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第8話 スケルトンさん、ゴブリンの骨と間違えられる

 黒き森。

 鬱蒼(うっそう)としげる木々が常に太陽の光を(さえぎ)る、薄暗く陰鬱(いんうつ)とした森である。


 日光を好む人間やエルフといったある程度文明を持った者達は一切寄り付かない魔の森は、魔物達が顔を合わせれば喰らい合う、弱肉強食の世界。まさに無法地帯であった。


 そんな黒き森のとある大樹の根元には、数年程前から大ムカデが住み着き始めた。

 体長は20メートルを超えた大ムカデ。

 彼はかつての家主、老いて盲目となったバジリスクを喰らい、代わりに大樹の主となった。


 大樹の根元にぽっかりと()いたうろは、大ムカデの大きな身体を簡単に収めることができる程の広さであり、彼はすぐにこの新しい住処(すみか)が気に入った。


 そんな大きな家に、大ムカデは沢山の手下達と共に暮らしていた。


 ここは実に快適で良い家だ。


 近くには()んだ水を(たた)えた泉があるし、好物であるゴブリンの巣も沢山ある。


 地層が()き出しの崖をくり抜いて作られたゴブリンの巣の入り口は、大ムカデが入るには小さ過ぎるため、彼自身が直接巣へと出向くことはない。


 しかし、彼よりも小柄な手下達ならば、容易に巣に侵入することができる。


 優秀で主想いな手下達は主人が腹を空かすことのないよう、いつも沢山のゴブリンを用意してくれた。


 特にその行為が徹底されるようになったのは、空腹を紛らわすため手下達を数十匹程喰らい、小腹を満たした時からだったか。


 とにかく、大ムカデはこの住処(すみか)を大層気に入り、幸せに暮らしていた。


 そう。

 今日という日までは。


 数日前、我が家に自分から身を捧げに来た、毛色の変わったゴブリンを食べ、その美味しさの余韻(よいん)(ひた)っていた大ムカデの元に、また、新たに(えさ)が自ら舞い込んできた。


 そう、この時に…、

 この時にちゃんと、彼は侵入者に向き合うべきだったのだ。


 しかし、彼は食べ応えのない(えさ)に対して全く興味を示さなかった。

 動くゴブリンの骨に、()せこけた狼。そして、小さな小さな毛玉。

 あの、格段に美味しかったゴブリン達の味を、まずそうな(えさ)で上書きしたくなかったのだ。


 それが、大ムカデの決定的な敗因であった。


 どうして、こうなったのだろう?


 身体中が痛い。

 今まで自分のためにゴブリンを運んで来てくれていた、優秀な手下達。


 彼らが自分の身体を(むさぼ)り喰らっているためだ。


 無数の足や身じろぎで振り落としても、その自慢の巨体で叩き潰しても、手下達は(ひる)むことなく次々と大ムカデの身体へと登り、外殻の繋ぎ目に自らの牙を立て、柔らかな肉を(えぐ)りとっていく。


 潰しても潰しても、裏切り者達は数を増すばかりだ。

 唯一幸いだったのは、彼らの毒顎(どくあご)が自分効かないということ。


 しかし、いけない。

 このままではいけない。


 大ムカデは、手下達の裏切りの原因を探る。


 そして、見つけた。

 小さな侵入者達を。


 ()せこけた狼が手下達の牙を避けながら、その背中に噛みつき、いとも容易く外殻を引き剥がす。


 動くゴブリンの骨が怪我を負った手下に指を差し、何やら叫ぶ。


 すると、怪我を負った手下が寝返る。


 まるで、作業だ。

 淡々と、淡々と行われる洗脳行為に、大ムカデは戦慄(せんりつ)を覚えた。


 手下を食べるでもなく、自分を食べようとしているわけでもなく、ただ殺そうとしているのだ、此奴(こやつ)らは。


 いけない。

 それは、いけない。


 なんと(おぞ)ましい奴らだ!


 まだ、まだ、自分は死ぬわけにはいかない!


 自分はこれからもずっと、この住処(すみか)で、美味しいゴブリンを食べながら手下達と幸せに暮らすのだ!


 とにかく、ゴブリンの骨だけでもを止めなくては!

 そうでなければ、手下に食い殺されてしまう!


 大ムカデは無我夢中で手下達を身体中に貼り付けたまま鎌首をもたげ、動くゴブリンの骨へと必殺の毒顎(どくあご)を放とうとした。


 しかし、大ムカデ自慢の毒顎(どくあご)は、ゴブリンの骨には届かなかった。


 大ムカデの決死の攻撃に気が付いた痩せこけた狼が、身の毛もよだつ咆哮(ほうこう)を上げたことにより、大ムカデの身体は強制的に引き()り硬直する。


 そんな大ムカデとゴブリンの骨との間に割って入った者がいた。


 小さな小さな黒い毛玉だ。


 黒い小さな毛玉は空中で華麗に一回転して見せながら、自分よりも更に小さな赤い玉を大ムカデの口の中へと放り込んだ。


 え?


 次の瞬間、大ムカデを襲ったのは今まで経験したことのない熱と痛み。

 身体の内側から肉を神経を脳を外殻を、溶かし燃やし尽くす恐ろしい痛み。


 自分の身が手下達にバリバリと咬み千切られる音と、死の足音を聞きながら、大ムカデは意識を闇の中へと落としていった。



 ─────────────



 おお!

 レイローが大ムカデを倒した!

 かわいいのにかっこいいぜ、レイロー!


 つか、めっちゃ今、危なかったよな。

 俺、完全に狙われてたじゃん。


 地面を揺らしながら崩れゆく大ムカデに、今更ながら恐怖を抱く。


 まぁ、力尽きたからいいか。

 今は目の前のムカデ達に集中だ。


 よし、後はローグガルムの時と同じ要領で同士討ちさせればいい。

 というか、洗脳済みのムカデが勝手にやってくれる。


「《群れで一番強いムカデを喰らえ》」


 あらかじめ、こう命じておけば大ムカデを倒した後も、呪言をかけ直さなくていいもんな。


【支配の呪言】、やっぱり便利だな。


 カラが体力を減らしてくれたムカデに【支配の呪言】をかけるだけの簡単なお仕事。


 俺に直接攻撃してくる奴は、今朝の朝食作りの時にレベル2になった【ボーンブレイド】でサクッと真っ二つに切れる。


 これなら斧も簡単に手に入るし、外で待ってるあいつらの頼みも聞けたし一石二鳥だよな。


 そうこうしている間に、ムカデもどんどん数を減らし、大樹の根元に入ってから1時間もしないうちに俺達以外に動くものはいなくなった。


 ゴブリンキラーである大ムカデことミリオンレッグと、ムカデことサウザンドレッグ。


 俺達は、ゴブリンだけではなく冒険者三名をも喰らった、凶悪なムカデのコロニーの制圧に無事成功したのだ。


『スケルトンのレベルがLV.7からLV.13に上がりました。【ナビゲーター】ボーナス発動により、常時発動スキル【毒無効】を取得しました。スキル【ボーンアックス LV.1】【呪殺の呪言 LV.1】を取得しました。スキル【支配の呪言 LV.4】【ボーンブレイド LV.3】を取得しました』


 よしよし、レベルがまた6も上がった。


 つか、セルフ斧ゲットしたんだけど。


 斧、探しに来た意味…。


 斧斧騒いでたからか、【ナビゲーター】さんがプレゼントしてくれたのか?

 剣と斧スキル上げていけば、スケルトンファイターの道も開けたりして…!

 夢が広がるぜ。


 それに、今回は人助けもあったし、カルマも下がらないはず……

 むしろ、上がるかもな!


 やっぱり、人助けっていいよなぁ!


『称号【腐れ外道 LV.5】【無慈悲な殺戮者 LV.1】を獲得しました』


 だから!!!なんでだよ!!!!!

次回、大ムカデさんとの戦闘前のお話。

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