髪飾りだ。

 明らかにゴブリンが作った物ではない。

 おそらく、人間の落し物か、ゴブリンの戦利品の一部だった物だろう。


 しかし、彼女が俺にこれを(たく)したと言うことは…


「アンちゃんに渡してあげましょう」


「そうだな」


 いつか、オブとアンちゃんと、アンちゃんのお母さんと、三人仲良く旅ができたらいいな。


「あ、口から魂出てます」


「うぉお!!()まらねぇなぁ!オイ!!」


「ぬぅー」


 ハッピーになると成仏しそうになるの、これ、何とかならんの?


 両手で白い塊を口の中に()め込んで戻していると、カラが声をかけてくる。


「ところで。場の空気をアルヴィン様以上に壊してしまうのですが…」


 すいませんねー。

 口から魂出しちゃってー。


「仕方がない。許す!」


「ありがとうございまーす。僕、思いついちゃいました。斧とか、冒険者ライセンスが簡単に見つかる方法」


 マジか!


「なんだなんだ、勿体ぶらないで言ってみろよ」


 カラのお手柄に俺が思わずわしゃわしゃと首元をなで回しながら尋ねると、カラは尻尾を飛ばしそうな勢いで振りながら、彼が「思いついちゃった」案を(かか)げた。


「アルヴィン様が冒険者の魂を呼び出しちゃえばいいんです!」


 うん。

 うん?

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