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33 辛勝の後に

 不可視の棒がフェリノーツさんを突き、彼女が膝をつく。

 その時点でエレオノーラが勝負ありと判定してフェリノーツさんに治療を施し始める。


 直後、大歓声が沸く。


「あいつ、フェリノーツに勝ちやがった」

「〈槍術Ⅳ〉ってところだろうに、あの技はなんだ?」

「知らねえよ、お前聞いてこいよ」


 などと周りが騒ぐ中。

 背中に何かがのしかかって、そのまま地面に倒れてしまう。


「イリアスー! おめでとー! ありがとー!」

「アリアリア、イリアス倒れてるぞ」

「ごめん、すぐ退くから!」


 倒れたままなにもできずにいると、背中のアリアリアは慎重に俺の背中から降りていく。

 棒に縋ってなんとか立ち上がる。

 すると、腕を誰かが掴んで、思い切り上げる。


「勝者がそれじゃあ格好悪いですよ」


 こちらの腕を上げさせたのはフェリノーツさんだった。

 今にも泣きそうな、けれどどこか吹っ切れた表情を浮かべてこちらを見る。


「申し訳ないです……」

「……リアを連れて帰るのは諦めます」

「……負けたから、じゃなさそうですね」


 わーきゃーと視界の端でレイストフと騒ぐアリアリアを見て、フェリノーツさんはぽつりと言葉を漏らす。


「分からなくて大丈夫です。わたしの問題なので」

「そっか。決闘の条件なんだけれども」


 こちらが話を切り出すと、それを遮ってフェリノーツさんは言う。


「…………約束は守りましょう」

「俺としてはアリアリアと一緒に冒険ができればいいんだ。なんなら月に何度かは家に帰っても構わないし」


 偽らざる本心を語る。

 それでもフェリノーツさんは首を横に振って、違うんですと呟く。


「それはできません。……この期に及んでも、言えないことがあるのです」

「……分かった。何か重大な事情があるのは。それが何かは分からないけれどさ」

「……すみません」


 深々と頭を下げるアリアリアの幼馴染。

 彼女たちが何を隠しているのかは分からないけれども、事を大きくしたくないのだろうということは分かる。


 だから、俺はフェリノーツさんの目をしっかりと見据えて言うのだ。


「……とりあえずアリアリアを見定めてください。きっと誰よりも貴女に認めてもらえた方が嬉しいはずです」

「……わたしの完敗ですね」


 舌を出して猫のように笑うフェリノーツさん。

 決闘の前、そしてアリアリアを探している時にあった不安定さはなくなっている。


「それじゃあわたしは宿に戻ります。そろそろ他の冒険者の方が貴方と一戦交えたそうにしているので」

「えっ? いや、やらないよ?」


 多少素っ頓狂な声を出してしまう。

 勝負には勝ったけれども、それは有利要素を積みに積んだからで。

 実力でいえばフェリノーツさんの方が高いことには変わりがない。


 けれども、彼女は笑顔で告げるのだ。


「ほら、ここの人ってお祭り好きですから」


 エレオノーラに挨拶をしてフェリノーツさんはその場を辞する。

 気がつけばレイストフとアリアリアは訓練用の木剣やら槍やらの武具類を冒険者たちに貸し出していた。


 その後、再び魔槍を見せるまで俺は先輩冒険者たちに揉まれ続けた。



「では、アリアリアのパーティを残留を祝って――」

「乾杯!」


 ガン! と木杯を突いて各々注がれたものに口をつける。


「いや、お前の槍が盾を貫いて止まったときは冷や汗かかされたよ」

「頭が真っ白になって立て直すのに時間がかかったしね」


 レイストフがからからと笑いながらエールを口に運ぶ。

 俺もエールを飲むと、アリアリアはこちらに満面の笑みを浮かべる。


「あたしは負けないって信じてたけどね!」

「嘘つけ、お前祈ってただろ」

「それとこれとは話が別!」


 キーキーと言い争うレイストフとアリアリア。

 それを見てエレオノーラが破顔する。


「キミたちは本当に仲がいいなあ」

「誰がこんなちみっこと」

「ちみっこ言うな!」


 レイストフに食いかかるアリアリアを俺は抑える。

 正直喧嘩しているようにしか見えないけれど、エレオノーラはじゃれ合いだから気にしなくていいという。

 仲は悪くない、と信じたい。


「というか、どうしてイリアスの槍がフェルに当たったの? 防げると思うけど」


 ああ、そういえばアリアリアは見えているのか。

 迷宮で〈隠形〉を持ったゴブリンに出会った時も見えていたようだし。

 借り物である俺の隠形槍が見えていないわけがないのだ。


「あれは〈隠形〉のスキルで槍を隠したのさ。攻撃の一瞬だけ見えなくして、どこに当てるかを判断できなくさせたんだ」

「ま、オレはもう見切ったけどな」

「……課題点は多そうだけど」


 レイストフの言う通り、見切れないものではない。

 必殺必中の技ではあるが、それは見えていない者の話だ。


 レイストフのように得物の特性の把握や、俺の仕草や視線で見切ることも可能だ。


 それでも魔槍として成れば防ぐのは難しいだろうけれども。


 そのことを伝えるとアリアリアは感心したように息を漏らして頷く。


「へえー……。イリアスって色々考えてるよね」

「考えざるを得ない状況が多すぎるだけなんだけどな!」

「それはまことに申し訳ないです……」


 深々と頭を下げるアリアリアに対し、これ以上のトラブルを持ち込まれなければいいのだけれどと内心で呟く。

 これから先、迷宮を潜っていくうちに多く魔槍に頼っていくことにはなるだろう。

 けれども問題事を持ち込まれてくるのは対処する方としてはたまったものではない。


「本当にありがとう、イリアス。月並みな言葉だけど、勇気を貰った」


 ――でも、こんな風に感謝をされるならそう悪いものでもないのかもしれない。

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